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閑話 内大臣(蔵人の中将の父親)side 


「なんだと!?寝言を言うのも大概にせよ!帝を迎えに北山の寺院に二の宮様と共に出向いたと思ったら女に誑かされて戻るとは何事だ!!!」


「父上……」


「その田舎娘はお前の地位と財産が目当てだ!そんな事も分からんのか!!!」


「違います!かの姫君は私が内大臣家の息子だということは一切知りません!世慣れない姫なのです。幼くして父君を亡くし、尼になった母君の代わりに必死に女主人であろうとする姿に惹かれたのです。自分に仕えている者にも心を配って守ろうとする。仕える者の不始末は主人である自分のせいだと思う責任感の強い女子なのです。その一方で、自分を含めた家の者たちに対する侮辱行為は決して許さない誇り高さもある。私など姫君に刃で喉元を突き付けられたほどです」


「……物騒な姫だな」


「何を言いうのです!誇りを傷つけられたら屈することなく相手を殺す覚悟を持つ!自分の仕える者達も守ろうとする責任の強さ、相手を処罰するために武器を持つ気骨、惚れ惚れする誇り高さではないですか!」


「……だがな、お前には中務卿(なかつかさきょう)(みや)の姫君との縁組があるのだぞ?」


「お断りください!」


「なに!?」


「北山の姫君を『北の方』として迎えますので、中務卿(なかつかさきょう)(みや)の姫君を娶ることは出来ません」


「……(ひな)びた田舎娘は『側室』にして、中務卿(なかつかさきょう)(みや)の姫君を『正室』にすればいいだろう」


「お断りします!私の妻は唯一人『北山の姫君』だけであります!」


「……何時までも子供のような事は言うな。後ろ盾のある、両親が揃った姫君を妻に娶った方が今後の出世も期待できるのだ!なにより、お前を大事に扱ってくれる!!!」


「御安心ください、父上。私は出世に全く興味がありません!」


「~~~~~っ。少しは興味を持て!お前は私の一人息子なんだぞ!」


「お言葉ですが、父上。同僚たちは出世欲に取り付かれた輩ばかり。見ていて嘆かわしいほどです。お互いに競い合い高め合うならいざ知らず、相手の足を引っ張るばかりの輩など友とは呼べません。何度、世の無常を感じた事か分からない程です。しかし、北山の姫君を見て思ったのです。私の悩みなど取るにならぬ事なのだと。今を必死に生きている姫君に強さは私に世俗の尊さを教えてくれたのです」


息子よ……何を言っているのだ?

私には理解出来んぞ?


「既に我が家の宝剣も渡してあります!」


「……い、いま、なんと言った……?」


「はい。ですから家宝の宝剣を北山の姫君にお渡ししてきました!お互いの再会の約束として!」


「お、お、お……」


「父上?如何(いかが)されました?」


「愚か者!!!暫く謹慎しておれ!!!!」


「父上!?」


あの宝剣を田舎娘に渡しただと~~~~!?

アレはただの家宝ではない!


天智天皇様から下賜された品だ!藤原氏の直系の証ともいえる代物を!!







数日後――




はぁ~~~~~~……。

一人息子だからと甘やかした事はない。

大臣家の嫡男(ゆえ)に厳しく躾けたつもりでいたが……まさか女で(つまず)くとは。



大殿(おおとの)


生駒(いこま)か。先の按察使(あぜち)の大納言の姫君の件、分かったか?」


「はい。大納言家で尼になられた母君とわずかばかりの家人たちとで暮らしておいででした。

周辺の聞き込みもしてきましたが、美しく淑やかな姫君だと、悪くいうものはおりませんでした。とても若様が申されたような『女武将』のような噂は一切聞きませんでした。ただ……」


「なんだ?」


「どうやら姫君には将来を誓い合った良い人が居るという噂が……」


「なに!?」


まさかと思うがうちの馬鹿息子ではあるまいな!


「随分と身なりの良い男のようで、どこかの宮家の当主ではないかという話です」


ほっ。息子ではなかったか。


「なら、奴の片思いということか。

それなら話は早い。生駒、大納言家の姫君から我が家の宝剣を返して貰ってこい」


「畏まりました」


結婚の約束した相手のいる姫だ。

あの馬鹿息子も目が覚めるだろう。

なに、長い人生、女に振られる事の十や二十は普通にある事だ。






翌日――




「相手は、兵部卿の宮だと?」


「はい。ですが…どうも様子がおかしいのです」


「どういうことだ?」


「大納言家の女房たちから聞いた話ですが兵部卿の宮様の姫君への求婚は兵部卿の宮様の独り相撲のようなのです」


「そうなのか?だが噂になっておるのだろう?」


「はい。兵部卿の宮様は周辺で噂を流して姫君との婚姻を迫っているようなのです」


「……追い詰めて婚姻に持っていくつもりなのだろう」


「はい、そのようです。家人たちは勘気な本妻のいる兵部卿の宮様を婿として迎え入れるつもりは無いようですが、かといって他に求婚者もいらっしゃらない御様子でした」


「美しい姫君なのだろう?……兵部卿の宮か…」


「はい、兵部卿の宮様が『近々、亡き按察使大納言の姫と婚儀を行う予定だ』と吹聴しているのが原因のようです。他の者ならいざ知らず、流石に兵部卿の宮様を相手取って姫君に求婚する強者はいないようで」


うちの馬鹿息子は名乗りを上げたぞ?

しかし兵部卿の宮の想い人か…厄介だな。


「それと…」


生駒(いこま)


「若様が、先ほど馬にまたがって出て行かれたのですが……」


な、なに~~~~~~~!!!

あの馬鹿が!!!



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