8.40.本気の一撃
「はっはぁーこいつはいい! こりゃフェンリルじゃねぇか! まさか本当に居るとは思わなかったなぁおい!」
「水色の子綺麗ね! あれ私がもらっていい!?」
「おういいぞ。俺はフェンリルを貰うぜ」
「交渉成立! 久しぶりにいい共闘ができそうね」
「確かにな」
ザックがロングソードを手に持ち、小さな杖を懐に仕舞う。
マティアは二歩下がって水魔法を展開し、その形を変えていく。
『すまんな三狐。降りてくれ』
『『『……はい』』』
『ねぇ……オール兄ちゃん。あの人間……懐かしい匂いがするんだけど……なんで?』
『……お前らの親を殺した人間だからだ。ウェイス、レイ』
その言葉を聞いて、レイがはしゃぐのを止めた。
ウェイスは緊張を拭い去った。
あの頃、こいつらはほとんどと言っていいほど目が見えていなかったはずだ。
なので匂いで親を認識していたに違いない。
子供の頃に嗅いだ臭いは、この子たちはしっかり覚えているのだ。
二匹の毛が逆立った。
それに伴ってレイの周囲には冷気が吹き荒び、ウェイスの周囲には突風が吹き荒れる。
やる気になった二匹の後ろで、俺も魔力を敵にぶつけて威嚇した。
ゴトッ、バシャッ!
レイの近くで何かが落ちる音が聞こえ、ウェイスの目の前で水が弾けた。
二匹は攻撃が来ることを理解していたようで、微動だにしていない。
「うわ、私の先制攻撃が……」
「自動防御か。中々厄介だな。全兵士!! ありったけの魔法をあいつらに撃ち込め!!」
『『『『はっ!!』』』』
ザックの指示に兵士たちは全員が従う。
隊長格もそれに混じって魔法を使っていた。
これは……知っている。
あの時父さんに教えてもらった……。
『二匹とも! 一回下がれ! 悪いが本気で地面をぶっ壊す!!』
『『分かった!』』
『『レイさん、ウェイスさん、こちらへ!』』
後ろの方で三狐が支援をしてくれるようで、既に冥によるワープゲートが作られていた。
界はヴァロッドたちを守るために一足先にガルザの元へと移動し、空間魔法を使って俺の攻撃から守ってくれるらしい。
さすが長いこと一緒にいただけあって、連携が取れてんな。
界、頑張って耐えてくれよ!
俺ですらこれはどうなるか分からん!
足音を聞いて全員がこの場を離脱したことを確認した俺は、魔法を体に纏わせる。
身体能力強化の魔法で基礎能力を向上させる。
雷魔法で体を動かす速度を上昇させた。
風魔法で自身の周囲を守り、炎魔法で攻撃の火力を更に上昇させる。
土魔法で地面に亀裂を入れて準備を整え、ヴァロッドたちの方側の土は硬質化させた。
風魔法を二つ重ねた疾風魔法で腕を振り下ろす瞬間に、身体能力強化の魔法、風魔法、雷魔法を複合させた風神を発生させる。
赤と黄色の稲妻が走り、緑の風が俺の周囲を包む。
手に炎が宿って燃え盛り、あの時作り出した火球と同じ大きさへと昇華する。
風の勢いもあってそれはどんどん勢いを増し、自分の力がどんどん腕に溜まっていくのが分かった。
「え? やばくない?」
「すげぇ魔力の塊だなぁおい……。マジックディスタープは?」
「できるかな……」
「俺たちだけでも守れよ」
大きく腕を振り上げ、ただ下すだけの動作。
これだけでいったいどれだけの人間が死ぬのか想像もつかない。
だが今は感情に任せてやっても、許されるだろう。
『ただで死ねると思うなよ人間!!!!』
カッ! と目を見開いて腕を振り上げる。
次の瞬間、見えない速度で地面を思いっきりぶっ叩いた。
ズダァンッ!!!!
地面が凹む。
ベゴォン!!!!
更に凹む。
ガァアンッ!!!!
また地面が凹み、土の塊が浮上する。
土魔法で亀裂を入れたため、そこから地面が盛り上がって人間たちを襲う。
飛んできていた魔法もそれで消し潰され、人間が立っているであろう全ての足元が瓦解し始めた。
もう人の声は聞こえない。
聞こえるのは地面が隆起し、風神で切り裂かれた土が人間を襲い、地鳴と地震の音だけだ。
『炎魔法!! 炎上牢獄!!』
だがこれだけでは終わらない。
手に宿していた炎を地面に向けて放つ。
地中の隙間を縫って炎が走り、様々なところで炎が吹き上がった。
火力はガンマには劣るだろうが、それでも自分が今全力で込めた炎魔法だ。
その範囲は……地面が隆起したせいで見えなかった。
地面が溶け、爆発して瓦礫が人間を更に襲う。
四方八方からの攻撃となったこの一撃は、容易く人間の命を刈り取った。
「ぐぬぅううう!」
「なん……うぉおおお!?」
『リーダー! やり過ぎだ! 界! 持ち堪えろよ!』
『やってますよぉ!! ていうか尻尾絶対に離さないでくださいね!? 飛んじゃいますからね!? 絶対ですよいいですね!?』
『分かったから集中してくれ!!』
ヴァロッドは俺の攻撃の風圧を盾で防いでいる。
後ろにいる兵士たちは何とか無事のようだが、彼の後方にいない兵士は地面に手足を着けて耐えているようだ。
界が結界を何重にも張っているのにも拘らずこの威力。
これをまともに受けている人間がどうなっているかは、見なくても分かるだろう。
次第に地震が収まっていく。
ようやく立ち上がれるようになったというのに、ライドル領の兵士は未だに膝をついて唖然としていた。
中央には白いフェンリルがただ静かに立っていた。
次の瞬間、黄色い稲妻が走ってフェンリルの隣りで止まる。
『兄ちゃん、ちょっと危ない』
『…………お前は既に戦っていたのか』
『まぁね。まだ仕留めきれてないけど』
『……ベンツが苦戦するとはな』
静かになった戦場で、一つの岩がぐらりと動いた。
一瞬で細切れにされたその岩の陰から出てきたのは三人。
全員が土で汚れているが大きな怪我はしていないらしい。
「ふざけやがってぇ……」
「水が熱くなっちゃったね」
「行くぞ貴様ら」
「「人使い荒っ」」
三人の冒険者がゆらりと出てきた。
残すはこいつらだけ。
他の人間は既に死んでいるだろう。
『オール兄ちゃん』
『戻ってきたか。助かったぞ三狐』
『『ご武運を』』
そう言って三狐は引っ込んだ。
ワープゲートが静かに閉じる。
四匹が同時に敵を睨んだ。
あいつらは親の仇。
憎まない理由がどこにも存在しない。
『ついて来いお前たち』
『『『了解』』』
全員、一歩前へと足を踏み込んだ。




