誕生
――二条の館――
「更衣様!しっかり!」
「気を確かにお持ちください」
「難産でございます。母子ともに危険な状況でございます!」
「祈祷師を増やせ!急げ!!!」
――御所――
「更衣の様子はどうなのだ?まだ生まれないのか?」
「御祈祷が上手くいっていないようです。
強い力を持った物の怪に取り付かれているようで……更衣様の産み月が早すぎる事も原因のようでございます」
「なに!?調伏できないのか!」
「どうやら執念深い物の怪の類のようでして、更衣様から離れようとなさらないのです。上手く“寄坐”に取り付いてくれればよいのですが……」
「更衣……」
――内裏――
「例の更衣の出産が思わしくないようですわ」
「なんでも物の怪に取り付かれているそうですわよ」
「まあ、恐ろしいこと。一体何処で恨みを買ったのでしょうね」
「嫌ですわ。あの更衣を恨むお方は大勢おりましてよ」
「わたくし達を差し置いて帝を独占した罰ですわ」
「後ろ盾の無い更衣の分際でありながら図々しくも帝を誑かした女狐ですもの。更衣の本性が物の怪の類であったとしても何もおかしくありませんわ」
「その場合、やはり『九尾の狐』かしら?」
「妲己の生まれ変わりと申されてもおかしくない振る舞いでしたものねぇ。きっと、そうに違いありませんわ。主上を肉欲でもって惑わしたなど化生に相違ありません」
「浅ましいかぎりですこと。下々の者は、わたくし達のような高貴な女人には分からない閨中の秘儀を持っていると聞きますもの。あの更衣もそれ相当の手慣れなのでしょうね。淫蕩の限りを尽くしたそうじゃありませんか」
「聞いた話では、帝に怪しげな薬を使って獣のように目合っていたとか。帝付きの女房がお二人を引き離さなければ一日中盛っていたそうですわよ」
「おぞましいこと。人の所業とは思えません。これから生まれてくる御子は果たして人の形をしているのかしら?」
「異形の姿形でもって生まれてくるのでは?例の更衣は気を失うのが大層お得意のようですから、我が子の姿を見て、失神するのではないかしら?」
「それこそ神罰ですわよ。今まで身の丈に合わない扱いを受け続けてきたのです。当然の報いというもの」
「ほんに、たかだか更衣の身分で身の程知らずな夢をみたのです。ここは夢のまま終わらせて差し上げるのが親切というもの」
「「「「「「ほほほほほほほ」」」」」」
――二条の館――
「お生まれになりました!若宮でございます!第二皇子の誕生でございます!!!」
御所:天皇が住む場所
女御:皇族や大臣クラス娘がなる。中宮の下の地位。
更衣:殿上人の娘がなる。女御の下の地位。