朱雀帝即位
やっと、やっとだ。やっと、兄東宮の即位が現実になった。
即位式の兄上は神々しい。
うちの国の三種の神器。『天叢雲剣』。その剣が登場すると、今まで晴れていた天気が俄かに曇りだし、パラパラと雨が降り出した。雨といっても本当に少しだから皆も気にしない。逆に『天叢雲剣』が現れたから雨が降って来たって思っている。『天叢雲剣』は、元々、天空に雲を発生させて雨をふらせる剣でその後は晴れてくるという言い伝えがあるため、逆に、先代の御代の穢れをこの雨で払ったと喜ぶ公卿も多かった(気持ちは分かる)。
その後、即位の儀式直前に雨が上がり、雲が割れ始め次々に光が差し込んできた。雨上がりのせいか、御所を覆うように虹がかかると同時に、近くで鳥が鳴いた声が聞こえた。
「おぉ!神々までもが今代の御代を祝福してくださっていおる」
「誠に目出度い」
「我らの目には見えぬが、御所の周りに神々が集まって来ておるのやも知れませぬぞ」
「ありがたいことじゃ」
「新しい時代の幕開けよ」
めっちゃ喜んでる!
僕は知らなかったけど、実は、神話の中に虹を渡ってイザナギとイザナミが下界に降りてきたという伝説があるらしい。虹は天界と地上世界を繋げる橋という訳だ。
なんとも目出度い事が重なった一日だった。
この事は都中に知れ渡り、新しい御代が幸多いであろうことに、喜ぶ人々で溢れかえった。
この時。誰も気づかなかった。
近くで鳴いた鳥の声の事に。
その鳥の正体を知ったのは数日後のこと。
我が国と鳥の長い長い付き合いが始まるのであった。