2.12.アンデット
新作を公開しました。
一度距離をとって相手の行動を待つ。
実際は待つより攻め立てたほうが良いとは思ったのだが、相手が死なない以上捨て身の攻撃に警戒しなければならない。
その考えはオートも同じだったらしく、一緒に距離をとって構えている。
先ほどの攻撃でこいつがアンデットだという事がわかったので、光魔法を使おうとは思うのだが……アンデットに有効な魔法が何かわからない。
俺の持っている光魔法は、先ほど使った太陽の杭の他に、浄化と、水魔法との合成魔法の聖水がある。
そうです、三つしかないんです。
戦ったことないし、光魔法なんて見たこともないんだからわかるわけないじゃないか!
作れる数に限界があります!
……まぁこれだけで戦うしか無いのだが、多分聖水は効くだろう。
魔力で作った水に光魔法を付与するだけなので簡単にできる。
因みに、浄化は状態異常を取り払う魔法だ。
以前に毒草を食べてしまったガンマに使ってみたのだが、使うとすぐに元気になったので、その効果と効力は折り紙付きである。
とは言っても、アンデットに効くかどうかわからないし、そもそも発動に時間がかかるのでこれは止め用としておこう。
近距離で戦うのは危険。
なので俺は水と光の合成魔法、聖水を大量に作り出して、それを弾丸のように撃ち込んでいく。
イメージはガトリング。
残量は聖水が無くなるまでなので、ほぼ無限に撃てる。
威力は抑えず、自分の出せる最大火力で聖水をアンデット一角狼に撃ち込んでいった。
すると、相手はその攻撃を一生懸命避け始める。
逃げるという事は、この攻撃は有効なのだろう。
俺はその後を追うように弾丸を撃ち込み続けた。
『なんだその魔法は』
『聖水だよ。水魔法と光魔法の合成』
『そんなこともできるのか。器用だな。では俺も加勢しよう』
そう言うと、オートは頭上に幾本もの光の槍を作り出した。
それは、俺が作った太陽の杭と似ている。
『聖槍』
その穂先が一気にアンデット一角狼に向き、一斉に発射される。
逃げ場のない一斉攻撃。
聖水の弾丸に追われている為、全てを回避することが出来ずにその攻撃をもろに受けてしまう。
「──!」
声にならない声を上げた。
槍で姿が見えなくなるが、俺は構わずに聖水を撃ち込み続ける。
当たっているかどうかはわからないが、これだけ撃ち込めば一発くらい当たっているだろう。
聖水が無くなるまで撃ち続ける。
撃ち終わった後、その方向を見やれば地面は水浸しになり、木の皮は所々剥がれていた。
それだけで自分の放った攻撃の威力がわかる。
生物に向けて撃って良い物ではない。
光の槍である聖槍が一瞬で消え去った。
と同時に、アンデット一角狼の姿が現れる。
皮膚は爛れ、骨まで見えており、体にはいくつもの穴が開いていた。
爛れている皮膚からは、うっすらと煙のような物が上がっており、今もなお皮膚を溶かしているようだ。
体の穴はオートの聖槍で、その他の皮膚の爛れは俺の聖水による効果だろう。
アンデットには光魔法という概念がこの世界にあってよかったと安心する。
だが、これだけボロボロになっているというのに、アンデット一角狼は未だその場に立ち続けていた。
『あれで死なないのかよ……』
『アンデットは弱点の光魔法を使っても死ににくい。動きは止まるがな』
『じゃあ聖水の中に沈めてやろう』
そう思い、俺はアンデット一角狼が入る大きさの聖水を作り出す。
それをゆっくりと持っていく。
流石にこの中に沈んでしまえば、逃げることもできないだろうし、中途半端に死ぬなんてこともないだろう。
すでに死んでいるが。
俺が近づこうとしたとき、アンデット一角狼は目を見開いて吠える。
だが、声は聞こえない。
いきなり動き出したことに驚いて一歩下がるのだが、特に何の変化もなかった。
『お、驚かすなよ……』
そう思い、また歩いていこうとした瞬間。
地面からロープが飛び出した。
それは周囲にある物と同じ物で、地面から出てきたロープも他のロープ同様、木々に絡まっていく。
それはあっという間に俺たちの周囲を覆いつくしてしまい、完全に閉じ込められてしまった。
上には逃げられそうではあるが、それをさせてはくれなさそうだ。
すると、アンデット一角狼は目の前に来たロープを、残り少ない力で噛み千切る。
俺はそれを止めようと思ったが、時すでに遅し。
聖水が届く前に嚙み千切られてしまった。
だが聖水が止まるということは無く、そのままドボンとアンデット一角狼を聖水の中に沈ませる。
全身に聖水を浴びたアンデット一角狼は、体のいたるところから解け始めた。
既に皮が全て溶け、筋肉と骨だけになってしまっている。
だが、それでも目だけはまだ生きていた。
ギョロッと俺の方を目だけで見たのだが、すぐに聖水によって肉も溶かされる。
その光景を見て背筋に寒気が走った。
『オール! 避けろ!!』
『え──』
オートに声をかけられた瞬間、俺は真横に吹き飛ばされた。
『ガッハ!』
腹部に強烈な一撃が入り、肺の中の空気がすべて吐き出される。
その一撃の威力は凄まじく、数秒空を飛んだ。
ようやく地面に体が付いたが、何度かバウンドしてようやく停止した。
何が起こった!?
いやどうせあのロープだ!
さっきあいつが噛み切ったあのロープが飛んできたんだろう!
くっそいてぇ!
