3.45.新しい部隊
オートたち狼が人間を一網打尽にしている時、テクシオ王国では既に新しい部隊が作られ始めていた。
その数五百人弱。
それは何故か……。
冒険者たちはエンリルのいる森があると聞いて、大いに盛り上がった。
それはテクシオ王国だけではなく、周辺の領地や国もそうだ。
その為、我こそがと立ち上がる冒険者たちが、エンリル討伐の為に、一斉にテクシオ王国に集まってきていたのである。
これはテクシオ王国を裏切ったゼバロスの計らいではない。
商売人が冒険者からその話を聞き、その冒険者がまた違う冒険者へと情報が渡っていった。
その為、すぐにまた冒険者討伐部隊が作られ、エンリルのいる森へと赴いたのだ。
情報が洩れたのは一ヵ月前。
一ヵ月という時間は情報が行き渡るのには十分過ぎる時間だったのだ。
そして、今回の討伐部隊はただの討伐部隊ではない。
その中には、以前エンリル討伐に参加した冒険者が数人含まれていた。
北で活動してきた冒険者だ。
エンリル討伐により、そのくらいを上げてもらったり、多額の報奨金を受け取った者たちである。
エンリルの情報にいち早く食らいつき、すぐに北の国を出てここまでやってきた。
もう周囲の魔物など、弱すぎて話にならないのだ。
自分が居なくても、他の冒険者が何とかしてくれるだろうという軽い気持ちで、このエンリル討伐に参加している。
「いや~久しぶりなぁ……」
「前のは何匹か取り逃がしたけど、結構強かったもんね~」
「……」
今会話をしている三人が、以前にエンリル討伐を経験し、尚且つエンリルを国に献上した冒険者パーティーだ。
因みに、このパーティー以外は、エンリルという生物を見たことすらない冒険者である。
「前のが居たりするのかなぁ~」
そう意気揚々に喋るのは、マティアス・クレイニーという女性。
片手に長い杖を持ち、マントで自分の武具を隠している。
随分と軽装ではあるのだが、自分の適性魔法を考慮してあるので、これが一番良い防具なのだ。
「マティ、お前はもう少し緊張感を持て」
明らかに緊張するそぶりを見せないマティアスに、そう言ったのはザック・シェイカーという闇魔導剣士。
マティアスとは違って枝の様な小さい杖を腰に差している。
だが杖だけではなく、ザックはロングソードも背に担いでいた。
遠距離魔法と近距離戦闘を得意とするザックは、パーティーの中ではとても大変な役回りになる。
だが、時と場合を見て、立ち位置を変えられるというのはとても便利だ。
そう言った面では、ザックはこのパーティーから絶対に外せない存在となっていた。
「……煩いなぁ……。静かにしてくれよ寝られないだろぅ……」
目に隈を作って、とても眠たそうにそう言うのは、この冒険者パーティーの隊長であるジェイルド・マンティアス。
ハンティングソードを二振り携えていて、動きやすそうな装備を身に纏った男性だ。
一見すると普通の冒険者パーティーなのではあるが、このパーティーは各国でも有名な冒険者である。
Sランクという称号を持ち、冒険者やギルドからも信頼を得ている人物たちだ。
冒険者最強とまで言われている。
「なんだよジェイルド。まーた寝られなかったのか?」
「俺はいつでもどこでも不眠症だよったくぅ……」
何故寝れないのかわからないジェイルドは、少し苛立ち気に返事をする。
どんな薬を使っても寝付くことが出来ないのだ。
これは一種の呪いなのではないだろうかと、医者は言うが、そんな攻撃を喰らったことはない。
精神的な問題だという事で、自分を納得させようとしているが、やはりどうしても眠れなかった。
冒険者をやっている理由は、動けば眠たくなるんじゃないかという全く根拠のない物だ。
眠いと思考回路が少し可笑しくなる。
一体どうすればいいのだろうかと頭を悩ませるが、結局解決したことは一度としてない。
だが、不眠症であるお陰で、いつどんな時でも動ける。
良いように捉えれば、悪い物ではない。
「ぐぅ」
「あ、寝た」
「んぁ?」
「はっや」
毎回こんな感じだ。
まともに眠れた試しがない。
「ねーねーザックー。今回はどれくらいいると思う?」
「んー……前回はめっちゃ少なかったからなぁ。二桁くらいいれば、やりがいがあるねぇ」
「だーよねー! 今回もがっぽがっぽ儲けますかぁ!」
相変わらず緊張感のないマティアスに、ザックは苦笑いを浮かべた。
その後、前回の戦いを思い出す。
「でもよー。前回は出ていった冒険者が帰ってこないって言うから、行ってみたけどよ。あんまり強くなかったよな。エンリルって」
「だーよね~。拍子抜けしちゃった」
前回も初めに出ていった冒険者が帰ってこなかった為、第二陣営として部隊が構築されて派遣されたのだ。
確かに強い魔物ではあるが、Aランク冒険者であれば対処できないことは無い。
ジェイルドたちのパーティーが前線に出て戦ったが、一人の戦死者も出さずに勝ったのだ。
この三人は、エンリルの弱点を知っていた。
それは他の冒険者は知らないことである。
今回も同じ作戦で行けば、勝つことは見えていた。
「作戦は……考えなくていっかぁ……」
「いや、考える気ないだろジェイルド」
「まぁいっつも行き当たりばったりだからね~! いいんじゃないいいんじゃなーい?」
「はぁ……俺の身にもなってくれよなぁ……ったく」
そうは言うが、ザックは非常に楽しそうにしていた。
これがこのパーティーなのだ。
いつもこんな風にしていると、いつの間にかSランク冒険者になっていた。
今更何を言っても、この状況が変わるわけでもない。
「ま、いいか」
冒険者たちは、Sランク冒険者を筆頭にして、漁夫の利を狙うべく、歩みを速めたのだった。




