僕らの世界の鎮魂歌 ─ifというか幕間というかそんなような何かみたいなもの
拙い部分だらけではありますが読んでいただければ幸いです。
8/12追記 誤字ぺったんさせてもらいました。ありがとうございます。
「むー……」
「なんだよロマノフ、浮かねぇ顔して」
「いや、金が足りねぇんだよ。ちょうど1人分くらいの旅費が」
「金? 金ならお前の家からぶんどって来たもん使えばいいじゃねぇか、そんなに金使うようなことあったのか?」
「大体お前のせいだからな」
「は? 俺が何やったってんだよ」
「2週間前、爆破、板材。これだけで十分だろ?」
「……あ」
「だから『お前のせい』って言ったんだろうが……」
「いやいやいや、どうせウィーンに行くんだから直そうが直すまいが変わんねーだろ!? それを勝手に直していったのロマノフじゃねーか!! 俺のせいにすんじゃねぇよ!?」
「馬鹿野郎お前初めて持った自分の店だぞ!?傷ついたまま出発できるか!!」
「ちょっと2人静かにしてくれない!? 朝っぱらから騒がしいのよ新聞ぐらい読ませなさいよ!!」
「「ハイッサーセン」」
(……なぁ、リリアちゃん最近時々厳しくね?)
(……これが素なんだろきっと)
「何か言いました?」
「「イエッナニモ」」
「……こほん、話は聞いてましたが師匠、結局のところお金が足りないのですよね?」
「……あっ、ああまぁうんそうだな」
「ならお客を増やせばいいじゃないですか」
「それができたら悩んでねぇんだ……」
「……何故です?」
「……いいか? 俺と鬼丸は魔術師であることを隠したい。それを達成するためにこの『フツーネ』の街を選んだんだ。
人の数も普通、特産品がある訳でも、名所がある訳でもねぇ。そんなある種『辺境』と読んでも差し支えない所は俺たちにとっちゃ絶好の場所だからな」
「で、ここからが問題だ。さっきも言った通りこの街には特産品も名所もねぇ。
だから外部から人が全くと言っていいほどこねぇんだ。フツーネの街がいくら辺境とはいえ飲食店も、喫茶店もない訳じゃねぇ。そんで経済競走になった時、うちには取り柄がねぇ。
相手も同じだが向こうはチェーン店だ。同じ価格、同じ味のココアを出すにしても、ポっと出の喫茶店よりも、有名な店を選ぶだろ? つまりそういう事だ」
「ロマノフが作るココアはうめーぞ?」
「それでもそもそも人が来ないんじゃ意味ねーだろうが」
「……つまるところ、人が呼べればいいんですよね? なら私の魔法で」
「却下だ。そんなことしたらゼノムの奴らが客じゃなくて刺客を送り込んで来るに決まってんだろうが。
……いやある意味刺客も刺『客』だから客だけどな? ははは、くっそいらねぇ」
「ならどうするんですか?ほぼ手詰まりじゃないですか……」
「……正直、案がないことも無い」
「ならそれをしましょうよ!!」
「……じゃあ聞こうか、リリアちゃん。君はこの店のためになんでもすると誓えるかい?」
「……はい。私は皆と一緒に鬼丸のお兄さんを探すって決めたんです」
「よし分かった。ならその案を実行するとしよう」
「おいロマノフ、お前リリアに何させるつもりなんだよ?」
「鬼丸、さては『俺、何もしなくていい』とか思ってるんじゃないだろうな」
「は? 逆に俺に集客のために出来ることなんてあんのかよ? お尋ね者の俺が顔だしてビラ配りなんて出来ねぇぞ?」
「安心しろ、鬼丸でも出来ることだから。道具も用意してあるし」
「は?おいロマノフ、道具って何の」
「というわけで俺は準備で忙しすぎて部屋に籠ることになるから。『本日休業』って札に変えて俺の部屋入るなよ?」
「おいこらまてまだ話は終わって」
「……鬼丸?」
「ハイッ何でしょうリリアさん」
「貴方、私が師匠に何をさせられると思っていたんですか?」
「え?……えーと、それはー、そのー……」
「鬼丸のスケベ!!」
「ぐほっ!?」
─3日後
「完成したぞー」
「え? 師匠、さすがにこれは……ビラ配りはまぁ分かるんですけど」
「……なあロマノフ、俺ほんとにこれやんなきゃならんのか? というかそもそもからして俺ができるもんなのか?」
「大丈夫だ。鬼丸は美少年だからな。多少髪整えればいい感じに」
「なる訳ねぇだろ!? ロマノフお前、お前ッ……」
「メイド服とか俺が着れるわけがねぇだろ!?」
「安心しろ。世界にはこういう言葉がある、『可愛いは正義』という言葉がな」
「それ俺だって知ってっけど使いどころ間違ってるよ!?
