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3.9.Side-クルス-なんで?


 一週間かけて、僕たちは王都へと帰還していた。

 あのエンリルたちのことはまだ誰にも話していない。

 それが親友であるカムリであったとしてもだ。


 隊長は急に引き返すと言っても、すぐに対応してくれた。

 やはり理解のある冒険者は違う。

 人の上に立つ人物として、あの人は素晴らしい才を持っている。


 だが少し気がかりなことがあった。

 それは、隊長に引き返すという連絡をした後、少しの間記憶がない。

 本当に一瞬だ。

 あれ? さっきまで自分話をしていたよな……?

 そんな感覚が頭のどこかに引っ掛かっているのだ。


 だが、この現象は割とよくある物である。

 例えば道を歩いている時、考え事をしていると無意識の内に、随分と長い距離を移動してしまっていることがあったりするのだ。

 頭だけが眠っているのかもしれないが、まぁいつもの事かという事であまり気にしてはいなかった。


 王都に帰ってきた僕たちは、すぐに研究室に帰る。

 僕たちの仕事場だ。

 今いるこの研究室は、僕とカムリ、そしてペクルスの三人で使用している。

 部屋を三分割して、それぞれの研究にあった物資が机や壁を占領しているので、結構汚い。

 だがそれでいいのだ。

 整理などする時間があったら、研究をしていたい。


 帰ってきた僕は寄生生物研究者である、ペクルスの手伝いをする。

 ペクルスは捕まえた寄生生物を透明のガラスケースの中に入れ、一体何を食べるのだろうと思案しながら帰路についていた。

 研究室内でなくても、研究員は探求に忙しい。

 様々な雑草や、木の実を与えたりしていたようだ。


「で、どう? 何かわかった?」

「ん~~……この子たち、もしかしたら魔素を食べてるのかもしれない」

「魔素か~……」


 魔素。

 それは簡単に言ってしまえば、魔法を使用するにあたって必要な物だ。

 これがないと魔法を撃つことはできないし、もし無くなれば生きていくことすら難しくなる。

 魔素研究員のカムリがそれを発見したのだ。


 今まで魔法はなんとなく普通に撃てるものだと誰もが思っていた。

 だがそうではない。

 魔素が無ければ、まず魔力が回復しない。

 自分を実験台にするという恐ろしいことをカムリはやってのけた訳なのだが、それに見合う成果は発見できた。

 そのおかげで研究員たちが認められ、今もこうして研究を続けられている。


 因みにだが、極稀に魔素を吸収して魔力を作り出し、それを魔法に変換する能力を持つ生物がいるのだ。

 とは言っても、これはおとぎ話の話ではあるのだが、話が出来上がるという事は、それに近い何かが昔存在していたということになる。

 僕はそれを追い求めてもいるわけだけど、残念ながら一度も出会ったことは無い。

 そう言った生物に出会うことが出来たら、研究に協力してほしいものだ。

 何せ無限に魔法を撃つことが出来る。

 それが人間も出来れば軍隊の強化に繋がるはずだ。


 ……ま、今の現状では無理だけどね。


「魔素を食べてるってことは、別に何も与えなくてもいいかもしれないね」

「私もそう思ったんだけど……なーんか少しずつ弱っている感じがするんだよー」

「寄生生物だろー? だったら魔力の方がいいんじゃね~?」


 遠くからフラスコを振りながらカムリが提案してくれた。

 確かに、寄生生物は宿主から何か栄養を分けてもらっているはずだ。


「あーそっかなるほどぉ。えーっと……闇魔法・マナトレンスファー」


 魔力を相手に渡す魔法、マナトレンスファー。

 僕たちは戦闘向きではないため、全て冒険者に劣るような魔法しか使えないが、それでも研究の役には立っている。


 ペクルスが寄生生物に魔力を渡していると、動きが格段に良くなった気がした。

 元気になったので、目の前にいるペクルスに寄生しようと一生懸命ガラスに飛び掛かる。

 液状で粘着質な体を持ってはいるようだが、壁に張り付いたりするという事はできない様だ。


