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閑話 不埒者どもの末路


「うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」


声にならない断末魔が響く。

寺院の片隅で、ある実験が行われていた。


「やはり難しいですね」


「我が国には専門の機関が無いから仕方ないでしょう


「唐の書物を参考にしてやってみたが…上手くいかないものだな……」


「仕方なかろう、このような取り組みは初めてなのだから」


「そうはいってもな」


僧達が頭を悩ませている間も、聞き苦しい罪人達の唸り声が響く。


「かの国は何故このような難しい事が出来るのだ?」


「やはり伝統の技だろう。幸か不幸か、我が国にはこのような伝統は無いからな」


「ああ、去勢した直後で悶え苦しんで死ぬ者が多いな」


「唐の周辺でも宦官の文化は多い。一体この痛みをどうやって(やわ)らげているのか……」


桐壺帝の護衛及び付き人として北山の寺院に同行していた男達の多くは、表向き出家した事になっているが、実際は、二度と悪さをしないように、男の象徴を切断された後は、そっち系の多い寺院に出荷していた。


何故、そんな事をしているのかというと、北山の姫君達の住居区画に幾度となく襲撃してきた結果である。罪人達の罪状を指定したのが今上帝の愛児、二の宮というのも大きい。

どれだけ幼くとも皇子は皇子。

二の宮が決定した罰則には北山の寺院の僧達も全面的に支持した。

出家するにしてもだ、このまま理性無き男達を寺で野放しには出来ない、と考えていたからだ。女人が居なくなるのだから問題ない、と判断する者は、生憎、寺院にはいなかった。


「ぅぅぅぅぅぅぅぅ…ぅぅぅ…ぅ……」


次第に、か(ぼそ)くなってゆく唸り声は、遂に聞こえなくなった。

こと切れた遺体を前にしても僧達の会話は止まらない。


「今回も失敗か」


「失敗は成功の基とも言われている。千里の道も一歩からだ」


「そうとも。切断が上手くなれば生存率も上がる。

それに、彼らは既に出家した身だ。俗世に戻ることも無い。この山寺は修行僧も多くいる。修行で命を落とした事にすれば問題あるまい」


「そうだ、そうだ。異国の淫魔に取り付かれた輩だ。男女関係なく襲ってくる。

我々も何時襲われるか分かったものでは無い。女子ならば『女と同衾する不届き者』として破門に出来るが、男子の場合はそうはいかんからな。最悪、痴情の(もつ)れと判断されかねん」


「まったく、困ったものよ」


仏門に入ろうとも男同士の同衾は合法とされている時代である。

それ故に、男同士のトラブルの一番の原因は恋情が多かった。

三角関係の泥沼など日常茶飯事。

ある意味で俗世よりも汚れた世界であったが、衆道(しゅうどう)を『成人男子の嗜みの一つ』と真面目な顔で言い放つお国柄。誰も仏門たちの恋情に苦言を言う者はいない。



「本人の合意は必要だろう」



無理やりは許されない。

無秩序そうでいても一定のルールはあるのだ。



「それよりも遺体はどうする?」


「山に捨てて置けばいい」


「いや、そろそろ捨てる場所を変えた方が良いのではないか?最近、獣たちが寺院近くまで来ているぞ?」


「それなら、罠を増やそう。また大きい猪が捕獲出来るぞ!」


「なら、今夜はしし鍋だな」


僧達の頭の中は今夜の夕食を捕る事で一杯だ。

不慮の事故で亡くなった犯罪者は『俗世の浄化』という名目で、遺体を山の中に放置し、他の動物の餌になっている。

そうして、餌に困らなくなった動物たちは実にふくよかになり、寺院の仕掛けた獣用罠に引っかかり、僧達の胃袋を満たしていた。

これこそ、まさに自然の循環である、と僧達は満足げだった。


罪人が何人死のうと、それは彼らの因果応報、自業自得。

気に留める者は誰もいなかった。



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