閑話 四の君side
光の発案は中々斬新で素晴らしいものでしたわ。
この禍々しい格好なら誰が誰だか分からないでしょう。
私の鬼の面といい、「化け猫」やら「骨だけ人間」やら「野菜のお化け」の袋顔は今までにないものです。松明の代わりの「カブの提灯」とやらも素晴らしく恐怖心を煽るものだったのです。
私としては屋敷の家具を少し壊す程度でも良かったのですが、まさか、相手の家人が私たちを本物の妖怪と勘違いしてしまったのは予想外でした。お陰で私たちの犯行とは思われなかったので良しとしましょう。
「派手にやってきたね」
甥である東宮様が穏やかに微笑みながら問いかけてきました。
「私が火をつけた訳ではありません」
「そうなるように誘導したのにかい?」
「御存知でしたか……」
「四の君の性格を考えたら自ずと答えは出てくると思うよ。火付けとして捕まった家人以外は今も消息不明のままだと聞いている。世間では『鬼に魅入られた姫君』の話題でもちきりだ。四の君の事だから、話題の姫君が何処で何をしているのか掴んでいるのだろう?」
「東宮様には敵いませんね」
昔から、どうも東宮様には隠し事が出来ない。澄んだ目で全てを見透かしているかのようだわ。溜息を吐きながら、夫の恋人の存在が脳裏に浮かんだ。東宮様が言った通り、内気で大人しい姫だった。小さな花のように可憐で儚げな美少女。彼女の姿を見た瞬間、背筋が凍り付くかと思ったわ。
「その様子だと、相当、厄介な相手だったのかい?」
「……偶にいるんですよね。本人の性質に関係なく他人の人生を狂わしてしまう人が」
本人は善良な女人なんでしょう。
ただ、人を依存させる何かを持っている。そういう存在は否応なしに周囲を巻き込む。場合によっては自分自身をも巻き込んで厄介事の中心になっていたりする。そんな存在の縁を切るのは並大抵ではないし、影響を受けないでいられるのはよほどの「悪運」が強い人ぐらいのもの。
彼女とはまた何処かで会う事になるでしょう。
いつか、きっと……。




