都合のいい女
数日後――
結局、元後涼殿の更衣が女房役として僕達のお世話係をしてくれた。
蔵人の中将は、あの後も、元後涼殿の更衣を追い出した人物が桐壺帝だと分かってない。
もしかしなくても蔵人の中将って鈍い？
たしか大臣の息子だって聞いたけど無能？
いや。それは無いか。
ムッチャ博識だし、腕も立つし、なにより僕の幼児語を理解できる数少ない人物だ。無能なわけがない。寧ろ、有能だ。
内裏の情報に疎いって考えた方がいいな。
「ちゅうきょう、こーひは？（訳：中将、更衣は？）」
「はい、主上からのお呼びがかかったとかで、出かけております」
呼び出し？
嫌な予感がする。
二時間ほどして元後涼殿の更衣は戻って来たけど、なんとも艶めかしい雰囲気を醸し出している。ナニがあったか察した。
蔵人の中将の顔も真っ赤だ。
「こ…こういさま…その……」
「よくあることでございます」
「え……」
「お上は、愛妃を経て以降、こういう行為に大変積極的になっております。宮中では愛妃以外は全くお手を付けていらっしゃらない状態なのですが、北山にきてからは嵩が外れたかのように淫らな行為に耽る日々でございます」
「「……」」
「私は比較的早くに入内しておりまして、主上とも長い付き合いでございます。気心がしれた間柄と、私が勝手に思い上がっておりましたが、後涼殿を追放されてからも、主上は私を忘れることなく、北山への同行も『ともに付いてきてくれまいか。気を許せる相手が傍にいればなにかと心強い。桐壺の更衣とも同じ更衣同士。桐壺の更衣の話し相手になってやってくれ』と仰せになったのです。」
ひでぇ。
よくもまぁ、そんなことを言えたもんだ。
てめぇが追い出しといて。
しかも部屋を乗っ取った相手の話し相手になれって……。
「北山でのお暮らしを大変気に入っていらっしゃる主上ですが、僧の方々から苦情を受けていた事も事実です。二の宮様や蔵人の中将様がご注進された道具により、主上は益々性欲的におなりあそばされました。『新しい楽しみ事が増えた』と申され、私も一緒に参加するように求められたのがきっかけでございます。二人よりも、三人でされる事の楽しさをお知りになったようですが、生憎と、愛妃は少々お体が弱いお方。主上の度重なる行為に寝込まれてしまう事も多々ございまして、最近では、愛妃がいない時も呼ばれるようになりました。ですが、勘違いはしておりません。私は、所詮、愛妃の代わりに主上をお慰めているだけの存在ですから
「「……」」
つっこめね～～～～！
なんなのそれ？
完全に『都合のいい女』扱いじゃん！
蔵人の中将なんて真っ赤だった顔が真っ青になっちゃてるし、「あ…」だの「その……」だの言ってる。言葉に出きない状態だ。
あああああ！
僧都たちの苦情を聞いたから、父帝に、まぐわう回数を減らすように進言したら「出来ない」の一択の答えしか返ってこなかった。
仕方なく、スルときは「布を口にくわえること」を条件にしたのが裏目に出た。
まさか、自分の父親にそっち系に興奮するタイプだ思わなかったんだよ！
元後涼殿の更衣は美人だ。
楚々っとした控えめな美女。
父帝の好みなんだろう。
桐壺の更衣が『儚げな美少女』だから。
こういった弱弱しい女性に加虐する趣味があったとは…夢にも思わなかった。
蔵人の中将なんて、すっかり元後涼殿の更衣に同情しちゃってる（まあ、気持ちは分かる）。
この分じゃあ、御所に戻ったら更なる両親の悪評が広まるのは決定したな。
