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8.12.新しい知識


 ヴァロッドが平謝りしながら、レンに頭を下げている。

 一方彼女は心底うんざりした様子で頭を掻いていた。


 エンチャントかぁー。

 狼たちにはできないだろうし、できるかもしれない俺でも、まずエンチャントのえの字も知らないので絶対失敗するだろうな。

 今まで使ってきた魔法で、そういった付与魔法なんて使ったことなかったし。


 でもこういう知識を貰えるってのはいいね。

 人間とこれから戦う以上、こういった知識は絶対に必要になるはずだ。


「よくもまぁこんなに狩って来れたねぇ? ええ?」

「さすがエンリルたちだ。うん」

「はぁー……。まぁ分かったよ。防具が完成したら持ってきな。魔力が続く限り付与してやるよ」

「助かる! よぉーし、許可も得たことだ! 武具屋! 気張って作ってくれよな!」

『『おうっす!』』


 質を確認しに来ていた武具屋が、ヴァロッドの声に反応する。

 一匹だけで五人分の鎧を作ることができるらしいので、単純計算でも百二十五人分の鎧を作ることができるようだ。

 だが大きさがまちまちなので、もう少し多く作ることができるらしい。


 しかし軍隊に支給される予定の装備としては、いささか数が少ない気がするな。

 精鋭部隊として使うだけだったら問題ないだろうけど……。

 ん-、これだったら残りの二十五匹もこいつらに持ってきてもらった方がいいか?

 ま、様子見手にしておこうか。

 レンがまた怒りそうだしな……。


『……』

『? どう、したのですか?』

『ん? いや、俺も物にエンチャントできないかなーって』

『えん、ちゃ……? それは、なんです?』

『あー……説明しようとすると難しいな。まぁ簡単に言うと、木の枝に魔法を付与する……って感じかな?』

『? これのことですか?』


 メイラムはそう言って、地面を足で軽く叩く。

 すると地面に小さな紫色の円が浮かび上がった。

 毒々しい泡がその中から出ているところを見るに、これは毒沼だ。


『ん、んんー……これはちょっと違うかなぁ……?』

『そうですか……。地の属性を変える魔法、なのですがね……』

『……ん? 属性を変えるか……』


 なるほど?

 なんか的を得ている感じがするな。

 武具っていうのは基本的に無属性だけど、エンチャントをしてそれを属性付きにするんだよね。

 新しい属性を追加するから“付与”って言ってるけど、本質は“無属性から炎属性に変える”なのかもしれないぞ?


 そうなると……今メイラムがやった魔法は……何かにすることができる……?

 試してみるか!

 ちょっとそこの冒険者さん、ロングソード借りますよー。


「え? うわわわ!?」

『セレナ、ちょっと借りるって言っておいてくれ』

『あいっ!』


 闇の糸でロングソードを掴み上げ、メイラムの前に置く。


『メイラム。さっきの魔法をこれに使ってみてくれないか?』

『……? 意味ないと、思いますが』

『いいからいいから』

『ふむ……』


 のそーっとした動きで、メイラムはそのロングソードに手を置いた。

 魔法を発動させ、無属性のロングソードを毒属性のロングソードに変換させる。


 ブンッ……。

 コポポ……コポ……。


 柄が毒々しい紫色に変わり、刃からは濃い紫色の液体と泡が沸き立ち始めた。

 地面に落ちた液体は音を立てて消えていく。

 しかし土を溶かしたようで、小さな穴が開いていた。


 ロングソードの形は常に保たれている。

 変色しているが、使えないことはなさそうだ。

 しかしこれは……。


「俺の剣がああああああ!!」

「おおい!? これエンチャントじゃね!?」

「べ、ベリル! 聞いてみてくれ!」

「あ、はい!」


 いやなんか出来心でやってみたらえっらいことになりました……。

 とりあえず説明しておくか……。

 あ、あの、すまん冒険者。

 多分お前の武器毒のエンチャントかかったわ。

 それも相当濃い奴。


 説明をしていると、彼らは口を開けて驚いていた。

 まぁそうなるのも無理ないよな!!

 俺だってできるとは思ってなかったんだもん!!


『オール様。なんで、この人間たちは、騒いでいるのですか……?』

『ちょっと凄いことをお前がやったからだよ』

『ん? やれと言われたので、やったまでですが』

『はい、俺が悪かったです』


 ていうかこれどうしよう。

 持てる……?


「こんなこともできるのだな……エンリルたちは……」

「お父様。あのロングソードはどうしましょう……」

「いや! 俺のだって! ちょっと返して!?」


 あ、ちょっと待……。


「ぅ?」


 ロングソードを所持していた冒険者がエンチャントされた武器を手に取ると、手が一気に紫色になった。

 痙攣から始まって膝をつき、泡を吹きながら倒れてしまう。

 これはマズいとすぐにメイラムに解毒を行わせる。

 何とか間に合ったようで、毒は次第に抜けていく。


 それを見ていた人々は、青ざめた様子で武器を見ていた。

 とんでもない物を作ってしまった……。

 いや、俺が作らせてしまったのか……。

 マジでごめん冒険者!!


 ていうかメイラム!

 お前どんだけ強い毒をこれに付与しやがったんだ!

 皮膚に触れた瞬間に回る毒とか、お前しか作ることができないぞ!


『すまん、なんかとんでもないもの作らせちまった……』

「いや、それは良いんだが……あのロングソード、誰も持ていないぞ。これはどうする? フェンリルよ」

『エンチャントを消すことってできないのか?』

「付与して効果を発揮するんだ。消したりなんてしない。だからそういった知識はないな」

『つまり消せないのね……。壊れても消えないのか?』

「ああ。使い物にはならなくなるがな」


 武器としての使い道はなくなるけど、エンチャントはそのまま継続されて付与されているってことね。

 こいつは参りましたなぁ……。

 何かいい方法を見つけて処分しておかないと……。


「今度は何の騒ぎさ……。ったく……」

「ギルドマスター! 毒エンチャントが付いた剣をエンリルが作ったんです!」

「毒ぅ……?」


 空気が変わった場所を確認しにきたのか、ギルドマスターのディーナが近づいてきた。

 話を聞いてすぐに毒エンチャントのついた剣を見つける。


「これかい?」

『『『『さ、触っちゃダメです!!』』』』

「はぁ?」


 ディーナは武器をひょいと持ち上げる。

 俺もすぐに闇の糸でそれを回収しようとしたのだが、彼女は平気な顔をしてそれを握っていた。

 他の者たちがなんでそんなに慌てているのか理解できていない様子だ。


 手を見てみても、毒は腕に回らない。

 しばらく持っていても何も起こりはしなかった。


「ただの毒の剣だろう? 大袈裟だねぇ」

『『それで一人倒れたんですよ!!』』

「……貧弱だねぇ」

「いや、ディーナ。お前なんで大丈夫なんだ?」

「魔力操作で闇魔法を手に纏わせてんだよ。毒だって分かってて迂闊に触る訳ないだろ」


 ディーナは手の平を全員に見せる。

 すると黒い靄が掛かっており、それが指の動きに合わせて動く。

 確かにあれだったら毒に侵されることはないだろう。


 ていうかそんなことできるんか。

 俺も今度試してみよ。

 ……おや?

 もしかして毒の剣に関しては解決しましたかね?

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