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flappers 1〜black side〜  作者: さわきゆい
31/34

逃走

やっと立っていられるくらいの本郷は、迎えに現れた面々に苦笑していた。

まだここにいることを突っ込まれたかべっちは、

「いろいろ巻き込まれたついでだ。とにかく急げ。早くここから離れるぞ!」

諦めたというか、呆れ顔で、引きずるようにして本郷を車の方へつれてくる。

いろいろ、聞きたいことはあるけど、まずはここから離れなきゃ。


「本郷、カギよこせ。そんなんじゃ、運転無理だろ」

「いや、オレの車、マニュアルだし」

自分の車は他人に運転させたくない、というのがアリアリの本郷だったけれど、

「お前、オレの仕事分かってっか?そのくらい、動かせるわ!」

かべっちにそこまで言われて、渋々、キーを渡した。

確かにそんなフラフラで、車運転される方が迷惑だ。


そのまま、本郷はミミちゃんとかべっちに、少々手荒にワゴン車の荷物スペースに積み込まれる。

あたしも急いで乗り込んだ。


途端に、

「ヨレヨレじゃん!」

運転席から、容赦ない声が飛んできた。

こちらを振り返っているのは、ショートカットの女性。

アシンメトリーな前髪に、ミミちゃんとはまた違う系統の個性的なメイク。

でも、彼女のことは誰だかすぐにわかった。

一ノ瀬(いちのせ)桜呼(さくらこ)


「なんで、お前が来てんだよ」

本郷は、ぶっきらぼうにそう言ってすぐ、

「助かったよ、サンキュー」

慌てたように付け加えた。

怒らせない方がいい相手と心得ているらしい。

「そうね。お礼、楽しみにしてる」

ちょっと高飛車な口調が懐かしい。

桜呼ちゃんは、あたしにはニッコリと愛想良い微笑みを送ってくれた。

なんでだろう…桜呼ちゃんは男女構わず、結構当たりが強いんだけど、あたしにはいつも優しかった。

気弱なあたしには、ありがたいことなんだけど。


深く息を吐き、側面に寄りかかる。

背中の当たり心地が悪い。

まだ、気持ちが昂っている。下手に声をかけられると、暴言を吐き出しそうだ。

なのに、本郷は

「お前、オレ運ぶのギリギリだったんだろ」

痛いところを突いてきた。

いいじゃん、助かったんだし。


「うるせ。あんたを下におろすまでは間に合ったさ。コミさんが来たから、楽させてもらったんだ」

自分でも、強がりなことは分かってる。

後ろの座席から、コミさんとミミちゃんが、わざわざ振り向いて笑う。

本郷、なんで、あんたまで楽しそうなんだ…


コミさんとミミちゃんは、楽しそうに顔を見合わせている。無言でも、なんか通じているらしい。

お願いだから、今はしばらくほっといてくれ。

逸らした頭を軽く窓へ打ち付ける。

早く、落ち着けよ、あたし。そう、脳を刺激しながら言い聞かせた。


「精神状態落ち着くまで声かけるな。…ったく、ウィンガーだらけだな…」

思わず漏れた呟きに、

「だよな〜」

と、返してきた本郷は、見た目からして、ぐったりしている。今にも寝そうな顔つきになっていた。


車道に出たワゴン車の後ろから、ボウン!と、低いエンジン音が響いてきた。

ハッと体を起こした本郷が、リアウィンドウから後ろの車を凝視する。

どんだけ、自分の車が心配なんだか…


「えっ…おい!何やってんだ?!あいつ…!」

声を裏返しながら、本郷が窓に張り付く。

何を騒いでるんだかと、あたしも体を起こして、後ろの車に目をやった。


あたしたちの視力でも、さすがにこの暗さでハッキリは見えないけど、ワゴン車のブレーキランプに時折浮かび上がるかべっちの姿は、ぼんやりした白い背景を背負っている。

あ、ああ!


