3.26.幸せな時間
『お嬢さん。そこがいいんですか?』
「きゅ~」
『あ、そうなのね~』
俺は頭に何故か乗っかってきたメスの子供狼と話をしていた。
この二日間は、こんな感じで子供たちと幸せな時間を過ごしている。
俺もモフモフだけど、こうしてモフモフがモフモフに寄ってくるのとてもいい!
かわいいっ!
てか頭に乗るとかなんだよ可愛すぎかよ。
ていうか子供やっぱりあったかいね~。
この子、まだ生後一ヵ月くらいだから、俺の頭ならまだ乗れるんだよね。
高い所が好きなんでしょう。
『ちょやめっ! ちょ……ちょっと!?』
「クォー!」
「わふわふ!!」
『うわあああ!』
相変わらず、ベンツは生後五か月の子供たちに弄ばれてますね。
丁度体動かしたい時期だもんな~。
ていうかバリバリの成長期だし、体力が有り余ってるんでしょうね。
でもさ、子供たちだけでベンツ転がすってなかなかすごいな。
流石に五匹全員の力でやらないと無理っぽいけど、それでもすごいぞ。
でもまだ魔法は使えないっぽいんだよね。
俺たちは結構早い段階でできるようになったんだけど……魔法よりも体を動かしたいのかな。
ベンツは昨日からこうやって子供たちに弄ばれ、俺は生後一か月の子供たちと添い寝。
幸せ。
そしてガンマはというと……。
『兄さん。これ』
『おおー有難うガンマ!』
完全に子供たちのご飯担当となっていた。
一ヵ月の子供たちにあげるご飯は、ミンチのようになっていて食べやすくしてある。
五ヵ月の子供たちには、先程狩って来たばかりの大きな鹿のような動物が振舞われた。
因みに、ガンマはこうしてミンチのようにしてくれているが、これは俺が考案したものだ。
木を切り倒し、切り株に肉を置いてガンマの力で潰す。
これだけで簡単に子供たちが食べやすいミンチが完成するのだ。
我ながら良い案だったと思う。
だが残念なことに、これはガンマしかできない。
俺たちでは圧倒的に力が足りないのだ。
まぁそこは適材適所という事で、得意な奴に任せることになった。
俺は子供たちとこうして添い寝できるだけで満足なのです~。
だって見てくださいよ。
この可愛い寝顔……!
うん、これこそ天使ですよ天使!
可愛いは正義……この言葉はどんなところでも使えるのですね……!
次の瞬間、ピキーンと一筋の光が通り過ぎる。
俺がとある匂いを察知したのだ。
この匂いは知っている。
今は前線に出て、人間たちと戦っているはずの奴が……何故……!
恐る恐るそちらを見てみると、物凄い形相で走ってきているお父さん狼がいた。
ちょちょちょちょちょまってまって!!
今頭に貴方のお子さん乗っけてるから!!
この紋所(子供狼)が目に入らぬのかっ!! って言ってる場合じゃねぇ!!
今嚙み付かれると駄目っていうかぬおおおおおお!!?
子供たちが邪魔で回避することが出来ないだとぉ!?
そうしている間にも、お父さん狼はこちらに牙を向けて走ってきている。
動けば子供が頭から落ちてしまう。
それに加え、今まで寝ていた子供たちを起こしてしまうことになる。
どうしてもそれは避けたい。
天国から抜け出したくないのだ。
お父さんストップ!
ストップだお父さん!!
待ってお願い!! お願いだから止まってくれよおおおお!!
いやああああああ!!!!
ガブッ。
割と本気の噛みつきに、俺は絶叫を上げたのだった。
◆
『痛い……』
『大丈夫……?』
『……その言葉そっくりそのまま返すけど、ベンツも大丈夫?』
『疲れた……』
生後五ヵ月ともなると、体は随分と大きくなる。
それに振り回され続けたのだから、ベンツの方が俺よりも大変だっただろう。
可愛い顔してとんでもない奴らだぜ。
お父さんあんたもやで!!
子供たち全部掻っ攫って行きやがって!
覚えてろよこの野郎!
あ~あ……俺の天国が……楽園が……。
たった二日だけとか悲し過ぎるんですけど。
いいもん。今度はお母さん狼と話して子供たちと仲良くさせてもらうもんっ。
『世話は終わりか?』
『とりあえずもういいみたいだよ。帰ってきたってことはそう言う事でしょ』
『そっか。あー慣れないことすると疲れるなぁ~』
『ガンマもお疲れ』
『兄さんも子守お疲れ。ベンツは……うん。お疲れ』
『……』
ベンツは一度尻尾を立てて、また倒した。
あれで返事をしたつもりらしい。
俺たちが思っている以上に、ベンツは振り回されていたようだ。
また今度何かいい物でも食べさせてあげよう。
子供たちの子守という仕事も終わり、俺たちはとりあえず自由に動き回れるようになった。
俺としてはずっとあのままでもよかったが、仲間たちが人間に勝ったみたいなので、ずっとそうしている訳にもいかないだろう。
とりあえず、まずは戦いがどうなったのかを聞かなければならないだろう。
誰か聞けそうな狼がいないかと周囲を確認したとき、馴染みな匂いに気が付いた。
『お父さんに聞くか』
どうやらオートはこちらに向かってきてくれているようなので、そのまま座ってオートが来るのを待つことにしたのだった。




