7.15.討伐仕事
『ということでメイラム。人間たちと狩りに行ってこい』
『……俺が、ですか?』
話は大体まとまった。
俺たちの協力を仰ぎながら魔物討伐で金を稼ぎ、資金にする。
それ以外にもやれることはあるだろうが、当面はそれで繋いでいくつもりらしい。
肉があれば干し肉にして冬を越すための食料にできるし、希少な魔物を狩ってくればそれに応じた報酬も手に入る。
アストロア王国で買い手がつかなくても、珍しい魔物の素材は各方面で貴重とされているため、余ってしまう事はないのだという。
そうと決まれば、まずは仲間たちでもできる狩りをしてもらうことにしたのだ。
一番人間たちに馴染んでいるメイラムに初陣を切ってもらうのがいいと思うので、こうして指示を出してみました。
俺は今さっき作ったばかりの城壁を改善していかないといけないからな。
適当に作っただけだし、こっちに門があった方が良いとかそういう要望を叶えていくつもりだ。
土魔法で作っているので改修自体は難しくない。
要望さえあればそれに従って完璧にこなして見せよう。
城壁がない国とかあれだからな。
ま、ここはまだ国と呼べるほど大きくはないけど。
『いい、ですよ。何を狩るので?』
『えーとだな……』
俺は冒険者たちが見せてくれた絵をメイラムに見せる。
討伐依頼の依頼書にはこうして魔物の絵が描かれているのが一般的なので、文字が読めなくても問題ない。
描かれている魔物は……第三拠点に放り込まれている箱に何匹か詰まっているのだが、まぁ今回は狩りに行ってもらうことにする。
そんなに大きくはないのだが、すばしっこいのが特徴的だった気がする。
メイラムにとっては鼻で笑う程度の狩り難易度だろう。
『どの人間と……いくの、ですか?』
『それはもう決められてあるらしいぞ。あいつらだってさ』
俺が視線を向けてメイラムに教える。
二人しかいないパーティーらしいが、この魔物を狩るのは得意だと豪語しているらしい。
確か名前は……リスティとかだったか。
もう一人は知らん。
ギャーギャーうるさい奴だった気がするが、まぁ腕は確かなようで他の冒険者が頭を下げて挨拶をしているのをよく見かけるな。
『すまんが頼む』
『了解、しました。オール様も、無理のない程度に……』
『俺は大丈夫だよ』
『……スルースナーは、回復魔法、の使い過ぎで……死にました。子供たちが、平和に……暮らせる場所を作るまでは、死んではなりません……よ』
『……ああ』
メイラムも俺の適性魔法を知っている。
それとスルースナーを重ねたのかもしれない。
俺はその忠告をしっかりと聞き、メイラムを見送った。
あいつであれば問題なく仕事をこなしてくれることだろう。
『さてと』
俺は俺でやることをしよう。
ヴァロッドとベリルを連れて城壁を歩き回らなければな。
あとガンマやベンツにもなんか仕事を与えないといけない。
暫くは狩り専門となって動いてもらうだろうが、その時は必ず人間を同行させるつもりだ。
もう問題ないとは思うから大丈夫だろう。
シャロとラインは……そうだなぁ。
シャロはそれなりに力があるから、力仕事を任せてもいいかもな。
ラインは移動足後が早いけど……纏雷を使用してしまうと周囲にダメージが発生するので、暫くはベンツと一緒に狩りに行ってもらおう。
最悪第三拠点から持ってきてもいいんだけどね。
◆
メイラムは背中に二人の女性を乗せて目的地へと進んでいた。
移動するのに人間の足に合わせていてはいつまで経っても辿り着かないからだ。
本当にこの生物は短足であり、行動が遅い。
「きゃー! 速いわねー!」
「ちょっ、ちょっと動かないでくださいリスティ! お、落ちる……!」
「大丈夫よこのくらい! いやー風が気持ちいわぁ~!」
手加減している速度で速いという。
これ以上速く走ったらどうなるのか気になるが、そこまで意地悪をする必要もないのでこの速度を保つ。
二人はウォータというパーティーの一員であるらしい。
