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flappers 1〜black side〜  作者: さわきゆい
20/34

桜木隼也 1

 駐車場の入り口にはバリケードが置かれていたけれど、隙間から人が入るのは簡単だった。

 駐車場の奥に、3階建てのアパートのような建物が見える。あれが、職員寮だったところか…と、気を取られていると

「うおっ!」

 前にいた本郷が飛び上がった。


 目の前で、男の人が同様に驚いて身構えている。あ…!


「桜木さん!」

 あたしは本郷の前に飛び出した。


「え…な、凪ちゃん?!」

 桜木さんは、明らかにパニクっている。

 まさか、ここであたしが登場するとは思わなかっただろうから、当然の反応ではある。


「やっぱり、桜木さんも一緒だったんですね」

 あたしの言葉にも、動揺したままだ。そして、

「未生ちゃん、一緒に来てますよね?」

 そう言われて、ますます唖然とする桜木さんの顔に、徐々にバツの悪そうな表情が広がっていく。


「な、なんでそんな…未生が…連絡したのか…?」

 ああ〜、明らかにあたしに来られて都合が悪いのが分かる。


「い、いや…困るんだよ、オレ、仕事中だから…こんなところ、来ちゃダメだから…!」

 あたしが何も説明しないうちに、桜木さんは一方的に捲し立てた。

 いやいや、追い返したいの、わかりやすいな〜


 捲し立てるだけじゃなく、あたしの肩を掴んで、本郷ごと外へ追い出そうとしてくる。

 言うこと聞く気はないよ。


「まず、水沢の友達がいるのかどうか、答えてよ」

 あたしが手を振り払う前に、本郷が桜木さんの手を掴んだ。

 桜木さんの顔色が変わる。

 あからさまにムッとして、本郷の手を振り払った。


 一瞥して、どういう相手か判断している。

 本郷、見た目はいいとこのお坊ちゃん風だし、実際そうなんだけど、桜木さんと取っ組み合って負けるわけがない。

 見た目で判断は難しいですよ…


「とにかく、外に出なさい!」

 威圧的に出ればなんとかなる相手だと踏んだのか、桜木さんは強い口調であたしたちに迫った。

 今までの経緯もあって、その言動はあたしの反抗的な心を煽っただけだったけど。


「桜木さん!」

 あたしは躊躇しなかった。

 振り返った桜木さんと目が合った瞬間に、「言われた通りにして下さい!」

 ストレートに感情を言葉にのせる。

 反応は、思ったよりずっとよかった。


 桜木さんの目から感情が消える。

 少しよろめいたけど、しっかり立って、ただ、その体は所在なげに力が抜けていた。

 おお…翼無しでも、ここまで効くとは。


 我ながら、ちょっと気味が悪い。

 ただ…時間もかけたくない。この先は、力が必要だ。


「え…お前…」

 本郷が後ろで焦った声を出しているけど、気にしない。

 あたしは、あたしの黒い翼を広げた。


 桜木さんは、それでもぼんやりした表情のままだ。この翼が見えてるのか、見えてないのか…

 でも、あたしの顔に視線は向いていた。


「答えてください。未生ちゃん、どこにいるんです?」

 翼を出した途端、ほんの少しあった罪悪感は消えている。

 迷いが消えて、最適ルートが見えてくる感覚。

 そこから導き出された解は、『桜木さんは間違いなく、味方ではない』ということ。


「車の…中だ。まだ、眠ってるはずだから、問題ない…」

 寝ぼけたような声。

「眠ってる?なんかしたんじゃないか?こいつら…」

 本郷に言われるまでもなく…

 何やってくれたんだ!あたしの友達に!


「なんで、こんなところに連れてきたんですか?対策室に連れて行けばいいはずでしょう?」

 穏やかに声を出すのが一苦労だけど、状況確認のためだと必死に言い聞かせる。


「…須藤さんに命令されたんだ…下手すりゃ、密輸のことバラされるからな。言うこと、聞くしかないだろ…」

 …はっ?!今、密輸って言った?

 それはまた予想外の展開…と、桜木さんの口元が震えた。そこから、甲高い、下品な笑い声が漏れ出す。


「ヒャハハハ…そうだ、そういうことだよ!どうせなら、怪しげなことだって、金になった方がいいだろ!いい加減、コソコソ演技して生活するのは、窮屈でしかたなかったんだ!!」

 体をくの字に折って、完全に狂気の笑い。


 どんだけ…溜まってるんだろ…この人。

 どっちかというと、こっちの方が桜木さんの地だな。本心だ。

 どんだけキャラ作ってるんだ…


「おい、」

 桜木さんの様子に危険を感じたのか、本郷があたしとの間に割って入ろうとする。

「本郷、大丈夫だよ」

 あたしに危害を加えられる状態じゃない。

 というか、桜木さん自身がちょっとやばい。

 これは、さっさと聞くことを聞いてしまおう。

 あたし自身の言動をコントロールするがそろそろ至難の業になってきている。


 桜木さんの笑いがものすごく、癇に障る。

「ねえ、」

 前へ踏み出したあたしは、ほぼ反射的に桜木さんの襟首を鷲掴みにしていた。


「ナオさん…立山さんに、何する気だったんです?未生ちゃんまで巻き込んで」

 まだ薄ら笑いを浮かべているだらしない口元が、ゆっくり動く。

「立山?…立山は、須藤さんに用があるんだ…あいつが、金になる…未生…未生…?勝手についてきたんだ。オレだって、迷惑してる…」


 …コイツ…!!

「彼女でしょ!付き合ってるんでしょ?!危ない目に合わせておいて、迷惑って、どういうつもり?!」

「は…彼女か。女がいた方が仕事上、都合がいいこともあるって言われて、付き合っただけだ。顔も体も申し分ないけどな…」

 そろそろ、我慢も限界なんだけど…

「でもオレは、君みたいな従順な女の子の方が好みなんだ…」


 いやらしく下がってくる目尻と、よだれを垂らしそうな口元に、限界突破。

 あたしの右手は自分でも惚れ惚れするほどのスピードで、桜木さんの頬へ叩きつけられた。

 バシン!と軽快な音。


「あ、やべ…」

 つい、力任せにやってしまった。

 かなり筋肉質の桜木さんの体が、2メートルほど吹っ飛んで、地面に座り込んでいる。


「水沢、加減、加減!相手は一般人!」

 本郷、そう言いつつ、笑ってるし。


 あたしの場合、翼を出しても腕力や脚力はそれほど強くならないので、骨折したりまでは、いかないはず。まあ、それでも未生ちゃんにビンタされるよりは、よっぽど効いているでしょう。


 桜木さんは、夢から覚めたような顔で、あたしと本郷を見比べていた。

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