8.33.当日
今日はライドル領が騒がしい。
兵士の多くが装備を身に着けて準備をしており、馬車に物資を詰め込んでいる。
戦わない領民もその手伝いをしているので、準備自体に時間はかからなさそうだ。
出発日です。
兵士たちがライドル領からいなくなることに不安を覚えている人間もいるみたいだけど、彼らを救ったメイラムがいるので多少は安心しているみたいだね。
とは言っても兵士の顔もあまりいいものではないな。
まぁ当然のことなんだろうけど。
さて、俺たちはサニア王国の方面に向かって出発する。
で、今日でアストロア王国の兵士を全部ぶっ潰す予定だ。
ガンマ指揮の下、頑張っていただきましょう。
戦いが終了次第こちらに向かって来てくれるということなので、それで勝ったかどうかは分かるかな。
俺たちの足であれば、今アストロア王国の兵士がいる場所まではすぐに行ける。
一角狼たちなら本当にすぐなんじゃないかな。
あとはあいつらに任せておけば、今回は大丈夫だろう。
奇襲という形で戦ってくれるだろうしね。
ヴェイルガがいるし、戦術はこいつに任せて総指揮はガンマに任せる。
索敵ができるヴェイルガとそれに従う一角狼がいるのであれば、それなりにいい戦いが繰り広げられるのではないだろうか。
期待しているぞ。
『では行って参ります!』
『おう。レーダーを使う時は気を付けろよ。お前魔力少ないんだから』
『肝に銘じております! ではガンマ殿、行きますよ!』
『元気だなぁこいつは……』
一角狼たちが雷を纏う。
ドロはガンマの背中に乗ってしっかりと毛を咥える。
『振り落とされるなよドロ』
『う、うん……』
バヂリッと赤い稲妻を体に纏わせたあと、ガンマが一気に走り出す。
それは一角狼の纏雷を凌ぐ速さであり、すぐにその場から見えなくなってしまった。
慌ててヴェイルガたちも走っていく。
おお、ガンマも結構身体能力強化の魔法を使いこなせるようになってきたんだな。
前は地面を抉らせてたのに、今は少し凹む程度に抑えている。
どうやってあんな速度出しているんだろう。
ていうかドロ大丈夫かな。
さて、こっちはもう少しだけ準備がかかりそうだな。
だったらベンツを見てみることにするか。
土狼の視界共有を利用して、ベンツの居る場所を見てみる。
するとベンツは暇そうにしていた。
その隣には多くの冒険者、行商人の遺品らしきものが固められている。
この期間の間にも結構調査しに来たやつらがいるんだな。
こいつに監視を任せて正解だったぜ。
『ん? あ、兄ちゃん』
おっす。
順調そうで何よりだ。
『結構な足音がこっちに近づいてるよ。まだ距離はあるけど、そっちがここに合流する前には向こうの足音がここに到着しそう』
む、サニア王国の移動速度が少し早いな。
まぁやることは変わらないか。
でもベンツは戻した方がいいな。
ここまで来たらもう監視も要らないでしょ。
敵を出陣させることができたのであれば、問題なし。
土狼の魔力を使ってワープゲートを作り出す。
帰って来いという意味なのだが、分かるかな。
『ああ、もういいのね。分かった。じゃあそっち戻るよ』
お、伝わった。
ベンツはすぐにそのゲートに入って、こちらに戻ってくる。
できればこの物資を持って帰りたいところだけど、まぁ別にいらないか。
んじゃ、最後にこの土狼の魔力を全部使ってここら一帯を更地に直しておきますかね。
これでこの土狼も解除されるし、一石二鳥ということで。
始めっからこうしてればよかったかな?
でもあの惨状があったから冒険者や行商人を足止めできていたと考えれば、あのままでもよかったか。
ついでに他の土狼にも視界を合わせて、状況を確認してみる。
アストロア王国の方は特に変化なしだな。
数日前に兵が出陣したからそれくらいか。
テクシオ王国の方は……相変わらず魔物が蔓延ってるな。
兵が出陣する所を見れなかったのが少し痛いけど、国の周辺がこんな状況だったら援軍も少ないでしょ。
もしかしたら未だに援軍を出していないかもしれないしね。
確認し終わったので、視界共有を切る。
目の前には帰ってきたベンツが待機していた。
『ただいま』
『お疲れ。問題はなかっただろうけど、どうだった?』
『あの場所に集まってきた人間は十匹くらいだったかな。食べるのも面倒だったから地面に埋めておいた』
『食べにくいもんな』
うん、食べたいとは絶対に思わないけどね……。
『オール兄ちゃーん。まだ行かないの?』
『ドロはもう行っちゃったの』
『待て待て。俺たちは人間と一緒に向かうんだから』
『『えー』』
『遅くなるのは仕方ないよ、二匹とも。今回は僕たちの力を人間たちに見せつける必要があるんだから』
お、さすがベンツ。
よく分かってるじゃありませんか。
『それって敵に?』
『いや、ここに居る人間にかな』
『意味あるのー? それより早く戦いたいの!』
『あと少し待つんだ。出番はあるからね』
『むー』
この二匹は張り切って魔法の練習してたからな。
既にうずうずしてるんだろう。
『あっ』
『え、どうしたの兄ちゃん』
『ガンマたちの方に水狼の王を向かわせるの忘れてた』
『……必要あるかな?』
『念には念を、な』
ちょっと遅いけど、水狼の王を作り出してそいつをアストロア王国の方に向かわせておく。
あれも足は速い方だし、多分間に合うだろう。
到着する前に終わっちゃう可能性も否定はできないけどね……。
お、どうやらそろそろ出発するらしい。
じゃあ俺たちも一緒に出るとしますかね。




