7.21.コソコソ
活動報告を更新いたしました。
良ければどうぞ。
ライドル領の賑わいも、夜になれば静かになる。
涼しい風が街を通り過ぎる中、コソコソと動く二人組の冒険者がいた。
明らかにチンピラらしき格好をしている二人は、狙っている獲物がいる場所へと隠れながら移動している。
随分と手馴れているようで、動きには無駄がない。
それを違う場所で使うことはできないのかと心底呆れるが、俺は黙ってその動向を気にかけていた。
全部匂いで丸分かり。
俺の嗅覚をなめないでいただきたい。
数十キロ先の地形も匂いで把握することができる俺にとって、近場にいる人間の動向を監視するなど容易いことなのだ。
ガンマの指示に従ったシグマとラムダは、メイラムと一緒に街の外で眠ってもらっている。
メイラムにも絶対に手を出さないようにと指示を出しているので、傍観に徹してくれることだろう。
ていうかメイラム既に気が付いてるし。
めっちゃ匂い嗅いでんじゃん。
「あれか?」
「……だな。でけぇのがいるけどどうする?」
「背中向けてるから大丈夫だろ。チビくらいなら簡単に回収できる」
「それもそうか。袋は?」
「ここに」
小さな声で会話をしているが、はい、勿の論で聞こえています。
いやー静かな場所でのコソコソ話とか、俺たちにとっては会話しているようなもの。
まぁ手は出さないんですけどね。
二人は大きめの麻袋のようなものを持って、子供に近づいていく。
メイラムに少しビビっているようだったが、近づいても動かないのをいいことに、素早い手つきでシグマとラムダを麻袋の中へと突っ込んだ。
まだ寝ぼけているのか状況を把握できていない二匹は、されるがままになっている。
二人の冒険者はお互いに頷いてから、その麻袋二つを肩に担いで運んでいこうとした。
だがそこで、麻袋から変な匂いと、冷たい冷気が零れ始める。
『『せっまーーーーい!!』』
「熱ぁああああ!!?」
「つめっ!? ぎゃああああ!?」
二匹は、何の躊躇いもなく魔法を使用して麻袋から脱出した。
シグマは体に大量の炎を纏い、麻袋を焦げるまで焼き切ってしまう。
ラムダも同様に氷の結晶を体に纏わりつかせ、ウニのような姿になってしまっていた。
それが冒険者の体に何本か突き刺さったようで、ラムダを担いでいた冒険者は血を流している。
だが致命傷には至らなかったようだ。
二匹はなんだこいつらという目を向けながら、可愛く首を傾げていた。
だがスンスンと匂いを嗅いだ瞬間、使っている魔法を更に強化させる。
『シグマ、こいつら臭い』
『臭いのは魔法の練習台にしていいってお父さん言ってた』
『『……わーい!』』
「「のああああああ!?」」
三秒ほど考えた後、一気に魔法を放って二人の冒険者を攻撃する。
シグマの炎攻撃は直線的な物が主であり、火の壁を作り出すことができる。
一方ラムダは攻撃範囲が短い分、その殺傷力は折り紙付きだ。
氷付けにするレイとは違い、氷の棘を体や周囲に発生させて穿つ。
だが二匹は父親であるガンマから、殺してはいけないと言われている。
なので逃げていく獲物をずっと追いかける形で手加減していた。
シグマは逃走方向に爆発を起こし、レイは小さな棘を地面に生やし、歩行速度を著しく減速させている。
普通であればここで勝負はついているのだが、今現在二匹は人間を弄んでいるのだ。
『『あはははは!』』
「「ぎゃああああ!!」」
その光景を間近で見ていたメイラムは、顔をそちらに向けて傍観している。
手加減を覚えるいい機会だとして見ていたが、明らかに少しやりすぎであった。
『流石、ガンマ殿の息子だ……』
今使用している魔法の他に、二匹はまだ身体能力強化の魔法を残している。
それを使えば、あの人間はただでは済んでいないだろう。
今もそうだが。
しかし、逃げているばかりの冒険者ではない。
これでもそれなりの危険を乗り越えてきた者たちなのだ。
一人が持っていた剣を抜きはなち、ラムダへと攻撃を仕掛ける。
抱えた時にできた傷の仕返しといった様子で殺しにかかったが、それはいとも簡単に受け止められてしまった。
ラムダの体に生えている結晶が、想像以上に硬い。
まるで岩を切り付けているような感触が手に伝わり、思わず剣を手放してしまった。
ラムダは彼が持つ本気の攻撃を弾き返したのだ。
「うっそだろ……!?」
『えーいっ!!』
「ほぐっ……!」
隙をついたラムダは、尖らせていない氷の結晶で冒険者の腹部をどつく。
簡単に吹き飛ばされて、地面に体を叩きつけられた。
それと同時に意識を手放してしまったらしい。
変な態勢のまま全く動かなくなった。
それに気が付いたもう一人の冒険者は魔法を使用する。
自分の相棒がやられて黙っているわけにはいかなかったのだ。
「水魔法! ウォーターピストル!」
五つほど作られたその水の弾丸は、明らかな殺意を持ってシグマに狙いを定めていた。
距離があるので発射されて体に当たるまでは二秒程度だろう。
だがその攻撃は、シグマにとって非常に遅いものだった。
『あはははー! 炎魔法! 炎上牢獄ぅ!』
炎の壁を作ることが得意なシグマにとって、この魔法は得意技となっていた。
自分と冒険者の間に炎の壁を出現させ、ついでに冒険者も飲み込んだ。
中は空洞となっているので死にはしないだろうが、その灼熱の中で耐え続けるのは不可能に近い。
水の弾丸はその火力によって蒸発して消えてしまった。
それを感じ取ったシグマは炎上牢獄を解除してと同時に突っ込み、新たな炎魔法を使用する。
『身体能力強化の魔法! 炎魔法! ジェーットタックルゥー!!』
「ごげはがっ!?」
低姿勢になって脚力を上昇させ、地面を蹴ったと同時に炎魔法で後方を爆発させる。
その勢いに乗って炎を後ろ向きに噴出し続け、ロケットのような頭突きが冒険者の腹部へとめり込んだ。
明らかにやりすぎな勢いで飛んでいった冒険者は民家にぶつかって勢いを失い、ドサリと地面に倒れ込んでしまう。
だが辛うじて息はあるようだったので、問題はないはずだ。
流石のメイラムもこれにはドン引き。
のそりと立ち上がって二匹を止めに行ったのだった。