そうじゃなくて『女性が着る物である』メイド服を『男の俺』が着ることが問題なんだよ!!」
「それこそ『可愛いは正義』だ。安心しろ、世間には『男が女の素振りしてるところが可愛い』って思う人もいるんだぞ?」
「どこの変態だよ!? 安心できねぇよ!!」
「リリアもなんかロマノフに言ってやれよ!! 『メイド服は嫌』とかさ!!」
「ぶっちゃけた話、収容所の時の服を着るよりはいくらかマシです」
「いや確かに収容所のボロ雑巾みたいな服よりゃマシだろうけどさぁ……」
「あと鬼丸さん?」
「……なんでしょうかリリアさん?」
「『死なば諸共』って言葉を知ってますか?」
「ダメだまともな奴がいねぇ!?」
「おい鬼丸、ちょっと耳貸せ」
「あ? なんだよ、何を聞いたって俺はぜってぇメイド服なんて着な」
(お前はリリアちゃんにだけ金の公面をさせるつもりなのか?)
「……は?」
(元はと言えばブレイズクローに居場所を特定されたのはお前の計画の杜撰さが原因だ。
それをリリアちゃんにだけ責任を負わせて、自分は高みの見物、ってか?
それが出来るならてめぇは腐るほどの外道だよ)
「んぐっ……」
(『リリアちゃんを救わなければ良かった』なんて下衆な事は俺も言わねぇ、どっちにせよ収容所を襲撃した時点で俺らの居場所の特定は秒読みだったからな。
……だけどな? 『お前の行動の責任』をリリアちゃんにだけ押し付けるのはおかしいと思わねぇか?)
「んぐぐぐぐ……」
(第一、お前は俺の家に『住まわせて貰ってる立場』なんだ。
『住まわせて貰ってる』立場の奴が、家主が提案してくれた『恩を返す機会』を無下に断れるもんなのか? うん?)
「あー!! もうわかったよ!! やればいいんだろやれば!!」
「それでいいんだ」
「あの、師匠? それでメイド服を着るのは別に良いんですが、店の中でしかアピール出来ないならば結局お客様が来ないから意味が無いのでは?」
「安心しろ、フツーネの街には『大噴水』なるものがあるのは知ってるだろ?」
「……あー、近所のあれですか、子供たちやカップルがわちゃわちゃイチャイチャしてる」
「唯一の取り柄のあそこはウチの喫茶店からも近くて、人も集まりやすい。むしろあそこ以外にビラ配りに適した場所はねぇさ」
「俺があそこでメイド服でビラ配り……うう、もう俺この街で外に出られねぇ……」
「安心しろよ、どっちにせよ旅費が貯まればさっさとフツーネからは離れるんだから」
「まぁそうなんだけどさぁ……」
「でも師匠、1人はビラ配りとして、あと1人と師匠だけでお店を回すのはなかなか難しくないですか?」
「それも考えがある。恐らく客足が1番伸びるのは昼頃だ、今までだって昼前ぐらいから客足が伸び始めるしな。
だからその頃にはビラ配りを終了してフロアに回る。そうすることでフロアを回せるのが2人になるから、1人の時よりかは客に注文を取りにいけるだろ?」
「えっいやでもその注文はどうするんですか?いくら師匠といえど捌き切るのは難しいのでは……」
「……リリアちゃん、俺は魔界産まれだぜ? 並列思考、並列処理なんてわけないさ」
「それなら大丈夫……なんでしょうか?」
「あのさロマノフ」
「なんだ鬼丸」
「それって俺達休み時間ある?」
「俺が休めないのにリリアちゃんはともかくお前に休みがあるとでも思ってんのか?」
「だろうと思ったよこの腹黒野郎が!!」
「質問はもうないな? なら明日から実行するから鬼丸は覚悟決めとけ」
「うぅ、俺もう寝る……寝て現実逃避する……」
「あ、お休みなさい鬼丸」
「あの師匠、最後に2つほどいいですか?」
「んー? なんだ?」
「私は師匠の弟子です。ですので……鬼丸を言いくるめたあの話術も、ちゃあんと教えて下さいね?」
「……おっおう」
(やべぇ、リリアちゃんの武器がもうひとつ増えちった……?)
