3.12.ロード爺ちゃんのしごき
大きな音が山中に響き渡る。
その音は大地が震動しているかのような大きな音だ。
そして、その音の発生源である場所に、二匹の狼が立っていた。
『オール。もっと動かさぬか』
『無理だっつのロード爺ちゃん!』
俺は今、ロード爺ちゃんから優しくしごかれていた。
どうしてそうなったのか、俺でもよくわからないのだが、ロード爺ちゃんが『わしの持つすべての魔法を伝授する』と言って、こうして魔法の特訓に明け暮れることになったのだ。
ロード爺ちゃんが使える魔法は土魔法と闇魔法。
その二つなのだが、俺が使う土魔法と闇魔法より遥かに高性能で威力も桁違いである。
まず土魔法。
ロード爺ちゃんはよく台座を作るのだが、作れる物は台座だけではなかったようだ。
今特訓しているのは土魔法・土狼。
土で狼を象り、それを動かすだけの水狼と似たような魔法なのだが……それが重いのなんの。
水狼は自らが作り出した水で、狼の形を象って動かすだけの簡単な物だ。
だが土狼は違う。
一匹作ろうとすると、追加でニ十匹くらい勝手に作られる。
言ってしまえば土狼の壁が動いてくるのだ。
勿論そんな土狼は質量が半端なくある為、それを動かすのに必要な魔力量も桁違いとなる。
だがロード爺ちゃんは……。
『じゃからこうじゃて』
軽く地面に手を当てると、数百匹の土狼が地面から這い出して来る。
それは塊となっており、地面に繋がったままだ。
それが雪崩……もしくは津波のようにドドドドという大きな音を立てて、また地面に戻っていく。
『なんでそこまでの数を操れるのぉ!?』
『わしが出来るんじゃ。全属性を持つお前にもできるはずじゃぞ?』
『いやそうだろうけどさぁ!』
いや無理。マジで無理。
何言ってんのこのお爺ちゃん。
明らかに今動かした質量数トンはありましたよね?
それを一息の魔力だけで動かせってどんな拷問ですか??
ていうかあれじゃないの!?
土魔法に適性がないとできないとかいうそういう奴じゃないのぉ!?
だとしたら俺絶対にできないよ?
できるわけないじゃぁあああん!
とは言っても練習しないわけにはいかない。
もう一度魔素を吸って魔力に変換、そして地面に手を一回ついて土狼を出現させる。
ドドドド……。
また止まった。
まぁ魔力切れが起こす現象なんだけど、送り込んだ魔力が尽きると、こうして地面から中途半端に顔を出して動きが止まってしまうのだ。
出来ないはずはないというが、これは本当にできないのではないだろうか。
無理やん。
『ぜぇー! はー! ぜぇー!』
『そんなに力まんでもできるぞ?』
『何でだよぉ……はぁ……はぁ……』
かれこれ数時間やっているのだが……出来る未来が見えてこない。
どうしたらできるんだよマジで……。
……あ、ちょっと待てよ?
あれ? そういえばロード爺ちゃんこれ土魔法とは言ってたけど、もしかして闇魔法も混ぜてない?
お父さんみたいに風魔法を二重に使ってるっていう可能性もあるしね。
よし……試してみよう。
まずは何時もやっている風に魔力を作って、それを土に流し込む。
だがその瞬間に、闇魔法も使用してみる。
これで動かなければ俺はもう土狼は使えないだろう。
さぁどうだぁああ!!
すると……土狼が一匹ボコっと出てきた。
『『ん?』』
一体何が起こったのかわからない。
あれ? 俺は確かに一匹の土狼を作ることに集中していたけど……あれ? 他のニ十体は?
すると、土狼が遠吠えをする。
土でできているので声は出ないのだが、それでも確かに遠吠えをしているように見えた。
その瞬間、後ろから雪崩のような土狼が出現し、作った一匹目の土狼をも巻き込んで地面を流れていく。
その数はロード爺ちゃんと同じ数百という数だ。
それは暫く地面を滑っていった後、地面にゆっくりと帰っていく。
ここまではロード爺ちゃんと同じようだ。
だが……最初のあれは何だったんだろうか。
『オール。いったい何をした?』
『え、いや! ……闇魔法を混ぜてみたんだけど……これとりあえず成功? したんだよね?』
『う、うむ……。じゃがわしも一匹だけの土狼は作り出せんぞ』
『ロード爺ちゃん無意識にちょっとだけ闇魔法を土狼に混ぜ込んでるみたいだよ。俺の場合は結構濃く入れたから、こうなったのかも』
『器用じゃの~』
いや器用なのはロード爺ちゃんの方だと思います。
無意識にやってるんだからさ。
いやでも成功してよかったぁ~!
これで俺も何とかロード爺ちゃんの真似できるようになったぞ!!
『じゃ、次は闇魔法じゃな』
『……』
どうやらまだ次があるようです。
そんな馬鹿な。
これ以上難しい魔法を俺に習得しろというのか!!
『とは言っても、闇魔法は他の魔法と組み合わせることに特化した物じゃ。わしが教えられるのはもう本当にないのぅ』
『あ、そうなんだ』
『後はオートに聞くのがいいかもしれんぞ。魔力奪取と魔力譲渡は持っておるの?』
『うん、そっちは大丈夫』
これは俺が魔力の過剰摂取で発症した症状を抑えるときに、オートが使ってくれた魔法だ。
何時子供たちや他の仲間たちが過剰に摂取してしまうかわからないので、それだけオートから教えてもらっていた。
流石にあれがないと、助けられないからな。
魔力を糧に生きている俺たちには、この魔法が必要な時が何度か来るだろう。
『じゃ、もう大丈夫じゃの』
『ロード爺ちゃんって結構魔法使えたんだね』
『オールに教えた時は、お前はまだ小さかったからのぉ。変に魔法を使われても、こっちが怖いだけじゃわ』
『確かにね』
とりあえずロード爺ちゃんのしごきが終わったことに、ほっと胸をなでおろす。
魔法の練習っていうのは非常に疲れる。
出来るのならば問題ないが、できないとやはりイライラしてしまうものだ。
ま、出来てしまえば、こっちの物なのだが。
ていうか……この魔法めっちゃ強いよな……。
ルインお婆ちゃんの水狼もそうだったけど、やっぱりロード爺ちゃんも規格外じゃないか。
お、俺もっと頑張ろう……。
そう心の中で呟き、今日は拠点に帰って子供たちと遊んだのだった。




