8.19.手合わせ
というわけで二匹がいる場所にやってきたわけだけど……。
うわぁーお。
すんごいことになってんなぁ。
稽古場に選ばれたのは第三拠点の少し離れた場所。
開けているし、この辺には人間もあまり来ないので思いっきり暴れることができる。
そして現在、氷とその破片がその辺に沢山転がっていた。
『うりゃああ!』
『はぁあ!!』
レイが地面を叩く。
すると氷の柱がウェイスに向かって突き出していった。
ウェイスはそれを目視した瞬間、腕を縦に振るって氷を四枚に下ろす。
砕けた氷が周囲に飛び散り、レイの発する冷気の様に白い煙がもわもわと舞っていた。
この稽古は、レイの魔法発動時間の短縮と、ウェイスの反射速度と攻撃力を向上させるためのものらしい。
俺の知らないところで自分なりに稽古方法を考えていたのね。
やっぱり成長するんだなぁ。
『見ないうちに強くなったな。二匹とも』
『おっ! オール兄ちゃん遅いぜ!』
『久しぶりに模擬戦するの!』
『はいはい。どっちからくる?』
『レイは今ので魔力減ってるよな。俺からでいいか?』
『それでいいの!』
『よしっ!』
今回はウェイスが初めに俺と手合わせをするようだ。
うーむ、こいつらを向こうの拠点に移してからは全然手合わせしてなかったもんな。
こいつらも気合が入るわけだ。
さて、とはいっても負けるわけにはいかないのでね。
大人げないとは言わせないぞ。
俺たちは一匹でも生きていけるだけの力を持たなければならないのだからな。
なにせ今は戦争の一歩手前だ。
もう状況的には始まっているかもしれないけども、いつどこで襲われても返り討ちにできるだけの力は持っておいて欲しい。
ま、負けることによって自分の弱点とか分かるだろうしな。
ということで手加減はしません。
まぁ受けに徹する感じにはなるけどもね。
『っしゃいくぜオール兄ちゃん!』
『いつでもいいぞ~』
『よっしゃ!』
ウェイスは毛を逆立てる。
周囲に突風が吹きはじめ、ウェイスの毛を暴れさせた。
んん?
あんなのは父さん使ってなかったな……。
こいつが編み出した魔法なのかもしれない。
少し警戒しておくか……。
『風魔法、ウィンドルバッシュ!』
『ぬぉ!?』
風が俺に当たった。
ダメージはほとんどないが、それは俺だからだろうな。
普通だったら吹き飛ばされてる威力だぞ。
ダンッダンッ!
ウェイスが飛び出して突っ込んできた。
それを軽く回避したのだが、ウェイスは風を操って飛び出した威力を完全に止め、地面に足をついて風の塊を連続で撃ちだしてくる。
不可視の攻撃。
なかなか厄介な技だなとは思うが、こういうのは遮蔽物でどうとでもなる。
『水狼』
破裂能力をなくした大きな水狼だ。
水の塊で狼の形を維持しているだけだが、その硬さはアスファルト並みである。
先ほどウェイスが放ってきた攻撃は水狼に全て防がれてしまう。
やはり遮蔽物があると攻撃力は大幅に減るのね。
よっしゃ、じゃあこっちから攻撃だ。
水狼を操ってウェイスを襲う。
『ほっ!』
飛び掛かった水狼だったが、ウェイスは有り得ない動きでそれを回避する。
風で体を浮かせたのか?
なかなか器用なことをするじゃないか。
『ウェイス。お前は多対戦が苦手だったな』
『え? ……あ! ちょま……!』
『水狼』
追加で水狼を三体作ってやる。
四体の水狼がウェイスを襲う。
『くそー! まだ本調子じゃないけど……!』
『んっ?』
ウェイスの毛が更に逆立った。
風が体を包み、ふわりと浮くようにして移動している。
まるで無重力空間にいるような動きだが、速度は速い。
一度大きく跳躍し、爪を立てる。
『オール兄ちゃん! 気を付けてなー!』
『何をするつもりだ?』
ウェイスはその後、風魔法を一度解除して重力に従って落ちてきた。
高さ的には狼であればけがをしない程の高さなのだが……。
着地する寸前で、腕を大きく振るった。
『落ち風刃!』
ギャガッ!!
バシャバジャンッ!!
腕を地面に叩きつけた瞬間、地面は一瞬で裂けて二匹の水狼が両断された。
俺の作った水狼はアスファルト並みの防御力を持っていたのだが……。
ウェイス、お前凄い技考えたな!
風魔法の適性が二つあるっていうのにも何か起因しているんだろうけど、それでもこれを二体壊すことができたのは凄いぞ!
『やるじゃねぇかウェイス!』
『連発が無理なんだけどね!』
『確かに空中では無防備になるからな。その辺を、少し勉強するか! 銃水弾!』
『うげっ!』
攻撃力は申し分なし。
では今度は防御面を見てみることにしよう。
殺傷力をなくした銃水弾を連続して撃ち続けてみる。
ウェイスはその攻撃を素早い動きですべて躱していく。
あわよくば攻撃する隙を狙っている様だが、それはまだ近くにいる水狼二匹が阻止している。
近距離と遠距離からの攻撃。
更にウェイスが苦手とする多対戦。
あいつの弱点を的確に突いて攻撃を阻止しているわけだが、さて、どう切り返してくるかな?
『よし! 登り風刃!』
『おっ』
今度は跳躍した瞬間に、先ほどと同じ威力の風刃を繰り出した。
二匹の水狼が重なる時を待っていたらしい。
なるほど、だから回避に専念していたのか。
『ウィンドルバッシュ!』
風を使って銃水弾の攻撃をすべて弾いていく。
今度はこちらが攻略され始めている様だ。
これは、水だけだと攻め切れないかな?
じゃあ属性変更だ。
『風は、炎を燃やしてくれるよな』
『うげっ!! 炎魔法かよ!!』
火球を周囲に展開して、一発ずつ打ち込んでいく。
何とか風魔法で打ち消している様だが、その際に炎は風の力を受けて大きく燃え、消えてしまう。
一瞬ではあるが視界が遮られてしまうようだ。
『円炎』
『あっちゃああ!!?』
瞬時にウェイスの周りを炎で囲む。
風魔法を周囲に纏わせていたため、その炎は勢いを増してウェイスを焦がしていった。
勿論焼いているわけではないよ!
『あちゃちゃちゃ!! こ、降参! こうさーん!』
『次の課題は炎魔法だな』
『れ、レイー! 冷やしてくれ!』
『分かったの』
ウェイスはレイの近くによって、体を冷ましている。
いや、でも善戦したね。
リーダーは君の成長を誇らしく思うぞ。
んじゃ次はレイだな。