一員といっても、メンバーはこの二人しかいないようなのだが、メイラムには何も関係のない事だった。
リーダーはリスティ。
ダークエルフ襲撃の際前線に出ていた冒険者である。
派手な服を好んできており、匂いもキツイ。
随分と目立ちたがり屋な性格なのだろうと察することができるが、狩りでそのような匂いを発せられているとこちらの鼻が曲がりそうである。
今は走っているので特に気にならないが……一体どうしてこう臭いのか。
『後で……水に、放り込むか……』
そうすれば幾分マシになるだろう。
匂いで水場を探し、そちらの方へと向かっていく。
幸い近くにあったようなので、とりあえずその辺で一度休憩をすることにした。
背中に乗っている人間を水に落とすついでに。
すると、ぐいーと毛が引っ張られた。
なんだと思って立ち止まって背中を見ると、リスティと呼ばれる女性が一点を指さしている。
その方向を見てみると、目的の魔物がこちらを見て警戒をしているようだった。
人間のくせに目が良いらしい。
メイラムは風向きの関係で匂いが分からなかったので、これは良い発見である。
そこまでの洞察力があるのであれば、この匂いも気にはならないかもしれなかった。
『……いや、ないな』
やっぱり臭いものは臭い。
あとで水にぶち込むことは決定事項として、目の前にいる目的の魔物をどうするかを考える。
とはいえ、すぐに終わることだ。
なぜならメイラムは、既に狩りを実行している。
「どうする?」
「そーねー……。もう見つかってるっぽいし、あれは無視ね。えーと……この子の名前なんだっけ?」
「エンリルたちは名前教えてくれないんですよ」
「そうなの。じゃあ毒のエンリルちゃん。あっちいきましょあっち」
毛を引っ張りながら向こうに行こうと指を指すが、メイラムは狩りの最中なので一切動かない。
それに対して首を傾げている二人だったが、あの魔物をのじっと見ていることから狩ろうとしているのだと把握することができた。
しかしいくらエンリルだといっても、素早い魔物を捉えるのは至難の業。
あの電撃を纏うエンリルであればその限りではないだろうが……。
「気が付かれちゃ無理よー? おーい。ねーねー」
「リスティ。私たちが背中に乗ってるから駄目なのでは?」
「あ、そうか。気を使ってくれてたのね。じゃあ好きにさせてみせましょうか」
『……終わった』
二人が背中から降りるより先に、メイラムは魔物に向かって歩き出す。
急に動くのでバランスを崩したがすぐに立て直し、毛を掴んで体を支えた。
「え? なになに? 歩いていっても意味ないってば」
「んー……?」
遠めから魔物を見てみるが、特に変わった気配はない。
ならどうしてメイラムは動いているのだろうかと二人は思案するが、やはりよく分からなかった。
だが次第に近づいてくる魔物を見て、ようやく理解する。
魔物は体が痺れているのか、小刻みに痙攣してその場から動けずにいたのだ。
流石に魔物の細かい動きを目で見れるはずもないので、遠目からではよく分からなかった。
「ええ!? どうして!?」
「……この子毒のエンリルだもんね……。でもどうやって倒したんだろう……」
メイラムにとって、動かない魔物はただの的。
小さい毒の玉を浮遊させて運び、体内に忍ばせる。
作り出す毒によって効果は変わるが、今回は体を動けなくさせる毒を作った。
それを目から侵入させ、こうして動けなくさせたのだ。
弱い毒なので食べても問題はない。
だが一応喉に噛みついて骨を折り、その傷口から毒を抜いておく。
毒処理も完璧なので、これで食卓に何の心配もせずに出すことができる。
『次、いくか。人間……魔物を見つけろ』
「もう終わっちゃったよ……」
「あれ? 帰らないんですか? ちょっと毒のエンリルさん? ちょっと?」
これから五時間も狩りに付き合わされるとは思っていなかった二人は、二度とメイラムとは依頼を受けないと駄々をこねたのは内緒の話である。




