9.30.図らぬ策
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よければどうぞ!
遠くにワープゲートが見えた。
それは戦争中、テクシオ王国がやってきた時に使ったものよりも大きく、色も濃い。
使用されている魔力量は俺の総魔力の半分くらいが使われている気がする。
これだけの魔力を使用して作られるワープゲート。
あの中からどれだけの敵が現れるか……想像もつかない。
『なんだあの魔力量……』
『リーダー! 敵は!?』
『まだ臭いがしない! 出て来てはいないようだ!』
だったら先手必勝!
『水狼の王』
ダンッと踏み込み、水魔法で水狼の王を作り出す。
地面から這い出るようにして作られたそれは、足を地面に踏み込む度に小さな水狼を作り出して味方を増やしていった。
『ガルザ! 俺は後方援護に集中する! 前線を頼む!』
『了解いたしました! ハバル! 前線に行くぞ! 魔力枯渇に注意しろ!』
「分かった!」
ワープゲートを見てただならぬことが起きようとしているのが分かったのか、ハバルはこれ以上何かを聞こうとはせず、ただ戦闘の準備を整えた。
そのままガルザに乗って走っていく。
俺はその後方で援護だ。
全力でやっちゃうとライドル領が崩壊しかねん!
攻めに強いが守りになると後手に回るかもしれないな……。
だが風刃くらいは使えるはずだ。
土と木々を操って戦うこともできる。
俺のできる事全部使って援護しまくるぞ。
『オール様ぁー!』
『オール兄ちゃん!』
『よし、来たな!』
仲間たちがどんどん集結してくれる。
これであれば何とかなりそうだ。
『ガンマ! 子供たちはどうしてる!?』
『セレナが誘導してくれてるぜ。シグマとラムダも誘導してくれてる。今はこっちに集中してもいいはずだ。あとはレイとドロとウェイスがいるぜ』
『子供たち全員とバルガンたちをそれだけに任せて大丈夫か?』
『俺の子供は意外と強いぜ?』
そうかもしれないが……。
少しこっちに寄りすぎかもしれないな。
向こうにも水狼を行かせておくことにするか。
『っていうかアリア! ラムイム! レスタン! お前ら戦い得意じゃないんだから子供たちの所にいろ! 危ないぞ!』
『そうでした!!』
そうでした! じゃないわ!
ええい、この際数匹は戻すか……。
俺が呼んでおいてなんだけどな……。
『とにかく母親は下がれ! だがすまん、ニアだけは残ってくれ! 光魔法が必要になる!』
『はいっ!』
まだここからなら十分間に合うしな。
今の内に下がらせておいた方がいい奴は下がらせておこう。
子供たちを守ってくれている存在がいる方が、こっちも全力で戦えるというものだ。
くそう、楽しい遠足になるはずだったんだがな……。
ていうかおかしくないか!?
さっき本拠地襲撃して、すぐにこっちにくるとか!
あ、でもあれか……。
あの二人が結託してるんならそれがバレていてもおかしくはない。
でも速すぎるだろ!
どうしてこんなに早く兵を調えることができるんだ!?
アンデットだろうけどそれにしてもだよ!
だがとりあえず戦う準備は整った!
悪魔の倒し方も何とかなりそうだ。
『ガンマ、シャロ! 炎魔法で敵の足の踏み場をなくせ!』
『『了解!!』』
『ヴェイルガ部隊! 二部隊に分かれて挟み込んでくれ!』
『『『『了解です!』』』』
『デルタはとにかく泥人形で味方を増やせ! メイラム! お前は俺の隣りに居ろ! すぐに毒治療ができるように備えろ!』
『わ、分かった!』
『はい……』
全員が言われた通りの動きを取る。
一番初めに指示を出したガンマとシャロは、とにかく広範囲の炎魔法を使用した。
『炎魔法……熱波!』
『炎魔法、炎の草!』
ガンマが大きく踏み込んだ。
その瞬間地面が焦がされ、ワープゲートの手前までが黒くなる。
そこでシャロが魔法を使う。
地面が焼かれたことによってその火力は強くなり、人間の腰辺りまで炎の草が揺らめいていた。
これであれば、ワープゲートから出てきた敵はすぐに燃やされるはずだ。
ヴェイルガたちも展開してくれた。
雷魔法で横矢を入れてくれるはずなので、状況的には有利。
俺とデルタは多くの味方を作り続けているので、どれだけ敵が出てきても兵力差で劣ることは次第になくなっていくはずだ。
こちらの準備は万端だ。
だがしかし、いつまで経っても敵はワープゲートから出てこなかった。
『!!? 兄ちゃん!!!!』
『!? どうしたベンツ!』
『向こうで悲鳴が聞こえた!! 人間だ!!』
『なに!?』
ベンツの声を聞いて、全員が後方を確認する。
向こうには……人間や子供たちがいる……。
『おい待て……。これ……囮か?』
ベンツは耳がいい。
俺たちが聞こえない音でも、よく拾ってくれる。
なのでこの情報は絶対に信じれる。
だから俺は目をつぶって集中した。
反対側にいる敵を補足するために。
そこでは既に血の匂いが充満していた。
更に、腐敗臭もキツイ。
敵が、小さなワープゲートから押し出るようにして湧き続けていた。
『ベンツ!!!! ヴェイルガ!!!! ライン!!!! 今すぐ向こうに行け!!!!』
『『『了解!!』』』
足の速い仲間を急行させる。
ベンツは一瞬で消え、一角狼たちとラインはそれを追う形で走り去った。
俺たちもすぐに行かなければならない。
そう思って前線にいる仲間たちに声をかけようとした。
だが、一番前に出ていたガンマとシャロが、毛を逆立てて警戒していた。
『どうした!』
『……すまねぇ兄さん。俺とシャロはここを守る』
『早く行ってきてオール兄ちゃん! こっちは大丈夫!』
『……っ、水狼は残しておくからな!』
ガンマたちは俺が走っていったことを音で確認すると、爪を地面に立てた。
その瞬間、大きなワープゲートからこれまた巨大な足が現れる。
粘液質の塊。
足と形容してもいいのか分からないそれは骨がないようで、ぐねりと曲がって体を引っ張り出した。
この大きなワープゲートは、囮ではない。
図らずしてそうなってしまったものだ。
今回の敵は、正面から叩き潰すことを目的として攻め入ったのである。
粘液質の体は焦がした地面を急激に冷やし、シャロの炎も飲み込んでいく。
炎があまり効かない魔物のようだ。
体も大きく、十個の目玉がギョロギョロと動き回って獲物を見据える。
『きもっちわりぃなぁ……。あのねばねばは炎でなんとかなりそうだな』
『俺の火力じゃどうにもならないかも』
『数打ちゃ当たる。とにかく炎を使ってあのねばねばを燃やし尽くしてくれ』
『分かった』
巨大な二本の脚が、また体を引っ張って前に出てきた。
動きは遅い。
だがその火力は、体の大きさに見合うものだった。




