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閑話 北山の姫君side


伯父上から寺院に滞在している者の正体を教えてもらった。

桐壺帝と寵妃の桐壺の更衣、その付き人たちである事を。

そして、数名増えた客は帝たちを迎えに来た第二皇子と、護衛の蔵人の中将だということを。


我が国で最も高貴な方々が内密で滞在しているとくこと。


だから何だというの?


獣のように朝から晩まで厭らしい声を出しているせいで、母上は寝込んでしまわれるし、他の僧たちも殺気立っている。そのことは伯父上が一番よく分かっているはずなのに!


それでも身分の壁というものは存在している。

先に手を出した私が悪い事も理解せているけど、母上が寝込んでいる以上、私が女主人。仕えている者達を安心させ、守る義務がある。彼女達を守るためなら、あの方々に頭を下げる事などなんてことない!






――控えの間――




「昨日は、大変失礼を致しました」


目の前にいる第二皇子と蔵人の中将に深々と僕と頭を下げる。端に女房達が控えているとはいえ、油断は出来ない。


「いえ、こちらが断りもなく僧坊に入ったのが悪いのです」


「全くです。それで、何の御用でこちらに参られたのですか?」


事と次第によっては容赦しない。


「あ、はい。実は、昨日偶然通りかかった処、雀が木から落ちてきまし…「チュン子!」…」


蔵人の中将が背中から雀を差し出したのを見て驚いた。

行方不明になっていた「チュン子」だったから。


「やはり、こちらの雀でしたか」


どうやら、蔵人の中将はチュン子を助けてくれた恩人だった。

チュン子を乗せた両手が私の前に差し出され、そのままチュン子を受け取った。


「チュン子、心配したのよ。勝手にいなくなってしまって…いけない子」


「チュン、チュンチュン、チュン、チュン(訳:たまには外に出てあそびたかった)」


「外は危ないとあれ程いったのに」


「チュチュン、チュン(この男の人は良い人。優しい)」


「庵室に滞在している方のお身内よ?」


「チュン、チュン(訳:関係ないよ。ご飯もくれた)」


「おかしな事は無かった?」


「チュ~~~ン、チュン(訳:彼はあったかい。信用できる)」


溜息をぐっと堪えた。

チュン子が信用できるというのならば信じなければ。


改めて、蔵人の中将と二の宮様を見る。


なる程。


流石、『楊貴妃もかくやの寵愛を受ける妃』と謳われる桐壺の更衣様の御子だけのことは有る。幼少ながら、大変な美貌。


蔵人の中将様は、彫の深い端正な顔立ちと鋭い目元をした殿方。

武芸の心得があるのか一部の隙もない。



「二の宮様、蔵人の中将様。チュン子を助けて頂いてありがとうございます。

また、先々の御無礼、誠に申し訳ございません。

お二方が許せぬと仰るのなら、この身を好きにお使いください。ですが、私に仕えている者やこの寺院の者は一切関係ございませんので、罰すると申すのなら、我が身一つでお願いしとうございます」



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