表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
355/370

9.35.天敵


 オールが補強した地面を易々と破壊し、前方へとひび割れていく。

 その隙間から青い炎が吹き上がる。

 一瞬で姿が見えなくなった悪魔の叫び声が聞こえた気がするが、そんな事はお構いなしにとにかく炎を送り続けた。


 ガンマが辿り着いた一つの境地。

 破壊方向の指定。


 魔力というものがよく分かっていないガンマは、難しいことはできない。

 だが、放出はできた。

 逆に言えばそれしかできなかったわけなのだが、ガンマにはそれで十分だった。


 周囲に拡散する勢いを魔力で包み、一つの方向に集結させて放つ。

 ちょっとコツがいるだけの作業。

 ただ火力を一つの方向に向けさせる。

 それだけだが、想像以上の威力となって青い炎が空高くまで吹き上がった。


『ぐぅ……! 傷に響く……』


 腕を上げる時、折れた腕で体を支えていたのだ。

 痛みが力になったのでその時は良かったが、一呼吸置くと激痛が走り抜ける。

 初めての大怪我だ。

 なかなか慣れるようなものではない。


 歯を食いしばりながら、楽な態勢を取ってシャロを見る。

 息はしているようだが、起きる気配は一切ない。

 生きていることにほっとしていると、腹部に激痛が走った。


『ガァッ……!?』

「……いってて……」


 黒い球が体にぶつかった。

 体の中から鳴ってはいけない音が鳴り、倒れてしまう。

 顔だけを動かしてみると、その先には片腕を失った悪魔が立っていた。


 まだ生きていたことに、ガンマは驚く。

 仕留めきれていなかったのだ。

 しっかり見ていれば分かったかもしれないが、シャロが心配で目を反らしてしまった。


『げっは……ぐぞ……』


 何とか立ち上がろとするが、体中に激痛が走って力が入らない。

 力を入れると更に激痛が走る。

 首を起こすだけで精一杯だ。


「領地じゃないから回復できねぇんだよ……。もういい、他の奴に聞く」


 悪魔は周囲に黒い球を数十個展開した。

 あれを避ける、もしくは防ぐ手立ては、今のガンマにはない。


 悪魔がすっと手を上げる。

 すると黒い球が後ろに動いた後、それらは一気にガンマとシャロに襲い掛かった。

 だがそれは、二匹の一歩手前で地面にめり込む。


 ズンズンダンッ!!

 急激に周囲の空気が重くなる。

 一体何だと思って確認しようとするが、体が思うように動かない。

 すると、ひんやりとした空気が流れてきた。


『『『アクマァ……!!』』』

『!? 三狐なのか!?』


 とんでもなく低く、高い声が三つ混じったような声がした。

 ガンマの前に歩いてきた三匹を見て、驚愕する。


 一匹は赤く、大きな狐だ。

 ほっそりとしている姿をしているが、九つの尻尾はふくよかそうに揺れている。

 赤い模様が多く描かれており、牙を剥き出しにして悪魔を睨んでいた。


 一匹は青く、小さな狐だ。

 だがその体から発せられる殺意は他の狐の比ではない。

 九つの尻尾は細く、恨めしそうにビタビタと地面を叩きつけていた。


 一匹は紫で、中くらいの狐だ。

 紫色の体に白色の模様が多く交じり合い、不気味さを増している。

 手足が大きく、爪を地面に食い込ませながら九つの尻尾で何かを操っていた。


「き、狐……? あの狐なのか……!?」

『『『ユルサン、シマツスル……!!』』』


 三匹は溶けた。

 どこに行ったのかと慌てて周囲を確認する悪魔だったが、その時にはすでに遅い。


 悪寒が走る。

 バッと後ろを振り向いてみれば、何もいない。

 しかし何かがいるということがひしひしと伝わってきた。


 ゴゾッ。

 何かが急激に減っていく感覚があった。

 手を見てみると、みるみる内に老化が始まっている。


「!? な、なな!?」

『マズイ』

『キタナイ』

『スキクナイ』

「なんだ!? どぉなっていぃいいる!?」


 頭の中から聞こえる声に怯え、今のこの状況に混乱する悪魔は既に敗北が決まっていた。

 膨大な魔力を吸い取られ続けていることには気づいているが、それと同時にどうしようもないということにも気付いていた。

 なにせ、見えない敵と戦っているのだ。

 触れもせず、目視もできない相手。

 更にはそれが、体の中にいるとなれば……なにもできないのは必然である。


 魔力が一定量なくなったのか、後方にあったワープゲートが消えた。

 あれはこの悪魔が作っていた物だったらしい。

 それだけの魔力量があるということは、この悪魔は広大な自分の領地を持っていたということになる。

 それが何処かは、分からないが。


「ぐあああああ!? よせ! やめ、やめぇろあああ!!?」

『『『ガンマサマヲ、キズツケタ。ユルサレザルバンコウ』』』

「ぎゃあああああああああ!!!!」

『『『シシテツグナウ、ミチハナシ』』』


 三匹の亡霊が、悪魔を後ろから睨んでいた。

 正に怨狐と呼ぶに相応しい形相をしている。

 ガンマですらも、それに恐怖を覚える程だった。


 悪魔が膝をつく。

 既に体は老化しきって干からびており、手の先から灰になりつつあった。

 ボロボロと崩れていく悪魔を最後まで見届けたガンマは、その後にぴょこっと出てきた三狐を警戒する。


 しかし、今はいつもの小さな丸いフォルムの狐だ。

 あれが三狐の本当の姿。

 今までは殻の中に自我と恨みを抑え込んでいた姿だったのだ。


『『『ガンマ様! ご無事ですか!』』』

『……ああ、いつも通りだ』

『『『どこがっ!?』』』

『……』


 自分のことを言ったわけではなかったのだがと、心の中で呟く。

 何はともあれ、助かった。


 ゴオオオオォオオォオ……ッ。


『……おい、三狐。今のはなんだ』

『『『……えーと、りゅ、竜……ですね……』』』

『……兄さんだな……?』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 今回は三狐いなかったらガンマとシャロが死んでた事態なのでマジでナイス三狐!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