「翼を出して運転すると…」

かべっちの言葉が思い出された。

うわ、ホントにやってんだ。

案の定、かべっちは少し前屈みの姿勢でハンドルを握っている。

あたしたちの視線に気付いたのか、ちょっとニヤっと笑ったように見えた。


途端に、ブオオオォォン!!

低い唸りをあげた本郷の車は、スピードを上げ、あっというまにワゴン車に並び、さっそうと抜き去っていく。

エンジン音は次第に高いトーンへと変わり、テールランプが滑らかな残像を描いた。


フゥゥゥ…ン!!

「もっと丁寧に乗れぇぇ!!」

あっという間に小さくなっていく愛車の後姿に、本郷は身を乗り出して叫ぶ。さっきまでのだるそうな顔はどこに行った…


「本郷!うっさい!!」

運転席から桜呼ちゃんの声が飛んでくる。

「黙って寝てりゃいいじゃん!」

「助けられといて、ごちゃごちゃ言わない!」

コミさんとミミちゃんが追い討ちをかける。

「お前らなぁ、」

言い返そうとした本郷は、振り返った3人の冷めた眼差しに、口を開いたまま声を飲み込んだ。

そのまま、無念そうな眼差しで、あたしを振り返る。

いや、あたしも別に同情とかしないよ?かべっちの運転、信用したらいいじゃん。

というか、かべっち、あの車、運転したかったんだな…きっと。


それにしても…車内はホント、騒々しい。


   ***********

ふと、小学校の裏の神社の光景が蘇る。

正確には、神社の跡。

火災で半焼し、お社自体は残っていたものの、何年も放置されていた。

子供には、格好の遊び場だったけど、学校では危険だからと、社に近付くのは禁止されていた。

だからこそ、社の裏の空き地は、ウィンガーになった同級生たちのトレーニング場所として最適で…

常に中心になって、意見を言うコミさん。それを支持するミミちゃん。桜呼ちゃんが(ちょっと言いががりめいた)批判を口にする。男子がそこにチャチャを入れる。女子が一斉に機嫌を損ねて、収集のつかない言い合いになる。

毎回、似たようなパターン。

学習しない、というより今になった思えば、あのやりとりを楽しんでいたのかもしれない。

あくまで、あたし個人の感想のだけど。


あたしは、いつも誰の肩も持たず、黙って成り行きを見守っていた。

口を出すタイミングも分からなかったし、第一、みんなみたいに自分の意見なんか持ってなかったから、口を出せるはずもない。

最後にまとめるのは、本郷か…西崎。

西崎音十弥(にしざきおとや)。背が高くて、スポーツ万能。勉強もできる。クラスの中でも別格な存在感があった。

知識と理論を基に吐く正論には、誰も何も言えない。

あたしが、もっとも苦手な相手。同級生の中で、もっとも印象に残っているヤツだ。

西崎にとっては、あたしなどその他大勢の1人だろうけど。

でも、卒業と同時に引っ越すことになったあたしが、

「ウィンガーとは今後関わらない」

ことを選択した時、真っ先に支持してくれたのは、西崎だった。


西崎自身も、小学校卒業後はアメリカに引っ越したはずだ。ただ、あたしと違って、西崎の場合はずっと同級生と連絡を取っている。本郷が教えてくれた。

今でも、みんなのリーダーというわけ。

**********


「ちょっと、そんだけ元気なら、何があったか説明してよ!」

「なんで、空飛んでたのよ?」

前の座席から飛んでくる質問は、本郷とあたし半々に向けられている。


「ねぇ、追っかけてこられたら、逃げた方がいいんでしょ?」

「この車でカーチェイスとかできんの?」

「なんで、私の車でそんなことしなきゃないの!それなら、全員降ろすわよ!」

そのくせ、あたしたちの言葉は待たれず、どんどん会話は流れていく。


…西崎なら、この現場、どうまとめただろう…?

思わず、苦笑いが浮かんだ。


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