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7.19.貿易商


 なーんか町の一角が騒がしい。

 なんだろうと思って見に行ってみると、沢山の積み荷を積んだ馬車がライドル領の中へと入ってきていた。

 荷台は全部で十。

 それに伴って護衛として雇われている冒険者も多かった。


 勿論俺の姿を見て全員が腰を抜かすわけだが、ここは理解のある領民が説明してくれて事なきを得た。

 俺も迂闊に出てしまったことに反省して、その積み荷の中を匂いで確認する。


 どうやら様々な物品を扱っている行商人のようだ。

 魔物の毛皮や素材、薬品に建材、高価な装飾品や武器などを取り揃えている。

 随分と大きな行商人だなぁ。


「あれは貿易商ですよ。ライドル領にいろんな物資を持ってきてくれるんです」

『あれ? アストロア王国からの支援は切られたんじゃなかったのか?』

「その噂を聞きつけて来た他の国の人たちですね。アストロア王国から支援を切られたとなれば、不足している物資も多いはずだと思って来てくれたんでしょう」

『なーるほどね』


 領主としての勉強もしているだけあって、ベリルはこの状況に疑問を一切持つことなく自分の見解を俺に教えてくれた。

 そこまでは思い至らなかったなぁと感心する。

 次期領主として心強い存在になるかもしれないな。


 ……あれ?

 なんか……ベリル、前より魔力総量増えてね?


 そんな違和感を持ったので、もう少し近くで確認してみる。

 すると、やはり以前より少しだけ魔力総量が増えていた。

 本当に少しだけなのだが、それでも増えてるということに俺は驚きを隠せない。


『なんでだ?』

『? リーダー?』

『いや、なんでもない』


 人間は魔力総量の自己回復能力でもあるのだろうか?

 メイラムにまた今度教えてみてもらうとしよう。


 しっかし、貿易商の目線が俺たちにめっちゃ刺さるな。

 目立つのは分かるけど……。

 というか、他の場所から来た人間は危険だな。

 一度狼たちを第三拠点に戻しておくことにしよう。


 ガンマは置いていても問題ないだろう。

 匂いでなんか判断してくれるらしいし、セレナにもいてもらうか。

 じゃないと通訳できないからな。


『ということでベンツ、頼んだ』

『分かった。セレナのこと宜しくね』

『おう』


 俺が近くにいる限り、何もさせやしないさ。

 ベンツもそれを信じてくれているのだろう。

 すぐに皆に伝えに行ってくれた。


 とはいえ、向こうも初めて見る俺たちにビビって中々近づいてはこなさそうだけどな。

 今日は大丈夫だが、また今度はどうなるか分からんね。

 警戒は常にしておいた方がよさそうだ。


『で、このあと貿易商は何するんだ?』

「お父様がお話をつけてくれます。本当であれば金銭で取引したいですが、今はできるだけ節約したいので物々交換すると思いますけどね」

『ほぉ。それでもいいのか』

「はい。紫のエンリルさんが狩ってきてくれた魔物は高く売れるので、結構な量の物と交換できると思いますよ」


 あれそこまで高価なのかー。

 じゃあ第三拠点に詰まってる奴全部持ってこようかな。

 前にも同じような魔物がいたけど、それもついでに持ってきておくかね。


 でも冬は貿易商もなかなか来ないだろうし、それまでの貯えとか考えとかないといけないかもな。

 ぶっちゃけ鉄とか銅とかは土魔法で掘り返せばいくらでも採取できる。

 布とかは……俺たちでは厳しいかもしれないな。

 まー木とかなら生やせるし、そういった物であれば量産してやろう。


 他には何がいるのかなー?

 あんまりこういう内政とか分かんないから、何が必要なのかは聞かないといけないなぁ。

 ベリルに頼んで聞いておくとするか。


『ということでなんか聞いておいてくれ』

「分かりました」


 あ、ヴァロッドが来たな。

 じゃ後は任せておくとするか。



 ◆



 交渉が進んでいる中、ベリルとセレナは木陰で休んでいた。

 隣にはフェンリルもいるが、今は入ってきた貿易商を警戒しているようで睨みを利かせている。

 アストロア王国からの要望を聞いてしまった後なのだから、ここ以外の人たちを警戒してしまうのも無理はないだろう。


 ベリル自身も、まさかあのような内容を言ってくるとは思っていなかったので驚いた。

 恐らくそう思っている領民も多かったはずだ。

 自分たちの領土の王とはいえ、異常である。


『ベーリルー』

「なに?」

『皆も連れてきていいかなぁ?』

「皆って言うと……?」

『えーとね、ジムニーとセダンとマーチ! マーチだけでも連れて来たいなぁ』

「兄弟のことかな?」

『そうだよー!』


 セレナと同じ年齢の狼は、今ここにはいない。

 寂しいのは無理もないだろう。


 だが、セレナの親である黒い狼は、あまり乗り気ではないらしい。

 ベリルとしては大歓迎なのだが、親である狼が頷かない限りはそれは難しいだろう。


『リーダー!』

「……ガルッ」

『ちぇー……』


 セレナの反応からして、あまり良い返事は貰えなかったのだろう。

 狼はどれだけ増えても困ることはない。

 自分たちが食べる分の食料は自分たちで獲ってきてくれるので手はかからないし、ブラッシングは領民が率先してやっていることなので、負担にはなっていない。

 あとは本当に、子供たちの親次第なのだ。


「……ていうかセレナ」

『なにー?』

「……体大きくなったよね?」

『そーおー?』


 前は足の上にテンッと乗る程度だったのだが、今ではデンッと乗る程度まで大きくなっている。

 というか乗り切っていない。

 エンリルたちがここに来て約二週間。

 大人になれば二メートル程の大きさになるエンリルの成長はやはり早い。

 それの内ベリルがセレナに乗ることになりそうだ。


「早く皆来れるといいね」

『だねー』


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