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9.19.高難易度解毒治療


『……………………』

『大丈夫か、メイラム』

『申し訳あり、ません……。お静、かに……』

『……』


 洞窟の中で、メイラムは黒い花と戦っていた。

 毒の香をまき散らし続ける美しい花である。


 後ろにはベンツが控えており、その隣には倒れているバルガンとリッツがいた。

 倒れている二匹の足には細く白い根が絡みつき、それが脈打っている。


 一番初めにこの場所に辿り着いたメイラムは、一番毒の臭いが強いこの場所を見て回った。

 救出する前に原因を何とかしなければならないと考えたのだ。

 リッツとバルガンはすぐに見つかった。

 しかし、足に絡まっている根を見て驚愕するしかなかった。


 根は黒い花と繋がっており、明らかに二匹の生命力が奪われていたのだ。

 すぐに助け出そうとしたのだが、近づくと根が伸びてメイラムに襲ってかかってきた。

 なんとか回避することができたが、これでは助けられない。


 あの花を何とかしなければ、この二匹を外へ出すことはできないだろう。

 そう考えたメイラムは、自分の得意な毒魔法を用いて戦うことにしたのだ。

 毒の塊を作り出し、それを花に吸収させて中から破壊させる。


 花を千切ってしまえばいいのではないだろうかとも考えたのだが、根がある以上花を千切ったとしても死にはしないだろう。

 それにこういうタイプの毒は解毒方法を間違えると大変なことになる。

 長い毒治療の経験が活き、そのことを看破したメイラムの判断は正しかった。


 毒を吸収させて操ると、花の組織や性質、毒の種類などが手に取るように分かった。

 花が千切られた場合、養分としている依り代の生命力を多く使って再び花を咲かすらしい。

 こんな花があったのかと、メイラムは驚くしかなかった。

 そして自分の判断が正しかったことに安堵する。


 だがこのままでは状況は良くならない。

 二匹はこの花の近くで倒れており、毒を多く吸ってしまっている。

 既に虫の息にまでなっていた二匹を救うには、体内の毒を解毒、加えて息を吸う度に体内に入ってくる毒を何とかしなければならない。

 更に黒い花を自らが作った毒によって破壊する作業も残っている。


 メイラムは三つの作業を同時にしなければならなかった。

 この作業の難易度は非常に高い。

 解毒するにはその毒について知らなければならないからだ。

 解毒できる毒を作り出し、体内の毒を完全に解毒する繊細な作業もしなければならないのだ。

 少し間違えれば魔力組織を破壊しかねない。


 しかもそれを二匹同時に治療しなければならないのだ。

 この繊細な作業を同時に二匹分するのは、ほぼ不可能。

 なので既に若干魔力組織を破壊してしまっている。


『…………』


 一つの頭で、三つのことを同時に行うメイラム。

 その難易度は、至極高いものだと言っても差し支えないだろう。


 既に黒い花の毒放出能力は破壊した。

 あとは苗床から養分を吸収する能力を破壊すれば、この花は勝手に死滅する。


 ギリリッ……。

 歯を食いしばる音がベンツにも聞こえた。

 また声をかけようと思ったが、総毛立つ毛並みを見て口にしようとした言葉は引っ込んだ。


 爪が地面に傷をつけ、口からは涎が垂れる。

 集中しなければこれだけの作業は行えない。

 既に二匹の魔力組織を何個か破壊してしまっているが、それでもまだ残っている組織を傷つけないように解毒治療を行っていく。


 花の根の脈が弱まっていく。

 自分が作り出した毒を根から二匹に流れないように、花の中だけに維持させる。


 はらり。

 二枚の花びらが地面に落ちた。

 それと同時に白い根が枯れていき、最後には塵となって黒い花ごと消滅した。


『…………』

『おつか──』


 花が枯れて一安心したベンツだったが、振り向いたメイラムの顔は未だに厳しいものであった。

 すぐに二匹の元へと歩み寄り、近づいて毒治療を再開する。

 まだ二匹の体の中に残った毒が消えたわけではない。

 魔力組織の崩壊をできる限り防ぎつつ、メイラムは再び集中し始めた。


『グルルルルゥ……』


 毒の解読が完了し、本格的に毒の治療に入る。

 進行を防ぐという防衛一方だった状況を逆転させ、解毒を開始した。

 二匹の呼吸は次第に大きくなっていき、生きているということを教えてくれた。


 しかし安心したのも束の間。

 突然二匹が暴れ始めた。

 倒れている状態なので逃げたりはしないが、とても苦しそうだということが分かる。


『……耐えて……ください……!』


 破棄された魔力組織の修復。

 完全に壊れているのは直せないが、修復できるものはしてしまう。

 これが激痛を伴うのだ。

 人間に治療をした時もそうだった。


 だがそれも一瞬のこと。

 二匹はすぐに静かになり、呼吸が安定した。

 そこでようやくメイラムは目を開ける。


『……終わり、ました』

『よくやったメイラム! 僕が全員運ぶから君は皆と合流して! 多分兄ちゃんの近くにいる三匹も毒に侵されてるから……!』

『やりましょう。俺の、仕事です』

『負担をかけるね……すまない』


 メイラムはそれだけ言うと、すぐにワープゲートに入っていった。

 ベンツは二匹を器用に咥えて、メイラムの後を追った。

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