閑話 藤の中納言side
「……父上、四の君を止めなくていいんですか?」
「なら、お前が止めろ」
「無理に決まっているではありませんか!」
「そうだろ」
父上と並んで、四の君が女房や下女に不思議な衣と恐ろしい被り物を身につけさせているのを眺めるしかない。これから四人の君は、夫の浮気相手の屋敷を襲撃する準備をしている。止めたいが止められない。
「女の戦いに男が口を挟むもんじゃない」
「父上……四の君の場合は物理で潰す気ですが……」
「それでもだ」
「本当に罪にならないのですか?」
「二の宮様が全て下準備を調えてくれた。儂も確認したが完璧なまでのお膳立てだ。あれでは検非違使も動けんだろう」
父上は死んだ魚のような目になっている。私も同じ目をしているだろう。こんな時、長男は貧乏くじを引く。弟達は既に逃げ去っているというのに。
我が家は他家とは違って「女」が強い。
どれだけ強いかというと、右大臣家の跡取り候補を産んだ側室が「あれ?何かおかしい」と感付き「生き残るには総領姫を筆頭とした姉妹と敵対してはいけない」と察するのに時間が掛からない。
揃いも揃って気が強く政治も明るく、その上に情報通ときている。
そんな女傑揃いの右大臣家の姫君たち。
右大臣家「最恐の女」は間違いなく総領姫だ。
だが「最凶の女」は四番目の姫だったりする。