3.32.Side-ナック-一息
オール、ベンツ、ガンマが狩りを終えて、獲物をその場にいた全員に振舞って行く。
ベンツの放った雷魔法のお陰で少し肉が焼けているようで、少々変わった味になっている。
子供たちにも他の仲間たちにもそれは人気なようだ。
にしても今回狩った獲物は非常に大きい。
おそらくここにいる仲間達だけでは食べきれないだろう。
なので、食べきれなかった分は、仲間の所に持って帰る予定である。
子供たちも三匹の魔法、狩りの仕方を見て目を輝かせていた。
これで魔法の習得により一層励んでくれることだろう。
今回はそれが目的なのだ。
大成功と言ってもいいだろう。
にしても……。
『ナック殿』
『何だバルガン』
『いや……あの三匹……。流石リーダーの息子って感じですね』
『全くだ』
ナックが言いたかったのは、まさにそれだ。
余りにも戦い方が素晴らしかったのだ。
待ち伏せする作戦などはよくやるので、あれくらいであれば真似できる。
だが、ベンツの高速移動、ガンマの馬鹿力、そしてオールの魔法の威力は、簡単に真似できるようなものではない。
一体どういう育て方をすればあのような個体が生まれるのかと、呆れるほどであった。
そして何よりすごいのがあの連携だ。
初撃のオールとガンマの風刃。
ガンマの風刃で、オールの放った風刃を見えにくくし、的確に獲物を転倒させる。
そしてベンツの雷魔法、更にガンマの馬鹿力による吹き飛ばし。
それを見計らっていたかのように跳躍したオール。
三匹が各々する行動を事前に理解し合い、数手先を読んで行動していた。
あのような事は普通の兄弟でも出来るものではない。
『フッ。俺たちが霞んで見えるな』
『もう世代交代ですか? 気が早いですねナック殿』
『馬鹿言え。闇魔法ならまだ負けん』
『いやあれは子供たちが怖がるので極力控えてください』
『……』
とは言え、闇魔法以外で劣っているのは事実。
それだけで少し自信を無くしてしまいそうだ。
無論、まだ世代交代をする気はサラサラないが。
「ガウ! グルァ!」
「わふー!」
「クォー!」
「ガウ。バフゥ」
相変わらずオールは子供たちに優しい。
肉を千切ってやっては渡しを繰り返している。
もう十分に自分で肉を引き千切るほどの力はあるのだが、それでもオールは子供たちの為にこうして肉を千切ってやっていた。
過保護なのだろう。
しかし、それで子供たちがオールに懐いていることは事実。
その為、仲間が前衛に出てもオールに子供たちを任せることが出来る。
今までにはなかったことだ。
普通は親くらいしか子供の面倒は見ない。
親がそうさせないのだ。
だが何故だろうか。
オールはその両親から認められている。
約一匹まだ認めていない奴がいるが、それも時間の問題だろう。
『物好きなんでしょうね~』
『かもな』
『何でメスに生まれなかったんでしょう』
『俺が知るか』
バルガンの意味の分からない疑問に答えてやる筋合いはない。
ナックは鼻を鳴らして心底どうでもいいといった風にその場に伏せてそっぽを向く。
『まぁ……あれだけ強い奴が、子供たちを守るのですから、私たちは安心して前に出られますね』
『……そうだな』
強い者こそ前へ。
そう言った風潮は何時しか消えていた。
強き者こそが後ろを守り、弱き者を助け、弱き者こそが前へ行き、強き者を助ける。
烏合の衆でなければ、弱き者は強き者に勝利するのだ。
『とは言え今回は……良いバランスが取れているがな』
だが、前に出るのは強き者の定め。
どうしたって群れを指揮する指揮官が必要だ。
しかし、今の群れには強き者が沢山いる。
オート、リンド、ロード、ルイン……ついでにナックとバルガン。
主力と言っても過言ではないこの狼たちは、前に出ることこそ自分の存在価値を見出せる。
そしてオール、ベンツ、ガンマ。
後継をおいそれと簡単に前に出してはいけない。
三匹は強い。
それ故に、まだ一歳弱の子供でも任せられるのだ。
これはすごい事である。
その辺の狼たちでは、そんな事は任せられない。
『ていうか……ナック殿は食べないので?』
『ああ。持って帰るときにつまむさ』
『そうですか。じゃ、一番おいしい所は頂きますよ~』
バルガンはそう言うと、そそくさと獲物の方に足を運ぶ。
絶対に食べられるだろうという確信を持っているようだ。
『まぁ。無理だろうがな』
ナックは誰にも聞かれないようにそう呟いた。
肉の一番うまい所と言えば、腰と背の間にある肉だ。
あれは非常に柔らかく、その周囲の部位もそれなりに柔らかい。
子供でも簡単に食べられるような場所である。
しかしその部位は非常に少ない。
一匹がそれを狙って食べてしまえば、もう後の者はその肉にありつけなくなってしまうだろう。
オールが一番おいしい肉を子供たちにあげないわけがない。
その部位は既に無くなって子供たちの胃袋に落ちていたようで、バルガンはあからさまにしょんぼりした背中をこちらに見せた。
『阿保め』
その様子を可笑しく思いながら、小さく笑う。
普通は自分が狩った獲物は、自分の好きにして良い物だ。
良い部位だけを食べ、他は違う仲間たちにあげるというのが普通。
だがオールやベンツ、そしてガンマはそんなことはしなかった。
『つくづく物好きな奴らよ』
ナックはそう言い、獲物に群がっている仲間を見ながら微笑んだ。