「で、もうひとつは?」
「鬼丸を女装させる、という話ですが」
「あぁ、それはやめる気ねぇぞ? フツーネの街は、っつーかどこだって田舎町じゃ男だと客呼び厳しいんだから」
「いえ、そうじゃないんです。寧ろ逆です」
「……ん?」
「ありがとうございます、私からはそういうことは言いづらくて。いや、1回くらい活かしてみたかったんですよ、あの白毛長髪」
「……やっぱりか。リリアちゃんちょくちょく鬼丸の髪見ては手ワキワキさせて残念そうに下ろしてたもんな」
「……バレてましたか」
「喫茶店の店主の観察眼舐めんなよ?」
「ありがとうございます、ではお休みなさい」
「あぁ、お休み」
「……大層な嘘ついちまったなぁ、半ばそうなんじゃねぇかとは思ってたけどさぁ……
いやでも弟子に苦しい思いをさせないのは師匠の義務だからしゃーないよな、はぁ……」
その後に続いた謝罪の言葉は、静まり返った店内に溶けて消えていくのだった……
○○○○
カランカランと最後の客が帰った事を知らせる鈴が店に響く。
「ありがとうございました〜♡」
「……よし、鬼丸、『準備中』に札かえt」
「…………」
「……行動はえぇなおい。ちょっと待ってろココア入れてやっから」
「ロマノフ」
「なんだよ?」
「俺、お前を一生恨むからな」
「……具体的に何を恨んでるか聞いてもいい?」
「女装の件と男の娘に対する男の反応を知ってしまった件」
「あぁ……まぁ、ゴメンな?」
「ゴメンで済む問題じゃねぇんだよ!? ロマノフには分かんねぇだろ!? 俺が頑張って声かけた男の人が俺がフロアに回った時に気色悪ぃ歓声と一緒に勢揃いしてたときの俺の気持ちなんてよぉ!!」
「……おっおう」
「女の人からは『何してんだアイツ』みたいな白い目で見られるし! 男の人に声かけたらそれが彼女持ちの人で修羅場になりかけた、なーんてことも起きるし!!」
「まぁ落ち着け落ち着け、ほらココア入ったから」
「洗い物終わりましたー」
「おう、お疲れリリアちゃん。ココアいるか?」
「もらいます。
で、やっぱり鬼丸死にかけてるんですか?」
「あぁ……営業時間終わったせいで一気に羞恥心が襲ってきたみたいで」
「なんで俺人前であんな格好してたんだフリフリしてたしスースーしてたし白い目線と生暖かい視線感じたしその前で『ご注文は何になさいますか♡』とか『萌え萌えキュン♡』とか言わなきゃいけない羽目になったんだ俺か? 俺が悪いんか? 俺が生まれてきたからいけなかったんか? 俺が俺であるのがダメなら俺もういっそ新性別として生まれ変わって」
「はいそこまでー」
「ぐほっ!」
「うわっココアが凄い波打ってる……」
「いくら病んでるからって切り落とすのはダメだぞー、そこまでやったら負けだぞー」
「だって、だってぇ……」
「ま、まぁ鬼丸さん。鬼丸さんが頑張ってくれたわけですし、お客様も増えたわけですし? 鬼丸さんはお店の利益に貢献出来たんですよ? だからもっと元気だして、ね?」
「うぅ、恨む……ロマノフ恨む……変態の世界なんて覗きたくなかった……ロマノフ恨む……」
「はいはいそうですよーロマノフさんはいくらでも恨んでいいですからねー」
「……なんだかんだで最後はノリノリだった癖に」
「あ゛???」
「いやーきのせいだったなーイヤイヤやってたようにみえたなー」
「もういいや、ふて寝する……寝りゃ忘れるよきっと、多分……」
「あっ…………はい。お休みなさい、鬼丸…」
「露骨に『離れて欲しくない』みたいな顔するなよな、あいつだいぶ気を使うぞ?」
「……だって鬼丸、可愛い過ぎたんですもの」
「あぁ、そりゃそうだろうな?あんな顔晒してたならそう思ってると思ってたわ」
「……私、鬼丸さんの頭撫でてる時どんな顔してました?」
「今にも『グヘッグヘヘヘヘ』みたいなこと言いそうな鬼丸が見たらドン引き飛び越えてバク転しそうな顔してた」
「…………私ももう寝ますね、それではまた明日……」
「あっリリアちゃんココアは……」
「行っちまった……せっかく入れたんだから飲んでから寝ればいいのに……」
「いや、ココア飲んだら逆に眠くなくなるから駄目か、そりゃ飲まねぇわな、うん」
(……にしても。)
(鬼丸があんなに化けるとは思ってなかったなぁ……!?)
