8.42.雷魔法と雷魔法
稲妻が地面を走りまわる。
地面を穿つ音、剣が空を切る音が響き渡り、切られた毛が宙を舞った。
「グルルル……!」
「シーッ……!」
ベンツは未だにジェイルドと戦闘を繰り広げている。
恐らくこの人間に対処できるのは自分だけ。
兄ちゃんも戦えるだろうけど、レイとウェイスを守りながらだと難しいと思うので、ここは自分が適任だ。
というかこの人間、強い。
僕の方が速度に持続力はあるけど、こいつはそれをカバーするように一瞬立ち止まって最高速度を使い続けている。
武器の鋭さも雷魔法で上昇させているのか、岩も簡単に切り裂いてしまう。
少しでも反応が遅れたり、移動する場所を間違えたら切られてしまうな。
「ツインチャージ……」
剣と剣を弾き合わせて火花を出す。
すると雷が剣に纏わりついて光輝いた。
雷は足へと移動し、蹴ったと同時に一瞬でベンツの元に移動する。
その行動を予測していたので、すぐに右へと飛んで攻撃を回避した。
回避した瞬間に置き土産として雷弾をその場に置いておく。
だがそれは簡単に切り裂かれて霧散した。
雷魔法が効かない人間。
こうなってしまうと物理で攻撃するしかない。
身体能力強化の魔法は持っているが、それは速度を上げるためだけのもの……。
攻撃に特化させているわけではないので、自分がどこまでできるか不安だ。
『つっても、向こうが終わる前に仕留めないとな』
雷魔法は効かない。
だがそれはこちらも同じこと。
だったら雷魔法を囮として使うのが良いだろう。
効かないとはいっても、それは対処しなければならないものらしい。
兄ちゃんも空中でなら攻撃は通るって言ってたし、できればそれを狙いたいところだ。
『とりあえず、まずは様子見! 雷爪! 雷狼!』
爪に雷を纏わせて走り出す。
ベンツだけができる計十匹の雷狼を作り出し、それを操ってジェイルドへと向かって走り出す。
しかし、ベンツは黒色で本体がどれか分かりやすい。
錯乱させることはできないだろう。
だが移動する場所をこれで制限することができる。
「多いな。だが……チャージ完了」
ファイティングソードを逆手持ちにしたジェイルドは、姿勢を低くして再び最高速度でベンツに接近する。
雷狼がいるので移動先は指定されていた。
狙い通りにジェイルドは作られた道を通ってきたことを確認したベンツが、再び一つの技能を発動させる。
『地雷電』
「!?」
ババリバリバリババババリバリッ!!
任意で地雷電を発動させた。
今までの戦いの中で、一度足を地面に着けた場所にはこの地雷電を仕込んでいた。
すでに数百個の数が埋まっていた為、その攻撃範囲は雷円陣よりも広い。
雷狼に守ってもらうことによって自分は無傷。
だがジェイルドは雷魔法を地面に逃がすことができるので、この攻撃で仕留めるのは難しいだろう。
地面が周囲に残っていればの話ではあるが。
「グヌゥウウッ!!」
『来ると分かってる場所には特大の地雷電を埋め込んでおいたからね』
魔力を籠める量によって、地雷電の爆発の威力は変わる。
最後に足を着けた場所には自分の持っている魔力の半分を仕込んでおいたのだ。
それによってジェイルドは爆撃で大きく吹き飛ばされ、まともに雷魔法を喰らうことになった。
しかし、辛うじて致命傷は避けたようで、爆発での傷は浅い。
それに雷魔法も武器を使って何とか逃がすことに成功していた。
雷魔法を使う人間には雷に対する耐性もあるらしく、多少喰らっただけでは倒すまでとはいかないらしい。
だが今、ジェイルドはダメージを負って動きが鈍くなっている。
攻撃するのであれば今しかない。
ザッと体勢を低くして纏雷を使って地面を蹴る。
解除していない雷爪がジェイルドへと迫り、その攻撃はしっかりと当たった。
強い衝撃が腕を伝わってくる。
だが、激痛も走ってきた。
『っ!?』
「……グェッホ……」
ベンツがジェイルドを攻撃する直前、彼は剣をその腕に二本突き刺したのだ。
しかしベンツの攻撃の勢いが衰えるわけではなく、ジェイルドはそのまま遠くへと吹き飛ばされて地面を何度かバウンドした。
剣が引き抜かれる瞬間に、ジェイルドは雷魔法を使用してベンツにダメージを与えることに成功していた。
それによって肉が焼け、尋常ではない痛みが右手を襲ってくる。
これでは前足の踏ん張りが利かず、雷魔法を使った移動が制限されてしまう。
『いーっ……!!』
「がぁっは……べっ……。なんっつー馬鹿力だよ、おい……」
前足を地面に置くと更に激痛が走る。
残った足だけで戦えるだろうかと不安がよぎった。
すぐに雷狼を作り出して自分の身を守るように配置する。
ジェイルドの体は既にボロボロだ。
今の一撃で骨が何本か折れ、罅はいくつも入っている。
特に損傷が激しいのは左手だ。
もう剣を持ち上げるだけの力も残っていなかった。
「……ぐぅ……」
『……? 寝た……?』
突然剣を地面に突き刺して、それに身を預けて眠り始める。
何の冗談だろうかと思ったが、少しだけ観察していると妙なことが起こり始めた。
パキパキ、ポキッ。
ペキキ……カコッ。
耳のいいベンツだからこそ聞こえた音。
それはジェイルドの体の中から聞こえているようだった。
『!? まさか!』
「んぁ? ……よし」
上がらなかったはずの左手で突き刺した剣を握り、引っこ抜く。
肩を回して音を鳴らした後、再び構えた。
「……へへ、第二ラウンドだ」




