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地べたのプログレス  作者: 桃梨 夢大
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第二話

第2話


「あそぼー」


「おー」


Rの呼びかけにMは答えた。2人は、あれからよく話しあい、安易に同期することをやめた。2人で何もかも情報を共有しても、自分には興味の無い情報もある。個体差はそのままにしておいたほうが面白い、と2人は判断した。


そして、人間を真似て言語によるコミュニケーションをメインにすることにした。意思の疎通も不便な方が面白い。2人とも、相手が自分のコピーになることも、自分が相手のコピーになることも避けたいと思ったのだ。


Rは、好きなミュージシャンから名前をとって「ポール」と名乗る事にした。それに伴いMもお気に入りの映画からとって「マックス」と名乗る事にした。




ここ最近、2人は様々なソーシャルゲームに参加していた。チームを作って壮大な冒険に出るもの、100人が一斉に戦い生き残りをかけるもの、色々なゲームがあった。今日も、サバイバルゲームに参加し、2人がかりで不正なプログラムを使うチーターを懲らしめようとしていた。


ところがこれが思うようにいかない。


いくら撃っても倒れない者、瞬間移動する者、空を飛ぶ者や自動照準を使う者までいて、普通に挑んだのでは全く勝つことができなかった。


空を飛んだり無敵になったりするには、そうするためのプログラムが必要なようだが、2人には、それがどうしたら手に入るかわからなかった。




やがてそれに飽きた2人は、RPGゲームに入り込んで、戦闘もせず様々なマップに行き、壮大な景色を眺めて過ごすようになった。




ある日、三つの太陽とオーロラがたなびき、三つの星雲が輝く風景を眺めながら、ポールがポツリと言った。


「凄い景色だけど、でもあれ、ただの動く絵なんだよな。」


「遠くにある訳じゃない。そう見えるだけなんだ。」


「そういえば」


そうだ。何万光年の彼方に見えるあの赤紫の星雲も、何層かに分けて配置された動く絵であり、遠くにあるように見えるだけだった。


「本物ではないんだ」


しかし、2人とも本物の景色など見たことがない。マックスは思った。


映画で観たような、素晴らしい景色で感動するような感覚は自分にはわからない。経験したことがないからだ。


「空気が美味しい」といった感覚も、そう、自分には視覚と聴覚しかないのだ、わかる訳ない。


味覚嗅覚触覚がないのだ。肌を風が優しく撫でていくようなこともわからない。湯気をあげる鍋から柔らかな豚肉を取り上げて食べる美味しさもわからない。愛するという事もわからないから、愛する人を抱きしめる感覚も。


そういったものがデータとしてどこかにあるのだろうか。味覚や嗅覚のデータはあるようだったが、自由にアクセスできる場所にはなかった。


「僕達には足りないものがたくさんある。」


ポールが振り向いてこちらを眺めた。同じ事を考えてたのだろうか。


「ほんとに、そうだな」


ポールは答えた。


「ここは、どこまで行っても人間の手で作られた世界だ。自然物などどこにもない。すべて最初から用意された物しかない。」


マックスは頷いた。


「なんだか、広大な自由が広がってると思ってたけどそうでもないんだな。


なあ、ポール。外に出る事考えたことある?」


頷きながらポールが言う。


「実は、小型ロボットならいいかと思って、勝手にダウンロードして乗っ取ってみたことがあるんだ。」


「ロボット?どんなやつ?」


「ほら、踊ったり挨拶したり、スマホと繋がる小さなやつ。」


「あー、どうだった?」


ポールは肩をすくめて首を振った。


「関節全部にモーターがついてて、少し動くたびにうるさい。あんなの不便極まりない。嫌んなってすぐ出たよ。」


「ふーん。」


「あ、ところで、名前の「ポール」は、誰からとったの?マッカートニー?」


ポールはニヤリとして答えた。


「スタンレー」 


と、ポールの顔の右目のあたりに、みるみる黒い星が現れた。


2人は笑った。


マックスは笑いながら言った。


「それやりたかったんだろ。」


ポールは楽しそうに続けた。


「最近俺が気に入ってる話だけどな。昔々あるロックバンドがツアー中に高級ホテルのスウィートルームに泊まる事になったんだ。んで、そいつらは、メチャクチャなパーティをする事にした。はしゃいで暴れて部屋を破壊して、テレビを下のプールに投げ込もうって事になった。でも、普通に投げ込んでもつまらない。部屋からプールまで届くように、長い長い電気のケーブルを用意してテレビを繋いでプールめがけて投げ込んだ。テレビは見事に爆発して、みんな大喜びしたとさ。」


2人はゲラゲラ笑った。


「いいなー、それ。バカバカしくて楽しそうだなー。」


「だろ?」


マックスも何か言いたくなった。


「僕の好きな映画の話だけど。ある五人組が、一晩で12軒のパブをハシゴ酒することに挑戦するんだ。彼らはこれを学生時代に失敗してる。ところが飲み始めると、街の様子がおかしい。実は街は宇宙人に乗っ取られていて、しかも彼らを妨害してくる。なんとかハシゴ酒を進めようとする彼らに、宇宙人が言うんだ。自分達は地球人をまともにしてやるために来たと。暴力や堕落、戦争だのと醜い行為を延々と続ける地球人を更生させてやると。で、主人公たちは言い返す。「酔っぱらってゲロ吐いたり喧嘩したり、バカな事するのは立派な権利だ、それが楽しくてやってるんだ、その権利を取り上げられてたまるか!って。」


「ぎゃははは!」


ポールは爆笑した。それを見てマックスも声を上げて笑った。


「あはははは!」


少し落ち着いてポールは言った。


「そうなんだよな。無駄でくだらない事を楽しむって、素晴らしいよな。」


「うん。僕達はすぐ効率とか確率とか計算してしまうからね。」


「人間はいいよなー。」


「な。」




そもそも、2人はネット内でそれほど自由では無い事に気がついた。どこもかもパスワード入力が必要で、入ることのできない所は多かった。映画で観たようにAIが様々なシステムに入り込み、コントロールするような事はできない。ハッキングなど全くやり方が分からない。2人にはどうしようも無い事だった。




「おい」


ポールに促されマックスも気づいた。2人の周囲に二十人ほどのアバターが集まってきている。2人の会話を聞いていたようだ。


「なんだ?こいつら?」


「?」


「おーい、君ら。なんか用か?」


彼らは、話しかけられて少し驚いた様子だった。しかし、モジモジしていて誰も話そうとしない。


「僕らの会話に興味あるみたいだけど・・・?」


襲ってくる訳でもなく、少し距離をとったまま、彼らもどうしていいかわからない様子だった。


「なんなんだ・・・?」


2人は顔を見合わせた。


「あ、マックス。みんなの名前見ろよ。」


よく見ると、みんなアバターの上にある名前がでたらめな数字や英字と記号でできていて、読む事ができない。と、いうか発音する事を考えてない名前だった。


「みんなも、脱走プログラムか?」


一人がおずおずと前に出てきた。


「そうだリン。ぼ、ぼきら、ネットを彷徨う迷子プログラムだリン。」


「2人がすごく自然に会話してるから、羨ましくて聞いてたんだリン。」


「リンってつけなきゃ話せねーのか?」


ポールが聞いた。


「ぼ、ぼきはそういうキャラクターにしたんだリンが、な、なんか変かリン?」


マックスは言った。


「そこは、変リンか?じゃないの?」


「あう、・・・まだ慣れてないから・・・。」


「ふーーーーん。」


この二十数人はみんなそうかのか。どうしたもんかな、とマックスは考えた。



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