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8.15.報告


 今日は日が温かい。

 なのでライドル領にいる狼全員を集めて日向ぼっこをしている最中だ。

 高い建物や木がないので、いい感じに毛が温かくなっていく。

 子供たちは親の側で腹を出して眠ってしまっている。

 安心しているのがよく分かるが、もう少し警戒してね。

 可愛いから全力で守るけども。


 ちなみにセレナはベリルの膝の上で寝ている。

 彼もガンマに背を預けて眠ってしまっている様だ。

 ガンマはあまり気にしていないらしいな。


 いやぁ、こういうのいいですねぇ……。

 俺も寝たいけど、皆寝てるし一匹くらいは見張りがいないとね。

 それにしても、なんだか活気を取り戻した感じが凄いなぁ。


 周囲を見渡してみると、ライドル領の領民が畑仕事をしたり、冒険者としての仕事をこなしたりと忙しそうに動いていた。

 蛇肉パーティーから少し警戒心が抜けたのか、以前よりも気楽そうだ。

 これくらいが一番いんだろうけどね。


 敵が近づいてきている匂いもないし、まだ向こうも準備をしている最中なんだろうな。

 んー、俺の土狼や水狼で攻めさせてもいいんだけどね。

 そうなるといつの間にか勝っちゃいましたってなりそうで怖い。

 人間たちには戦争に勝利したという感覚が必要だろう。

 そうじゃないと本当に安心したりはできないはずだ。


 水狼の王もいるし、俺の分身みたいな感じで水狼を操ってくれる魔法もある。

 魔力の消費は激しいけど、今の俺であれば問題なく使いこなせるはずだ。

 ぶっちゃけ何が来ても戦えるだけの力はあるんだよな……俺。


 人間に合わせなければならないってのが、今回の難しいところだな。

 もういっそのこと敵を近くまで誘い出してから、俺が全部片付けようかね。

 そうしたら戦争に勝ったってライドル領の領民も理解してくれるだろうしなぁ……。

 ま、まだ情報も入ってこないし、今は皆でゆったりしておきましょうかね!


 そういえばあの毒の剣どうなったんだろう……。

 まぁあいつなら使いこなせるだろうけど……。

 ていうかギルドマスターのディーナって一角狼のお母さん狼のディーナと名前同じでやっぱり分かりづらいなぁ。

 支障はないんだけどね。


『ん? ガルザが帰ってきたのか?』


 匂いでガルザが帰ってきたということに気が付いた。

 立ち上がって迎えに行こうと思ったが、周囲には気持ちよさそうに寝ている仲間たちがいる。

 これは動けないなと思って、ガルザがこっちに来るのを待つことにした。


『……ガルザか?』

『ガンマ、起きていたのか』

『今起きた。おいベンツ起きろ』

『起きてるよー』


 どうやら結構起きている奴がいたらしい。

 まぁ眠りは浅いんだろうなぁ。

 子供たちは違うんだろうけど。


 ベンツは立ち上がって伸びをする。

 ガンマも立ち上がろうと思ったが、自分が動くとシグマとラムダを起こすことになるということに気付いて、また伏せた。


『小僧も寝てんのか』

『じゃあガンマ、よろしく。俺はベンツとガルザを迎えに行ってくるよ』

『おう』


 頷いた後、俺とベンツは立ち上がって歩いていく。

 匂いを辿っていくと、冒険者ギルドにガルザはいるということが分かった。

 すぐにそちらに足を運び、ガルザを見つける。


 少しだけ息を切らしているようで、座って水を飲ませてもらっていたようだ。

 纏雷は使えなかったと思うので、魔法をほとんど使わずに走って帰ってきたのだろう。

 それは疲れるわな。


『ガルザ。どうだった?』

『ハバルが三ヵ国から敵が攻めてくると言っていました。早くて二ヶ月、遅くて三ヵ月後らしいです……』

『……そうか……』


 まだ慌てるような時間ではない。

 それだけ時間があれば情報をもっと収集できるだろうし、武具なども戦争前には揃うことだろう。

 それに俺もいる。

 あとは人間たちがどういう動きをするか、ということくらいだろうな。


『ハバルはどこにいった?』

『このたてもの? の中に入っていきましたが……』

『ん-、ここからでも中の声は聞こえるか……いろんな声が混じって分からんな……』


 まぁ話がまとまったらヴァロッド辺りが俺に話をしにくるだろう。

 ベリルもセレナも寝ているし、通訳はできないな。

 ……あ、そういえばガルザができるのか。

 んじゃまぁ、ここでしばらく待っておくことにしましょうかね。


『そ、それとオール様……』

『ん? なんだ?』

『少し気になることがありまして……』

『気になること?』


 ガルザが少し不安げな様子をしていた。

 耳を下げながら、少し声を落として話をしてくれる。


『何かに見られている気がするのです……。どんなに走ってもそれが追いかけて来ていまして……』

『だから息を切らしていたのか。今もそんな感じはするのか?』

『い、いえ。オール様に会ってそれが消えたのです』

『じゃあ水を飲んでいる時までは……』

『はい』


 ん~?

 それは……何なんだろうな。

 俺と会ってその感覚が消えたっていうのが少し気にかかるが、そんな解呪魔法なんて持ってないぞ。

 そもそも認識すらしていないし。


 こういう時の三狐だよな。


『三狐は何か心当たりがあるか?』

『闇魔法……いえ、暗黒魔法の類かもしれません』

『冥、暗黒魔法っていうのは肉体を変化させることに特化した魔法だろ?』

『はい。視線というのは肉体の一部の機能です。私はその術を知りませんが、可能性はあるかと』

『……なるほどなぁ……。じゃあ俺に会ってその視線が消えたっていうのは?』

『距離の制限に限界が来たか、繊細な魔法である場合はオール様の膨大な魔力がそれをかき消したのでしょう』


 んー、話を聞いても解決はしなさそうだなぁ。

 でもまぁ解除されたのであればいいか。


『そうか。ガルザ、また何かその視線を感じたら教えてくれ。ちなみに何時からだ?』

『監視を終わらせ、帰路についている途中でした』

『アストロア王国付近か。すでに気付かれていたのかもしれないな』


 ここはファンタジーの世界だ。

 魔物を検知する水晶とか、索敵魔法なんかがあってもおかしくはないだろう。

 そういった点でも、今回の敵は少し厄介かもしれないなぁ。


 だけどその視線がアストロア王国からついて回っているのであれば、そんな変な物をガルザに付けた奴はアストロア王国にいるってことになる。

 そういう敵がいるって分かっただけでも、少し儲けものだな。


『んじゃ、あいつらを待つかぁ』


 俺は彼らが話し合いを終えて降りて来るのを待ったのだった。

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