がばっと起き上がってすぐに走り出す。
俺はこの攻撃を見ることが出来ない。
そのまま止まっていていれば、またあの攻撃がどこからともなく飛んでくる。
今すぐこの空間から脱出しなければならない。
そうしなければ、先程アンデット一角狼が出したこのロープに延々と振り回されることになる。
身体能力強化の魔法を使用して、体を強化する。
そして雷魔法を発動させて速度を上げ、一気に上に跳躍した。
『オール! どこに行っている!』
『え!?』
声をかけられたが、もう体は宙にある。
今から降りろと言うのは無理な話だ。
直後、俺は背中に強烈な痛みを覚えた。
そのまま叩き落される形で、先ほどまでいた場所に体を強打する。
『ぐぅぅ!』
『上は駄目だ! あの糸が暴れている!』
うっそだろ!? そんなの見えないぞ!?
どこ行ってもトラップじゃねぇか!
俺どうしたらいいのよ!
『よく見ろ! 暴れている糸がまた糸を切って暴れさせている! この辺りは比較的に攻撃は飛んでこないが、長くて強力なのが飛んでくる!』
『じゃあどうすればいいの!』
『耐えろ!! これだけの間隔で攻撃が来たら魔法を放てん! それにだんだんと糸が無くなってきている! それまで耐えるんだ!』
『その間俺だけ袋叩きかよー!!』
オートは華麗に攻撃を避けているようで、一切のダメージを負っていない。
それどころか、俺がその攻撃を見ることが出来ないと理解してから、何度か空に風刃を放ってくれている。
だが、全てを庇いきることはできないようで、その間にも俺は何度か吹き飛ばされた。
目がいいっていいですね。
本当に羨ましいですよマジで。
起き上がれば横腹や背中に攻撃が飛んできて、走れば胸や足に飛んでくる。
転んで顔をあげれば顔面に。
オートの動きを読み取って回避しようとして見れば背中に当たる。
もう何度吹き飛ばされたか覚えていない。
いってぇ……!
なんかないのかよ素早く発動する魔法!
それに加えて俺を守ってくれるような魔法は!
でも耐えるだけで精いっぱいだ……。
お父さんの言う通り、魔法を放つ時間がなさすぎる!
周囲をちらりと確認してみれば、まだロープは残っている。
半分も減っていないように思えるのだが……それは気のせいではないだろう。
このままでは不味い。
いくら身体能力強化の魔法で体を強化しているとはいえ、この攻撃は痛すぎる。
殺傷能力が無いだけまだいいのかもしれないが、それでもこの威力だ。
とりあえず壁を作りたい。
だがそれを作るだけの時間がない!
何とかして作れないか!?
『チッ。次から次へと……』
オートは何度も風刃でそのロープを切っているようだ。
その証拠に、周囲には切り裂かれたロープが散乱している。
だが、その風刃はロープだけではなく地面をも削り取っていた。
これだああああああ!!
『お父さん! 風刃で地面思いっきり削って!!』
『何だって!?』
『風刃でー! 地面をー! 削って!!』
『わかった!』
攻撃を回避することのできるオートにとっては、その程度のことは簡単だ。
すぐに風刃全力で放ち、地面をごっそりと抉る。
それを見ていた俺は、すぐさまその穴の中に入った。
直後、地面を叩く攻撃が飛んでくる。
あと少し遅ければまたあの攻撃を喰らっていただろう。
安全な所に潜り込めたことに、まずは安堵した。
だが休んではいられない。
すぐに魔素を吸収して魔力を作り出す。
今回使う魔法は少し大きめだ。
なので、いつもより少し多めに魔素を吸って魔力を貯めていく。
『お父さん! 俺の近くに!』
『来たぞ!』
流石お父さん、動きが速い。
よし! だったら早速やっちゃいますか!
俺は体の中に貯めた魔力を一気に使用する。
『土魔法! 土壁!』
オートと俺を囲うように、大きな土の壁を形成する。
イメージはレンガの壁だが、とりあえず分厚い壁であれば問題ない。
地面から生えた壁に、ロープが勢いよく当たっているという事がわかる。
だが、壁を壊すほどの攻撃力はないようで、ただバンバンと壁を殴っているだけに終わっていた。
俺はようやく本当に安心できる場所を作り出すことが出来た事に、ようやく安心して息を吐く。
これで、後は攻撃が止むのを待てばいいだけだ。
『はぁ~……いててて……』
『土の崖か。よく考えたな』
壁という概念が狼たちにはないのだろう。
オートは壁ではなく、自然界でよく見る崖という表現をした。
そういえばロープもずっと糸だと言っていたな。
まぁ知らない物は知っている物の名前で呼ぶよね。
ってそんなことより……体中が悲鳴を上げてる……。
あの野郎……とんでもない置き土産置いて死にやがって……。
早く回復魔法を使って回復しよう。
『回復ま……』
『回復魔法』
俺が回復魔法を唱えるより先に、オートが先に唱えてしまった。
体の痛みが飛んでいく。
俺はオートを見て首を傾げる。
『お父さん、回復魔法は俺も使えるんだよ?』
『お前は……他の奴に比べて長く生きられないんだ。極力寿命を縮める魔法は使うんじゃない』
『……分かった』
やっぱ俺、あんま長く生きられないのか~。
…………。
いや、そうだろうなとは思ってたけど、こうしてはっきり言われてしまうとなんか来るものがあるな。
俺みたいに、知識からして寿命が短いんだろうなということではなく、狼たちの本能で寿命が短いと言われる方が、よほど説得力がある。
俺、あと何年生きられるんだろう。
……ま、その分楽しめばいい話か。
切り替えよう!
『じゃ、音が消えたら行こっか!』
『……そうだな』
オートは何かを察して、俺から目線を外した。