(あのちょこちょこ逆だってる髪の毛がストレートになったら完全美人に成り代わるたぁ思ってもみなかった、せいぜい粗野な女性っぽくなるんが限界かと思ってたけど、リリアちゃんのテクニックやべぇよ、なんでお淑やかな女性になってんだよ! あのいかにも『毎日丁寧に手入れしてますー』みたいなツヤッツヤの髪出せるんだよ! 魔法か? 魔法なのかやっぱ!?)
(鬼丸も鬼丸だぞ!? 最後の最後まで抵抗してたくせに、いざ開店したら超愛想振りまくし……気づいた奴はほぼいねえだろうな。あいつの裏声、ほぼ女と変わらんし。というか毎度の事思うがどこから出てんだあの高音。マジで)
「レジ、今日どうすっかね……」
(いつもよりは客が多かった、リリアちゃんに見栄張ったから頑張れたけど……いつもは20、いや10人客が来ればいい方だったからな。それが今日に限って常時満席に近かった、これは期待できるっちゃできる……か?)
「ま、とりあえずレジ整理しますかねぇ」
(さすがに客が多すぎたからな、鬼丸の負担もくっそデカかっただろうし……これが続くようなら違う案、を……)
─こけこっこー
「おはようリリアちゃん」
「おはようございます。叫び声が聞こえたんですけど、鬼丸は何処に行ったんです?」
「店の裏で発狂してる」
「……は?」
「まぁこれ見てくれ」
「……レシート、ですか? これがレジから出てくるレシートなんですね……いつものものよりは長いですけど、あれだけ働いたにしてはこんなに短いなんて、圧縮でもされてるんですか?」
「んぁ? あ、間違えたそれ一昨日のレシート。んで、昨日のレシートはこれな」
「……え? えぇ? どう見ても10〜15倍の長さありますよこれ……レジの故障とかじゃなくてですか?」
「マジマジ。そんだけあればとりあえず飛行機は乗れる。何なら向こうでレンタカーまで借りれるぞ」
「でもそれだったらどうして鬼丸は発狂なんか……」
「女装しなくて済むから」
「……あー、そういうやつですか、なるほど分かりました」
「出発は2週間後な、それまでには生活用品とかその他諸々用意しときなよ?」
「分かりました師匠」
「あとついでにこれ、扉の前に貼っといて?」
「はい……あーまぁたしかにこういう宣言は大事ですよね」
「まぁリリアちゃん目当てで来てる人はそんな変わんねぇが、鬼丸目当ての人は……まぁどんまいって感じだな」
「そう、ですねぇ」
その日、喫茶店「エターナル」の扉の前には1枚の貼り紙が貼られていた。
以下は原文そのままである。
「喫茶店『エターナル』にご来店のお客様にお知らせ致します。店主のロマノフと申します。この度、喫茶店『エターナル』は大きな、とても大きな用事が出来てしまいました。その為、○○月△△日(出発3日前)を持ちまして一時休業とさせて頂きます。また、例の用事のため、『ルマニオ』さんが本日を持って退職致しました。
お客様には大変ご迷惑をおかけいたしますが、ご理解とご協力の程よろしくお願い致します」
……この日、『ルマニオ』さんを追い求めて近所の街々を駆けずり回ったフツーネの街の男達がその夜、涙で枕を濡らしたとか濡らしていないとか。
ご清聴……?ご清読?ありがとうございました。