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9.32.広がった毒


 地面から大量の魔物が出現した。

 それらは呼吸と共に毒を放出しているようで、明らかにやばい存在だと増援に向かっていた仲間たち全員が理解する。


『!? 皆!! 毒を、吸うな!! 体が、動かなくなる……毒だ!!』

『とは言っても……! 囲まれてるよ!!』

『……風魔法……!!』

『オール、様! 駄目です! それで、は毒が広が、ってしまいます!』

『じゃあどうすんだよ!!』

『浄化……を! 空気を、浄化……してください!』

『やってみよう!!』


 だがこの毒に効くのか!?

 いやもうやってみなきゃ分からん!


『浄化ぁ!!』


 ドンッ。

 足を踏み込んで周囲の毒を消し飛ばすイメージを脳内に作り出す。

 すると、半径二十メートルの紫色の空気が消え去った。


『おお!?』

『浄化……は、空気を清める魔法……。呪いの香、麻痺の香、毒の香……を消します……』

『じゃあこれで仲間たちも助けられるか!?』

『無理です……。体内に、浸食した毒は、解毒しなければ、なり……ません』

『万能じゃないか……。だがこの範囲なら常に戦えるぞ! 皆頼む!』

『『『『はい!!』』』』


 常に浄化魔法を発動。

 そしてこれ以上敵が出てこないように土魔法を使って地面をガッチガチに硬くしてやる。

 このライドル領全部の土を固くすることもできるからな!

 あっ、畑壊れた……。

 すまん人間!!

 だが今回は許してくれ後で直すから!!


 俺、デルタ、ライン、ニア、メイラム、一角狼一行は範囲内の敵を確実に仕留めながら子供たちの所へと急行する。

 デルタは様々な姿の魔物を作り出して味方を増やし続けており、ラインは範囲内に入った敵を瞬時に殺してくれていた。

 ニアとメイラムは体力を温存してもらう為、今は走るのに集中してもらう。


 ていうか……これ……。


『……ッ』

『オール、様。俺が……治します』

『……頼むっ……!!』


 間に合わない。

 毒は既にライドル領全域を包み込んでおり、どう頑張っても毒を吸わないようにするのは不可能だ。

 こんな感じで浄化を使わない限り……。


(オー、ル)

『!? あの声……! お前誰だ!』

(──て──ガン──シャロが──)

『え!? あんだって!?』

(二匹が──危ない)

『今!?』


 でも向こうに置いてきた水狼の王は壊れてないぞ!?


『『『オール様どうしましたか!?』』』

『ガンマとシャロが危ないらしい! だが……っ!』

『『『土狼を作ってください! 私たちならいけます!』』』

『すまん!!』


 土狼にできる限りの魔力を籠める。

 三狐はそれに飛び乗り、来た道を戻って行った。


 あいつらは霊体だ。

 毒は関係ないのだろう。

 今はそれに助けられた……!

 三狐……本当のことを打ち明けてくれてありがとうな!!


『急ぐぞ! デルタ! 敵は一匹残らず仕留めろ! あいつらは息を吸う度に毒をまき散らす! 呼吸器官を抉り抜け!』

『わ、分かった!!』

『ラインもだ! 範囲内の敵の呼吸器官は絶対に破壊しろ!』

『了解!!』


 デルタは作り出す人形を変えた。

 それは大きく、そして腕は槌の様になっているゴーレムだ。

 狙って抉ることはできないと判断したのか、体すべてを潰してしまおうという戦法に変えたらしい。

 それでも呼吸器官は破壊できると思うし、行動も確実に取れなくなるのでいい案だと思う。


 ラインは俺が言った通り、的確に肺を雷で焼き貫いて爪で頭を吹き飛ばす。

 アンデットといっても、体が動かなくなれば死んだも同然だ。

 あとでしっかり光魔法で殺しておく必要があるな。


 ていうか浄化の維持が結構大変……!

 俺も水狼の王をもう一匹作り出したいのだが……その場合は一回足を止めなければならなさそうだ……。

 だが止まっている時間はない!

