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8.14.Side-ハバル-動きあり

活動報告更新いたしました。

転小龍に関するお話です。

よければどうぞ。


 月が沈み、太陽が少しだけ顔を出している。

 周囲が明るくなり始めており、早起きをしている人物は外を気持ちよく歩いていた。


 森の中で監視を続けていたガルザが、人が近づいてくる匂いに気付いた。

 だがそれは知っている匂いであるため、そこまで焦りはしなかったのだが、彼は相当慌てているということがその動きで分かる。

 なんだ騒々しいと思いながら、ガルザは立ち上がってハバルを見る。


『どうした』

「帰るぞ! やばいことになった!」

『なんだ? 説明してくれ』

「帰りながらする!」


 ハバルはガルザに飛び乗った。

 乗ったことを確認すると、ガルザ走り出してライドル領へと向かう。

 ハバルは低姿勢になって空気抵抗を極力避けているようだ。


『で、何があった』

「三ヵ国が同時にライドル領を攻めに来るんだ! この事を伝えなければ!」

『三ヵ国?』

「俺たちがいた場所より数倍はでっかい国が、三方向から攻めて来るっていったらいいか?」

『一大事だな』


 ハバルは夜の間、アストロア王国に潜入して情報収集を行っていた。

 彼の能力を使えば城壁を越えることは簡単だ。

 そこから夜の間は居酒屋や情報屋を回って様々な話を聞いていたのだが……。


 居酒屋で聞いたアストロア王国の状況。

 今現在は兵を調えているらしく、時期が来ればすぐにでも出陣することができるらしい。

 冒険者も駆り出されており、なによりエンリルの毛皮が手に入るチャンスだとして、その参加者は多いようだ。

 故に酒に酔った冒険者が、居酒屋で『俺がエンリルの毛皮を手に入れるー』などと叫んでいた。

 その話を聞いてハバルは、旅の者だと偽って詳しい話を聞いてみたのだ。


「エンリルたちの情報を出して、冒険者も抱え込もうとしているとは思わなかった! 恐ろしいほどの兵力がなだれ込むぞ!」

『もう二つは?』

「テクシオ王国とサニア王国だ。これは情報屋から聞いた」


 冒険者が知っているのは、アストロア王国で起きている事だけだった。

 なので金さえ渡せば情報を渡してくれる情報屋を探してみたのだ。

 そこで聞いたのが、サニア王国とテクシオ王国に援軍要請を送るという王の決定だった。

 まだ書面は届いていないだろうが、ここ一ヵ月から二ヶ月の間に敵が兵力を調えて一斉に攻めてくる可能性が浮上した。


 このまま何もしなければ、ライドル領は大軍によって蹴散らされることになるだろう。

 いくら五千の兵をエンリルたちだけで倒したとはいっても、次に来るのは精鋭部隊を交えた兵士たちだ。

 そう簡単に倒せるとは思わない。


 アストロア王国は国自体が大きく、兵士の数も、装備も充実していると聞く。

 エンチャントされた武器は勿論、防具や兵士の質も他の国に比べて高いはずだ。

 それがなかったとしても、軍事力の差が大きすぎる。

 エンリルたちがいても、どうなるか分からない状況だ。


「早くて二ヶ月……遅くても三ヵ月の間には敵が攻めてくる」

『俺たちはどうすればいいんだ?』

「それを向こうに帰ってから話し合わなければならない……。俺だけでは決められないからな」

『リーダーも子供たちを守るために動いてくれるはずだ。そこは期待していいと思う』

「その言葉信じるぞ……」


 どのような状況であれど、オールは彼らを助けてくれるはずだ。

 それだけの覚悟を持って、あの地に居座っているのだから。


 しかし三ヵ国からなる大軍を相手にするとなると、さすがに苦戦するかもしれない。

 オールでも一つの方角からくる敵しか相手にできないだろうし、同時期に攻めて来るとなれば、片方を倒してもう片方の方へと急行するといった行動に制限がかかる。

 ある程度持ちこたえてもらわなければならないのだ。


 オールの群れの最大戦力が集結しているライドル領。

 負けるとは思っていないが、最悪の場合は考えておかなければならないと、ガルザは思考を巡らせた。

 ここが壊されれば、また人間との関係は振出しに戻ってしまう。

 それはガルザとしても、恐らく群れの仲間としても本意ではないことだ。


 厄介な状況になってしまった。

 ハバルがここまで慌てているのにも納得がいく。


『策はあるのか?』

「敵の数が分からない以上、どう兵力を分散させるのかも分からない。一番いいのは……時間をずらして敵を撃破することだとは思うが……」

『人間たちだけだと、どれくらい持ち堪えられるんだ?』

「……攻城兵器などを持ち込まれた場合は……二時間が限度かもしれんな。ライドル領は小さいから……」

『リーダーが壁を作ったが?』

「それを壊すことのできる道具があるんだ。少しは持ち堪えられるだろうが、あまり期待しすぎてはいけない」


 なるほどなと、ガルザは頷く。

 確かにそんなものがあれば、あの小さな群れでは太刀打ちができないだろう。

 ダークエルフの襲撃で多くの死傷者が出てしまったのだ。

 戦力が減ってしまったライドル領では、どれだけ守ることができるのかも疑問である。


「兎にも角にも、この事をヴァロッド様に伝えなければならない。フェンリルにもだ」

『では急ぐとしよう』

「頼む」


 ガルザは一度足に力を入れ、跳躍するようにして地面を駆けていった。


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