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女房達の悪意


「このまま桐壺の更衣様に上にだけ寵愛が続き、更衣様だけに御子を産まれれば、更衣様の後ろ盾に成ると申し出る公卿が出て来てもおかしくはありません。

なにしろ、主上が桐壺の更衣様の後ろ盾になれる公卿を探していらっしゃいます。今の処、その成果は芳しくありませんが」


「ひょうばんがわるいものね(訳:評判が悪いものね)」


「それもありますが、太政大臣様がしきりに反対されていらっしゃるのが一番の理由です」


太政大臣が反対?

なんで?


「うだいじんじゃなくて(訳:右大臣じゃなくて?)」


「勿論、右大臣様も反対されています。右大臣様の御長女は弘徽殿の女御様。既に一の宮様もいらっしゃいますから、それも当然というものです。

太政大臣様の場合は、道理に合わない行動をなさる帝をお諫めている形なのです。

万が一、桐壺の更衣様に後見人が付いた時に起こりえる皇位争いを最も危惧してもいらっしゃるのです」


「こーいあらそい?(訳:皇位争い?)」


「はい。実の娘でない妃の後見人になるという事は、なんらかの思惑があっての事です。

特に、皇子を産んでいる妃の後見人になった場合、まず間違いなく皇位争いに参戦する事を内外に知らしめたも同然になります。

今は太政大臣様がそういった野心溢れる公卿達を抑え込んでいらっしゃいますが、桐壺の更衣様が再び皇子をお産みになれば大臣方と敵対しても構わないという公卿が出てきてもおかしくありません。

己の後見する妃の産んだ皇子が帝になれば

二の宮様には酷な話になりますが、桐壺の更衣様が帝の寵愛を受ける前の内裏は、弘徽殿の女御様の采配で妃様方に不公平が無いように管理が成されておりました。

その均衡を壊したのが他ならぬ桐壺の更衣様なのです。

時を置かず桐壺の更衣様は身籠り、二の宮様をお産みになって以降もその寵愛は深まるばかり。

まるで市井に夫婦のように朝夕と帝は桐壺の更衣様と二の宮様の御傍にばかりいらっしゃっいました。

帝の類を見ない御寵愛ぶりに内裏の形成は一気に変わったといってもいいでしょう。周囲も二の宮様が次の東宮候補になっていると認識される方々もいる始末です。もっとも、それに便乗する者が多いのも問題なのですが……」


「なにかあるの?(訳:何かあるの?)」


「二の宮様も既に御存知でしょうが、桐壺の更衣様付きの女房方の質はあまり良くありません」


「……(ぶっちゃけるな)」


「もっとも、質が悪いのは女房だけではありませんが」


「……(はい。男達は更に酷かった。まともな家人なんていないんじゃないかな?)」


「桐壺の更衣様は、帝の寵を得る以前から他の妃達から格下の扱いを受けておりました。同じ身分の更衣様方や、更に下位の更衣様方からも侮られていらっしゃったようです」


母更衣よりも下の更衣からも格下に見られていたってこと?


「なんじぇ?(訳:何で?)」


「桐壺の更衣様は入内の際に式をせずに内裏に上がられたのが原因でしょう」


ん?

式を挙げなかった?

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