 すぐにでも仲間を、人間を助けなければ!!


 血の匂いが鼻を突いた。

 ここからは、覚悟していかなければならない。

 何があっても取り乱さず、的確に敵を殺して迅速に仲間、人間を助け出す。


『……ぐっ……』

『これ、は……』

『ニアー!! レイーン!! 子供たち! いるか!? 何処だー!!』


 浄化の範囲内から、ラインが大声で叫ぶ。

 入ってきた魔物をしっかりと仕留めながら。


 ここからは……水狼は使えない……。

 仲間に被害が及ぶかもしれないからな……。


『浄化範囲を広げる!!』

『オール様……ひとつ、一つだけ……試して欲しいことが……』

『なんだ!? 早く言え!』

『……回復魔法を、浄化に組み、こんでくれ……ませんでしょうか……』

『か、回復?』

『メイラム!? そんなことしたらオール兄ちゃんが!!』

『分かっており、ます! です……が……ですが!! これだけの……人間を……俺、は……』


 メイラムの気持ちは痛いほど分かる。

 助けられるのは自分だけ。

 だが、こいつは一匹ずつしか助けられないんだ。

 その間に魔物に齧られて死んでしまったり、毒が完全に回って息絶えてしまったら……。

 死んでしまったら、助けられない。


 だからこいつは、俺が本拠地に行った時に使った回復魔法を皆に使ってほしいと言っている。

 根本的な治療には解毒治療が必要だが、命を繋ぎとめることはできるのだ。

 それができるのは、今は俺だけ……。


『気にするなメイラム。やってやろう』

『オール兄ちゃん!?』

『お、オール兄ちゃんが……倒れたら……これからどうするの……?』


 ラインとデルタが心底心配そうにこちらを見ている。

 心配されるのは嬉しいことだ。

 だが考えてみて欲しい。

 この状況を打開できるのは……俺を置いてほかに居ないだろう。


 臭いで分かる。

 既に多くの命がここで失われている。

 毒で体が動けなくなり、出てきたアンデットに体を食われて死んでしまうのだ。

 動きは遅いとはいえ、こちらが動けなければ死を待つだけになってしまう。

 それに毒は常に回り続けている。

 辛うじてアンデットに襲われなかったとしても、いずれは死んでしまうだろう。


『……ライン、デルタ、ニア。お前らは……俺の父さんを知ってるな』

『『『……』』』

『父さんはな、俺に逃げろと言った。あの時はそんなに深く考えてはいなかったんだが、今思うと、父さんはお前らのことを俺に託したんだと思う。それはリーダーとして、これから産まれてくる子供たち全員を任せるって意味だと思うんだよ』

『……オール様……』

『だからさ……ここで皆を助けないと、俺は父さんに顔向けできないんだわ』


 三匹は静かに、俺の言葉を聞いていた。

 次に広範囲の浄化魔法を俺が使おうとしたのだが、止めはしなかった。

 なんとか、飲み込んでくれただろうか。


 時間もない。

 すぐに広範囲浄化魔法に回復魔法を混ぜ込む。

 俺の魔力総量は無尽蔵だが、これだけの範囲に回復魔法を使うと流石にどうなるか分からない。

 だが、別にどうだっていい。

 これからの時代を子供たちに託せるのであれば……。

 人間たちと共に歩んでいける子供たちがいるのであれば……!!


『俺の死など、些細なこと!!』


 濃い緑色の結界が、広範囲に広がっていく。

 それは毒を一瞬で無効化し、倒れている人間、仲間たちの傷をすぐに癒した。

 ごそっと何かが削れた感覚がしたが、それからはじわじわとすり減っていく感覚に変わる。


 これが魔力総量が減っていく感覚か……。

 ここまで分かると流石に怖くなるな。

 だが……ここが踏ん張りどころだ!!!!


『全員!!!! 魔物を始末しろ!!!!』

『『『『はいっ!!』』』』


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