「おおー! 本当だ! 有難うカムリ!」

「おーう」


 これであれば、なんとか寄生生物を永らえさせることが出来そうだ。


「によによ……」

「……やめなってそれ」

「うっ」


 もう最近のお約束になってしまっている。

 ペクルスも直す気はあるようだが、どうしても研究が少しでも上手くいってしまうと、こうなってしまうようだ。

 ぶっちゃけ小さい体の男の子がしてもいい表情ではない。

 まぁそれが個性だと言ってしまえばそれまでなのではあるが……。


「クルスの方はどうなの?」

「どうって……全然だね」

「ふーん……」


 ペクルスがそう聞いてきたのだが、僕かやんわりとそう言った。

 実際、僕はあの地にエンリルがいたという事だけしか持って帰ってきていない。

 研究をしようにも、資料が足りなさすぎるので何も手を付けられないのが現状だ。


 とは言っても、考えてみれば研究できる資料はあの森に沢山あった。

 その地の気候、魔素の量、獲物、狩りばなど、探せば探すほどどういった地形をエンリルたちが好むのかという事がわかるような物が転がっている。

 地質学者に友人が居れば、もっと早くそのことに気が付けたかもしれないが、残念ながら近くにそういう人間はいない。


 今はエンリルを見た興奮も収まり、ようやく整理がついてきた所だ。

 次に行くときは、その情報を整理して欲しい資料をどんどん回収していきたい。

 勿論、エンリルには絶対に手をださないことを条件に。


「ぶっへぇ!!?」

「うわびっくりした! 何!?」


 突然カムリが大声を出した。

 驚いてそちらの方向を見てみると、カムリの居るところだけ煙で充満している。

 どうやらフラスコにいれる薬品の分量を間違えたようで、大量の煙が噴出してしまったようだ。

 フラスコからは、まだまだ煙が出続けている。


「げっほげっほ!」

「カムリ外! 外行って!」

「わかってげっほ! げほげほ!」


 どういった配合にしたらあのように煙が噴出するのだろうか。

 カムリは手で煙を払いながら、おぼつかない足で外へと向かって行った。

 余り危ないことはしないで欲しい。


「大丈夫かな……」

「いつもの事だよぅ」

「確かにね」


 ははははと、軽く笑いあった後……珍しくペクルスが真剣な表情でこちらを見た。

 僕は少し驚いたが、いつもの感じで接する。


「どうしたの?」

「ねぇねぇクルス。今はカムリがいないから聞くけど、なんか隠し事してない?」

「どうしてそう思うんだい?」


 隠し事は勿論している。

 ペクルスとも長い付き合いだから、勘づかれることもよくあった。

 だが、今回はしらを切り続けるしかない。


 するとペクルスは、小さくため息を吐いて首を振った。


「エンリルに会ったんだって?」

「!? ど、どうしてそれを!」


 その言葉を聞いて、心臓がキュッとなる感覚に襲われる。

 誰にも話していない事実。

 もしかしたらカマかけかもしれないが、それでも驚かずにはいられなかった。

 何故……何故ペクルスがそのことを知っているのだろうか。


「ふふん。僕は盗み聞きが得意なんだっ!」

「……誇るところですかそれ……」


 だがどうにも腑に落ちない。

 僕は誰にもエンリルのことは話していないはずだ。

 なので盗み聞きをするという事はできない。

 しかしペクルスは聞いたというし、一体どういうことだ?


「ああ~そうだよね。クルス……薬飲まされてたもんね」

「は?」


 薬?

 飲んだ覚えが全くない。

 一体どこでそんなものを飲んだというのだろう。

 全く記憶のない話をされて少し混乱し始めているという事が自分でもわかる。

 なんだ? 一体何を忘れているというのだ。


「あのクソ隊長。クルスに薬飲ませたんだ。多分あの薬は自白剤。隊長にエンリルの事全部話してたよ」

「……ぼ、僕が……?」

「そう。君が」


 だとしたら……だとしたら……。


「やばい!!!!」


 僕は脱兎の如く部屋から飛び出した。


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