9.22.Sidr-ガンマ-知っている臭い
この辺りに毒の香りはしない。
それだけには気を付けろとオールが言っていたので、ガンマは慎重に歩きながら周囲を探っていた。
兄さんよりは鼻が良くないけど、まぁ調べものくらいはできる。
とりあえずここは安全そうだ。
確かこの辺が兄さんが土狼を使った場所だよな。
周囲には木々がない。
土砂によって完全に流れ、地面に飲み込まれてしまっているようだ。
何かあればすぐにでも分かりそうなものだが、ぱっと見たところ変わったところはない。
どういう線で調べてみようかと考えながら、また歩いてみる。
留まっていても気になる物は見つけられないだろうし、とりあえず周辺を散策するのが一番良いと考えたのだ。
『……んー、臭いはあんまりしねぇなぁ……』
地面から若干の腐敗臭はするのだが、それ以外に気になる臭いはない。
もしかしたら腐敗臭によって臭いが判別しにくくなっているのかもしれないな……。
ここは俺の目に頼って調べてみるか。
つってもなー。
何か変な物とかあるかなぁ?
兄さんがこの辺破壊しまくったせいで魔物はおろか動物も居なくなったんだもん。
何かあればすぐにでも気付くはずなんだが……。
ていうかダークエルフだったよな。
そいつの臭いを探っていけばいいはずだけど……。
『……んー、くせぇ。地面の中にあるからっていっても臭いもんは臭いな』
兄さんももっと深く埋めてくれたらよかったのに。
この一件が終わったら頼んでおくか……。
……いや、ちょっと待てよ。
兄さんがそんなへまするか?
なんか知らねぇけど訳わかんない知識をやたらと持ってる兄さんのことだし、浅く埋めたら小動物や魔物が掘り返してしまうのは分かっていたはずだ。
あとのことも考えながら戦うし……いやそこまで余裕な戦いだったのかこれ。
まぁいいや。
とにかくこの臭いの原因を探ってみるか。
地面からっていってもなんか変なんだよな。
地面に鼻を近づけて臭いを辿る。
地中から匂っているようではあったが、集中してみると一つの方角から漂ってきているということが分かった。
そちらの方を見てみると、すぐに穴を発見することができる。
ここから一キロ先だ。
あれは何だろうと思ってすぐに穴へと向かってみる。
そこには人間が一人入れそうな穴が掘られており、臭いはここから周囲に広がっていた。
腐敗臭がきつく、一体何の死体が掘り返されたのかは分からない。
だが、一つだけ知っている臭いがあった。
『!? あの死なねぇ悪魔!!』
いつぞや本拠地に顔を出したことのある、あの悪魔だ。
何度殺しても死なない妙な奴。
どうして今になってこんな所に来ているのかと首を傾げた。
……俺にはよく分からねぇが、兄さんならこれだけで何か導き出してくれるはずだ。
すぐに帰るか?
いや、でももう少し何か調べてからにするか?
……調べるっつったってこれから何すればいいのか分からねぇな。
特に他に気になるものもないし、帰って兄さんに報告した方がいいか。
とりあえず周囲を確認してみる。
悪魔の臭いは何故かここで途切れており、追うことはできなさそうだ。
やっぱ帰るしかねぇか。
早く伝えに行こう。
向こうが手を打ってきたってことは、既に戦える準備が整っているかもしれないからな。
ガンマは足に力を入れて跳躍した。




