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呪詛する少女


それを見つけたのは偶然だった。

内裏の普段使用しない建物の裏庭。


「っ~~~~~~~!!?」


とっさに両手で口を押えて悲鳴を押さえた。

犬の生首が鎮座している。


ぅ~~~~。


いや、辛うじてまだ生きているっぽい。


ぅ~~~ぅ~~~。


小さすぎる唸り声だ。

今にも死にそう……。

よく見ると、首から下は土に埋もれている。

え!?

なにこれ!?




「あら、残念ですわ」


突然の声。

可愛らしい声のする方向に振り向くと、そこには一人の少女が立っていた。


「見つかるとは思いませんでしたわ」


扇子で口元を覆い、面白そうに言う少女は犬の生首?まで歩いてゆく。


「これはもうダメね。あなた、中々目ざといですわね。見つかったのは初めてよ」


「え…と。何やってるんですか?」


「あら?分からない?『犬神』を創ろうとしていたのよ?」


「イヌ…ガミ…?」


「ええ」


イヌガミ?いぬがみ?犬神!?

それって呪いじゃね?


呪い関係は全く専門外だけど、この犬の生首?を見る限り、滅茶苦茶ヤバい物だということは推測できる。



「あなた、二の宮様でしょう?」


少女は僕の事を知っているみたいだ。


「あ、うん。そうでけど……」


「ふふふ。思った以上に綺麗な子ね。宮が自慢していた理由が分かるわ」


ずいっと、距離を縮めて僕の顔を覗き込んできた少女。

扇子で顔の半分を隠しているから目元しか分からないけど、美少女だ。


「宮……?」


「一の宮様の事よ」


「……え?異母兄上のこと?」


「二の宮様、行きましょう!」


右手をつまかれて、少女に引きずられるように連れて行かれた。

ずんずんと迷いなく歩いていく少女だけど、この子、誰?

その前に、この道何?

僕初めて通った道だよ?


「まさか、二の宮様に見つかってしまうとは思わなかったわ。何故、あんな人気のない場所に一人でいらしたの?あの場所は『鬼が出る』といわれる処で宮中の者も滅多に行かない場所だというのに」


え?

鬼?

知らなかった。


「あら?そのお顔では知らなかったのかしら?御所では有名な話よ?」


そうなの?


「知らないのも無理ない話かしら?二の宮様の母君は内裏で最も嫌われている女人ですもの。他の妃との交流も皆無と伺っておりますし、情報が伝達されていないのも仕方ありませんね」


グッ……その通りだ。

後宮というと女達のドロドロした場所と思われがちだけど、いや、実際そうだけど、それ以上に、妃同士の交流会という名の情報収集が行われている。

月ごとの宴、香合わせ、茶会、などで交流し合う。

そこで各自の御家事情に添った後宮内の情報が交差しているらしい(特に女御達の情報収集能力は凄まじいらしい)。


「もっとも、その情報をどのように使うかによってその人物の力量が問われる訳ですから、二の宮様の母君やお付きの女房達にはかなり難しい話ではありますわね」


「あの……」


「さぁ!付きましたわ!失礼しますわよ、宮!」


ガラッ!

少女が戸を開けたその先。


「戸は静かに開けないといけないよ、四の君。おや?光も一緒かい?」


兄上の第一皇子が居た。



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