閑話 藤の大納言side
隣で父の右大臣が泣いている。
喜びの涙だ。遂にこの日がきたのか、と私でも感嘆しているのだから無理もない。
遥か昔の姉の声が聞こえるようだ。
「弟は、姉という存在に絶対服従することが世の道理です!」
笑顔で宣言するのは私の実の姉だ。
姉といっても同母ではない。異母姉だが歳が近いせいか何かと遊ぶ事が多かった。異母姉上は見た目は華やかで愛らしい姫君だが、中身が大変な益荒男だった。父上や周りは「可愛いお転婆姫」なんて思っているようだが、とんでもない! 異母姉上との遊びで弟である私の生傷と心の傷が絶えない!
姉とはいえ、男である弟を立てるのが普通だろう?
友人の姉なんかは皆そうだ!
我が異母姉上だけだぞ?
弟を従えさせようとするのは!
一度、世間一般の女人がどうであるのか話しても、
「まあ、我が国の最高神は天照大御神ですよ。ならば、弟である貴方達は姉である私に従うのは当然でしょう? 神話の時代から決まっていることです」
……異母姉上、神を引き合いに出すな。
我が父上は本気だろうか?
本気でこの異母姉上を入内させる気なのか?
この女傑としかいいようのない異母姉上が果たして後宮という魑魅魍魎の住処で暮らしていけるのだろうか…いや、その前に、主上に対して礼を欠くことをしないか不安だ。
心配は杞憂だった。
異母姉上は入内して一ヶ月後には後宮を掌握していた。
なにをどうやったらそんなことが出来るんだ?
異母姉上が「静まれ!」と言えば庭先の雀さえ泣き止むとまで言われている。
しかも主上に知られることなく。
異母姉上は主上の前では化け猫の皮を被っているようだ。
それがいい。
異母姉上の本質をしれば、如何に主上とて、恐ろしさのあまり儚くなってしまわれるかもしれない。
宣言通りに、異母姉上は男皇子を産み落とし、東宮に、そして帝になった。
有言実行とは、異母姉上のためにある言葉だ。