兄の立太子
季節は春。
兄上が元服と同時に立太子した。
これで正式に東宮になったのだ。
何故、今かというと、病弱な叔父の東宮が病を理由にその座を退いたからだ。叔父は東宮御所という場所にいるから普段会う事は無い。
東宮を退く時、桐壺帝の御所に訪れて、弘徽殿の女御と兄上に会いに来ていた。
丁度、遊びに来ていた僕とも会った。
「君が二の宮かい…?普通に育っているね……」
ムッチャ驚かれたよ。
あの夫婦の息子だ。
まともに育ってる事が奇跡だと思ったようだ。
うん。それは概ね正しい。
見た目子供、中身が大人の僕だからこそマトモなんだ。
これが本家の光源氏なら確実に染まっていること間違いなし。
「東宮妃に姫宮が生まれてね。我が子のためにも長生きはしたいものだ」
この叔父は最近初めての子供が出来た。
既に数人子供がいてもおかしくない立場の方なんだけど、病弱である事と、帝になっても早々に退位されるのではないか、という噂が絶えなかったせいで入内する姫君がいなかった。
まぁ、先が見えない東宮の元に入内させる位ならば桐壺帝の元に入内させた方がマシと考えたんだろう。兄上が元服したから、今度は兄上の方に姫君達が押しかけてくるだろうけど。
「私に入内したばかりに苦労の連続であった東宮妃には申し訳ない。これからは親子三人で心穏やかに暮らしていくつもりだ」
叔父の奥さん。
太政大臣の一人娘で、16歳で東宮妃となり、17歳で姫宮を産んだ女御様。
未来の六条の御息所。
物語では三年後に夫と死別する事になるけど、そんな事は僕が許さない!
しっかりと専属の医師を叔父につけさせた(当然でしょ!)。
目を白黒させていたけど、僕の言いたいことは理解してくれたようだ。
「ならば、二の宮にまかせよう。兄上は祈祷師ばかりを紹介してくるからね」
やっぱりか!
病気の患者に必要なのは祈祷じゃなくて医師だぞ!いい加減にしやがれ!!!
源氏物語の中の叔父もパパ上のせいで早死にしたという疑惑が浮上した。
その後、叔父上は六条に屋敷を構え、宣言通り、親子三人で仲良く暮らした。
定期的に医師にかかっていたので三年後も元気な姿を見せてくれた。
六条に移り住んだことにより、叔父夫妻は、『六条の院』『六条の御息所』と人々から敬われた。夫婦揃って高い教養を持つ事から、文化人のサロンを開いている。




