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8.25.報告書


『ベーリルー!』

「おわわっ!」


 セレナ。

 いい加減会うたび会うたび飛びつくのは止めなさい。


 とりあえずヴァロッドとベリルと合流することはできた。

 今は兵士や物資を調えていたようだ。

 在庫整理が主みたいだけどな。


 俺たちが近づいてきたことにすでに気付いていたヴァロッドは、セレナがベリルに飛び掛かったところで、声を掛けてくる。


「どうしたフェンリル」

『面白い物を回収してきた』

「ん?」


 闇の糸で冒険者のバッグをすべて手渡す。

 出所を知らないヴァロッドは首を傾げながらそれを受け取った。

 ごそごそと中をまさぐって取り出して、目を見開かせる。


「この鎧の欠片は……サニア王国の物か……」

「サニア王国……ですか?」

「ライドル領からサニア王国へと向かわせた俺の部下には、こういったものを回収してこいとは指示していない。冒険者はあの場所に向かうことを禁じている。となるとこれは誰のものだ?」

『サニア王国の冒険者だ。俺たちが戦った場所に監視を置いておいた。そうしたら冒険者が調べ物をしている風だったんでな。ちょっと荷物を奪ってみた』

「危ないことはしないでくれよ……。だが冒険者の物だというのであれば……」


 三人分の荷物をヴァロッドは漁っていく。

 必ず持っているという確信があるらしく、これでもないあれでもないと中に入っていた物をどんどん外へ取り出してその辺に投げ捨た。


 そういえばこいつ、元冒険者だったな。

 これが今役に立つなんて思わなかったなぁ~。

 多分ヴァロッドも同じことを考えているんだろうけどね。


 しばらくしていると、ヴァロッドがバッグの中から丸められた紙を取り出した。

 中身はまだ見ていないが、それを見て大きく頷く。


「あったぞ」

「紙……ですか?」

「冒険者ギルドの依頼書だ。お前も知っているだろう?」

「はい。冒険者は依頼書を所持して依頼をこなしに行きます。それを依頼主に見せたりすれば、話が速く進みますからね」

「その通り。依頼書には依頼主のサインもあるからな。偽物を作るのも難しいんだ」


 へぇ~。

 その辺は結構しっかりしているんだ。


 ヴァロッドは丸まった紙を開く。

 依頼書の内容を見て眉を顰め、サインを見て驚いた。


「こ、これは……」

『お? なんだなんだ? 俺は字が読めなくて分からなかったんだ』

「サニア王国国王と騎士団長のサイン……。依頼内容は帰還しない兵士の調査だ……」

『……つまり国が動いてるってことか?』

「まぁそういうことだ。だが問題はこの冒険者だ。フェンリルよ。冒険者はどうした? 逃がしたか?」


 これは本当のことを言ってもいいのだろうか。

 いや、ここで嘘を吐いてもどちらにもメリットはないしな。


『すまん。殺してしまった。惨状を見て帰ろうとしていたんでな。対策を取られたら面倒だと思ったんだ』

「それなら良かった。こいつらは密命で依頼を受けている。こちらの情報が洩れれば敵は攻め方を変えてくるだろう」

『む、これはわざと逃がして敵を寄せ付けない方が良かったか?』

「いや、今に面白いことが起こるからこれでいい」

『ん?』


 面白いことってなんだろう。

 俺的には絶対に攻めなければならない状況を作らせたかっただけなんだけどな。

 アストロア王国から依頼を受ければ、多分その要請に頷いて兵を出すと思う。

 あ、でもあれか。

 五千の兵士が帰って来なかったらそりゃ警戒するわな。


 ……ん?

 ヴァロッドが言っている事ってそれか?


「お父様。面白いこととは一体何ですか?」

「よしベリル。ここで少し勉強だ。サニア王国は五千の兵士をこちらに仕向けたが、返り討ちにされてしまった。状況を報告しに行く使者も倒されてしまったため、帰ってこない五千の兵士の情報を得るには、こちらに冒険者か兵士を送り込まなければならない。ここまでは分かるか?」

「分かります」


 うんうん、ここまでは俺も分かるぞ。

 あの辺は街道もないから、行商人からの情報も入りにくい。

 ガンマが盛大にぶっ壊したおかげで、足場も悪いから馬車なんかは通れないだろうな。


 それがなかったとしても、今の状況的にライドル領に行商をしに来る奴は少ない。

 前に来た行商人もサニア王国とは違う方角に行っちゃったしね。

 尚更自分たちで情報収集をしないといけない状況になっているはずだ。


「ではそこで、数人の情報収集役を派遣する。それがこの荷物の持ち主だ」

「はい」

「予定としては二週間から一ヵ月の間に戻ってくるはずだが……帰ってこなかった。そうなった場合、サニア王国はどう考える?」

「……五千の兵士と冒険者が消息不明になっているのであれば、ライドル領には強大な力を持って何かがいる……とかでしょうか?」

「さすがだ。ほとんど正解。あと付け加えるのであれば、情報を集めにいった者たちを口封じする存在がいたり、常に監視を置かれていると考えるかもな。他にもあるが、今はこれくらいにしておこう。そして、あいつらはひどく警戒をすることになる」


 うん、確かにそうだな。

 まぁその正体は俺らなんですけども。


 ……ん?


「さぁ、そこでアストロア王国からの援軍要請が来る。彼らはどう対処すると思う?」

「あっ。せ、攻めるかどうかを考える時間が必要になる! ですか!?」

「大正解。アストロア王国は確かに大きな国だし、物資も兵力もここより数十倍もある。だがそんな弱小な国が五千の兵士を倒したとなると、援軍を出してもいいものかと悩むしかない。返り討ちにされる可能性も否定できないからだ。しかしアストロア王国は事を早く終わらせたいというのが、兵を出す期日から察することができる。これはハバルが持って帰ってくれた情報だな」


 ヴァロッドは指を鳴らした。


「サニア王国はアストロア王国から同時に攻め立てる期日を提示する。それは今から一ヵ月半か、二ヵ月後くらいか。状況を把握できていない彼らでは、この時間は短すぎるだろうな。兵士の準備にも時間はかかるから最低でも半月で結論を出さなければならない」

「そ、そうか……。フェンリルさんが戦った場所はサニア王国から馬車の往復で一週間ですよね。てなると調べに行く回数も限られる……」

「その通り。敵はエンリルが味方に付いたのではないかと疑うかもしれないが、魔物が仲間になるとは考えにくいと思うだろうしな」


 おおーーーー……。

 凄いスッキリした気がするんだが。

 俺はそこまで考えられなかったけど、図らずもいい感じの仕事をしていたってことだな!

 やっぱ俺凄い!


「ということで俺たちがやらなければならないことが決まった」

『え?』

「え?」

『『『何話してるのー?』』』


 ヴァロッドは俺を見て、ニカッと笑った。


「全力で嫌がらせだ」

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