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7.16.ふらり


 随分と長い狩りから帰って来たメイラムは、三匹の魔物を咥えていた。

 背中には伸び切っているびしょ濡れの冒険者がいたが、まぁ気にするまい。


 狩らなければならない魔物を探していると、流石に時間がかかってしまうようだ。

 それに数も少ない。

 やっぱり一匹の魔物を探すとなると、見つけ出すのも大変だろうな。


 俺はライドル領に作り上げた城壁の改修をしながら、ベリルにその魔物のことを聞いていた。

 兎みたいな姿をしているので素早いということは分かったが、そいつの素材が非常に高価だということは知らなかったな。

 俺たち全部食ってたもん。

 まぁそれ以外使い道ないから仕方がないことなんだけどね。


『お疲れさん。どうだった?』

『人間が、狩りをする場所……では、この魔物の数は少ない……みたいです。しかし、人間の索敵には、驚きました。鼻が利かない分……目が良いのかもしれません……』

『俺たちは風向きによって左右されるからな。鼻ばっかりに頼ってるとそうなるんだぞ』

『……気を付けます。しかし、体力がない……ですね。この程度とは』


 俺たちの狩りのやり方に合わせようとすると、そりゃ厳しいだろうさ。

 まぁ今回はメイラムが一方的に引きずり回した感じみたいだけどな。


『臭いし寝るし……だったので、何度か水に、放り込みました』


 びしょ濡れなのはお前のせいだったのか。

 よく怒られなかったな……って思ったけど、もう怒る気力もなかったんだろうな。

 あそこまで伸びている人間を見ることなんてそうそうないぞ。


 まぁなんにせよ、目的は達成したみたいだし、怪我人もいない。

 今回の狩りは成功したと言っても問題はないだろう。

 あの二人にとっては地獄だっただろうがな。


 ちなみにその魔物は冒険者ギルドに運ばれて、今は解体をしているらしい。

 何になるかは俺たちの知ったことではないが、できることなら肉だけは分けて欲しいなぁ。

 あとでそういうこともヴァロッドに伝えておこう。


『……そういえば、他の……仲間は?』

『ああ。それぞれに仕事を任せているんだ。ガンマとベンツとラインは狩り。シャロは木材を運んでもらっている』


 シャロは力が強すぎるということはないので、これくらいの仕事であれば丁寧にこなしてしまう。

 そのおかげで木こりたちは助かっているらしく、今までの半分以下の仕事量で済んでいるのだとか。

 あとはそれを乾燥させておけば、冬にでも使える薪になる。

 規定量の薪を確保することができれば、木こりたちが違う仕事に回ることができるので、できるだけ早くしてしまいたいらしい。


 そういう場所も作ってもいいかもしれないな。

 風通しのいい建物を作っておくとするか。


 まぁ暫くは狩りに勤しんでもらうことにするかな。

 貿易関係のことはヴァロッドたちに任せておいて、俺たちは領地のことをしっかりとやっていこう。

 うんうん、本当にいい感じで馴染んできている。

 今のところは何も心配することはないな。


 あ、でもシャロはそろそろ向こうに返したほうがいいかもしれない。

 確か子供がもうすぐ産まれるはずだ。

 親がその場にいないのは駄目だろうからな。


 んー、今度は誰を連れてくるかね。

 メス狼たちは子供の面倒で忙しいだろうし、一角狼たちは本拠地での狩りを任せているので連れてくるのは難しい。

 となると……レイたち兄弟だな。

 一匹くらいいなくても大丈夫だと思うので、あの中から引き抜いて人間になじませるとしよう。

 どいつがいいかな?


 スンッ……。

 遠く、物凄く遠くから、匂いがした。

 非常に、非常に懐かしい……匂いが。


『……な……なんだ……と……?』

『……? オール様?』


 がばっと立ち上がった俺は、背中に乗っていた三狐を下ろして一気に走り出す。

 方角は東。

 身体能力強化の魔法を使用して城壁を飛び越え、着地と同時に風魔法を使って速度を増す。

 匂いはどんどん強くなり、確実に近づいているということが理解できた。


 まさか、どうして。

 そんな想い駆られながら走る速度をどんどん増していき、対象に近づていく。


 東側は平地が続くが、暫くすると森が現れる。

 小さな森であり、湖があるだけなのではあるが、体を休めるには十分な場所だ。

 そしてそこには……灰色と黒色をした狼が首をこちらに向けて座っていた。

 その狼も、俺がいることにひどく動揺しているようだったが……すぐにおぼつかない足取りでこちらに向かってくる。

 ふらりとしながら歩いてくるので危なっかしいが、それが今の歩き方のようだ。


 自身の魔法で作り出したのか、毛で義足のようなものが作られている。

 どうやらこの狼には片足がないらしい。

 だが匂いは変わらない。

 それは向こうも同じことだったのだろう。


『……オール……! オールか……!? オールなのですかな!?』

『バルガン!!』

『ああ……ああああ! 良かった……! 良かった……!! 良かったぁ……!!』


 まさかこんな所でと、どちらもが思ったことだろう。


 バルガン。

 寄生されていた時に一度相対し、オートに命を救われた狼。

 俺があの場に駆け付けた時、姿、匂いはしなかったと思う。

 だが戦場にはオートたちと一緒に向かっていた。


 しない匂い、見えない姿、残されていない痕跡。

 もう既に死んでしまったと思っていた。

 あの戦いの生き残りが、二年ぶりに……姿を現したのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] バルガン……バルガン!?!?!? おかえり!!
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