閑話 ある下男side
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。
こんなのは現実じゃない。
俺は何も悪くない!
じーさんは男の象徴を切り取られた!
凄まじい絶叫が鳴り響く。
耳をふさぎたいのに縄で締めくくられ拘束されているからそれも出来ない!
痛みでのたうち回るじーさんの姿は俺達の姿だ。
次は俺達の番だ!
いっそ、舌を噛み切って死んでやろうかと考えたが、察しのいい男に布切れを口に突っ込まれてしまった!腰に刀を下げているからてっきり武士かと思ったら蔵人の中将様ときた。
なんでそんなお偉いさんがいるんだ!
そもそも、なんだって二の宮様がいるんだ!
ここの僧坊と庵室は距離があるのに…。
いや、問題は、あの二の宮様だ!
あれは童なんかじゃない!
確か、袴義を終えたばかりだと聞くが、あれは三歳のわらしのする事じゃない…一切の躊躇もなくじーさんの男の象徴を切り落としやがった!
未だってそうだ。
凍り付きそうなほど冷たい顔で、苦しんでいるじーさんを見てる。
ぞっとする。
あれが子供のする顔か?
俺にだって妻子がいる。子供は可愛い盛りの五歳だ。
だがな、あんな大人のような表情はしない!
冷めた目で見たりしない!
じーさんは遂に気絶した。
運悪く顔が俺のいる方向に向いていた。
苦しみに歪み切った顔だ。
二の宮様が蔵人の中将様と何やら話し込んでいる。
なんだ。
何が起こるんだ?
「誰か、典薬の助の手当をしてやれ」
蔵人の中将様の言葉に一瞬何を言われたのか理解できなかった。
手当……?
助けるのか?
なら、俺も助かるのか?
「二の宮様の命令だ。賊を楽にしてやるつもりは毛頭ない。二度と犯罪が出来ないように体にする」
先に動いたのは僧達だった。
じーさんの足首を持つとそのまま引きずってどこかへと連れて行った。
仲間の誰も一言も発する事が出来ない。
俺達を憎悪の目で見る女たち。
塵クズのように蔑む宮中に役人たち。
遥か高みで見下す皇子と中将。
ふざけるな…ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな!!!
俺達が何したっていうんだ!
ただちょっと羽目を外しただけだろ!?
ここまでされるほどの罪じゃないはずだ!
ああ、てめえらはいいだろう。
高い身分で、良い着物着て、良いもの食って、良い女を侍らせて!
下っ端にとっちゃあ夢のまた夢だ!
一度くらいいい夢見たっていいじゃねえか!!!
せっかく、うちのお姫様が皇子を産んでこれから運が周って来るって時に…まさか、お姫様の息子に人生を終わらせられるなんざ…俺はついてねぇ。親の代から大納言家に仕えていたのが運のツキだ。あんな気位ばかり高い貧乏公家、さっさとおさらばしておくべきだったんだ!
くそっ!!!




