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3.44.安全確保


 急いで帰って来た俺は、まずは子供たちの安全を確認した。

 どうやらあの火柱は、俺に帰ってくるように仕向けたシャロの火柱だったらしい。

 それを聞いた俺はシャロを怒ることはせず、普通に褒めてあげる。


『とりあえず全員無事だな。ガンマは?』

『大丈夫。さっき子供たちのご飯を狩りに行ったよ』

『そうか』


 遠吠えを聞いた狼たちは、今拠点に集合している最中だ。

 まだ過半数も集まっていないが、数分もすれば全員がここに集結するだろう。


 オートが既にいる狼たちに指示を飛ばし、配置について確認を取っている。

 話を聞いてみるに、どうやら前回と同じ西側から人間たちは来ている様だ。

 だが、俺はそのことに少し疑問に思った。


 前回の戦いで、人間たちは全員死んだのではなかったのだろうか?

 匂いで敵の位置を判断できる狼たちが、敵を取り逃がしたなどという事は考えにくい。

 オートも他の狼たちも、全員狩ったと証言している。


 しかし、あの戦いから日はそう長く経っていない。

 縄張りの拡張で少し時間を使ったくらいで、一週間程度しか経っていないのだ。

 あの地図からして、人間の住んでいる国から、ここまでの道のりは二、三日で来れるような距離ではない。

 最低でも一週間はかかるはずだ。


 となると……今進軍している新部隊は、一週間以上前からこちらに進軍してきたという事になる。

 部隊編成などで時間が取られるはずなのだが、それがほとんどなかった。

 前回戦った人間たちを、狼たちが燃やしている間には、既に進軍してきていたのだろう。


 まるで、先鋒の部隊は捨て駒であるかのような……。

 そんな感じが拭えない。


 だがしかし、俺たちがやることは変わらない。

 前回と同じように人間を撹乱し、狩る。

 それだけだ。


 俺はこの子供たちと一緒にお留守番。

 これ以上にない至福の時間が、また来ようとしていた。


『むっふっふ』

『……兄ちゃん嬉しそうだね……。こんな時に』

『どうせ俺たちが勝つでしょ? 今回は俺も手は出さないから、向こうの様子は見えないけどね』


 前回は土狼の視界共有で、戦いの前半だけは見ていた。

 俺がただ人間たちを怪我させるというだけではあったが、それでも充分な効果は出ていたようだしな。

 だがあの調子であれば、今回は手を出す必要もないだろう。

 俺はこの可愛い子供たちとまた暫く一緒に過ごすのだ。

 今もこうして子供たちに囲まれているので、俺は幸せである。


「グルルルルル……」

『また貴方か……! ふっふーん! どうだ羨ましいか!』

「ガルルルル……!」

『はっはっはっは!』


 やっべえ、今までに見たことない形相でこっち見てる。

 だが今回は俺の勝ちだ。

 この場所は譲らないからな!

 あの時、俺の事思いっきり噛んだの結構根に持ってんだからなこの野郎!

 ふっはっはざまぁみろー!


 さぁ早く行きなさい!

 子供たちの安全を確保してくるのです!


「グルルルル……」


 行けよ……。


 てか相変わらずこいつは俺に容赦ないな!

 何でこんなに嫌われて……って、そういえばガンマが何か言ってたなぁ~……。

 全く、素直になればいいじゃないですか。

 貴方のお母さんは俺の事を認めてくれてるんですよ?

 いやまぁ別にもういいけどさぁ。


 暫くの睨み合いの末、ようやくお父さん狼は離れていった。

 どうやら作戦会議に向かう様だ。

 はじめっからそうしていて欲しい。


 確認しておくと、俺のやることは一つ。

 子供たちを守る事。

 万に一つも人間がここまで来るという事はないだろうが、念には念を入れておく。


 子供たちを守るのは、前回に引き続き俺とベンツとガンマだ。

 ガンマは相変わらず戦場に出たがっていたが、やはり却下されてしまった。

 そうだぞガンマ。

 お前が居なかったら誰が子供たちのご飯を取りに行くんだ。


 因みに子供たちは、俺が帰ってきたので魔法の練習に励んでいる。

 複合魔法は一度練習をやめ、まずは一つの魔法を極めてもらうことにした。

 だが、先程の様な火柱の立つ目立った魔法は禁止だ。

 なので炎魔法は相変わらず禁止中。

 すまんなシャロ……。


 俺がその子供たちの練習を見守り、ベンツが小さな子供たちの面倒を見るという事で、今回の役割が整った。

 俺はもしもの時の為に、周囲には注意を払い続けておく事にしている。

 こうしておけば、何かあった時すぐに気が付くことが出来るだろう。


 人間との第二回戦。

 狼たちは一度勝っているので、やる気に満ち溢れた表情をしている。

 一匹の被害どころか、怪我した狼もいなかったのだ。

 それだけで相当の自信になるはずである。

 頑張って欲しい。


『敵は前回と同じ道を進んでいる! まずは足止めを行い、それから夜に夜襲。明け方にまた強襲。前回と立ち回りは同じだが、心してかかれ! いいな!』

「「「ガウ!」」」


 布陣も前回と同じらしく、やることは本当に前回と変わらない。

 狼たちはオートの号令の後、すぐさま駆け出して配置につきに行く。

 今回は縄張りが広くなっているので、前回より奥で戦うことになるだろう。


 だが、一週間の生活で狼たちは新しく増えた縄張りを殆ど頭の中に入れている。

 狼なのだから、こういう適応能力はとても早いのだろう。

 俺には到底真似できそうにない。


 戦場に駆けていった狼たちを眺めながら、俺は子供たちを見る。


『とう!』

『て、ていっ!』

『はっ! ほっと!』

『えいやっ!』

『それー!』


 シャロは身体能力強化の魔法をして、また地面の相手をしている。

 デルタは土を起こしてそれを様々な形に。

 ニアは光魔法と闇魔法を交互に使用。

 ラインは雷魔法で自分にダメージが入らないように特訓中。

 レインはとにかく水を出し続ける。

 各々が自分の適性魔法をしっかりと使いこなしているようだ。


『魔力枯渇には気を付けろよー』

『『『『『はーい』』』』』


 子供たちは声を揃えて返事をする。

 あの調子であれば問題ないだろうが、とりあえず注意だけはしておかないとな。


 ちらりとベンツの方を見てみれば、生後一か月の子供たちがベンツにくっつき、魔法を練習している子供たちを見ていた。

 どうやら見学しているようだ。

 小さい内から見ておけば、また何かが変わるかもしれないな。

 だが……。


『おーい子供たち。見るのはいいが、実際にしちゃいけないぞ?』

「きゅー……」

『だーめ』


 いきなり使われて暴発しても、俺は責任を取れない。

 ちゃんと言っておかなければな。

 俺たちがこれくらいの時は、お父さんはまず魔法を身近に置かなかった。

 幼いころから魔法を使わせるのを避ける為だろう。


「きゅーっ」

「くるる……」


 子供たちがベンツの体に体を埋める。

 どうやら俺に注意され、させてくれないなら見る意味なーいってことで寝始めたようだ。

 おい、羨ましいぞベンツ。

 そこ代われよ……。

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