日ノ本のシンボルは鳳凰
兄上が五色の鳥を従えさせたという話がいつの間にか日本中に広まった。そのせいか鳳凰をかたどった紋や絵が流行した。兄上が建てた別荘の名前にも「鳳凰院」と名付けられたりして世は鳳凰ブーム一色。兄上の通り名が「鳳凰の帝」と謳われるようになった時は顎が外れるかと思った。
いつの間にか日本のシンボルは「鳳凰」になっている。
あれれ~おかしいぞ?
いや? おかしくないのかも……。即位式に使う「高御座」の頂点には金の鳳凰の飾りがある。
日本人は元々「龍」よりも「鳳凰」の方を好んでいたのかもね。だから本物が現れたもんだから余計にブームになっちゃったのかも。
「素晴らしい! これで唐から間違えて伝わった神獣の特徴が正確に伝えられる!」
歴史マニアたちは大喜びだ。
「本物を見ながら描けるとは何たる喜び!」
芸術マニアたちが涙を流しながら鳳凰をモデルにした作品を描いている。
「鳳凰様の五色絢爛な色彩を模した作品を造りたいものだ」
陶工たちが意欲を燃やしている。
後世で、日本と中国で鳳凰の絵姿に変化が生じる原因になるのだけど……この時は誰一人気付かなかった。中国だけでなく他のアジアとの「鳳凰のデザインの差」があまりにも違い過ぎて物議を醸す事になることを。中国の影響力が大きいアジアにおいて、日本だけが龍や麒麟ではなく「鳳凰」を尊重し重きを置いている。何よりも「帝の一番傍にいる鳳凰の絵姿」がある巻物や彫刻には各国の歴史家が首を傾げる事態にもなったのだが、それは遠い未来の話。
今を生きている僕達には全く関係ない話だった。