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7.12.エンリルたちの強さ

活動報告更新しました。

転狼信に関係のあるお話ですので、良ければ是非。


 酒を高々と掲げたナレッチは、周囲の目を気にすることなく大きな声で演説を始める。


「あれは僕がダークエルフの襲撃に立ち向かった時!」

「あーあー始まったよ」

「ちょっとナレッチ~……やめなよぉー……」


 メンバーが止めるのを無視し、そのままぐっと酒を飲んでから話を続けた。


「君たちは住民の避難誘導、自己防衛のため見ていなかったはずだ。だからここで僕が向こうであったことを話してやる!」

「はいはい、続きを~」

「よぅし!」


 こんな調子だが、ナレッチは酔っていない。

 酒を飲んでいるし、これで何杯目かもわからないくらいだが、彼は酒に酔えないのだ。

 理由は定かではないが、鉄の肝臓の持ち主であることは確かだろう。


 なのでこれから話すことに、嘘偽りはない。

 多少脚色があるかもしれないが、それを頭の中で取っ払ってやればそれらしい話になる。

 何度も聞かされているので、そういったことはこの辺にいる冒険者にとって難しい話ではない。


「僕とハバル、ファイナン、リスティ、ディーナは五人でダークエルフたちに立ち向かった! 奴らの放つ矢は魔法が付与されており、僕のクリエイトグラウンドで作った土の壁も弓矢だけで破壊される程に強かったのさぁ!」


 実際遠くからでもその土の壁は見ることができた。

 それと同時に攻撃が収まったことも記憶しているので、この話は事実だと誰もが理解する。


「だけど壊されるのをただ待っている僕たちじゃない。仮にもギルドマスターとそれぞれのパーティーメンバーのリーダーだからね。土の壁が破壊されたと同時に飛び出し、土煙に紛れて敵の足元まで接近! そしてダークエルフ共が乗っている木をなぎ倒したのさ! ファイナンが!」

『『『おまえちゃうんかい!』』』

「でっきるわけないでしょおおお!? あれが最善だったよ!!」


 周囲はツッコミによって大きな笑いに包まれる。

 何か弁解しようとしているナレッチだったが、笑い声によって誰にも届かなかったようだ。


 今回も自分の手柄にしなかったということにより、現実味が増すという結果になった。

 今の話も嘘ではないだろうと誰もが思った事だろう。

 普通であれば人の手柄を自分の手柄に変換して話を進めるのだ。

 それを珍しいと思いながら、次第にナレッチの話には力が入り、彼の話に耳を真剣に傾ける者も多くなっていく。


 先ほどのツッコミで一時は面白おかしく笑い合っていたが、ナレッチの大きな咳払いで少しずつ周囲は静かになっていった。


「で! それによって多くのダークエルフは始末できたと思う。だが生き残った残党が僕たちの頭上を越えていき、街への侵入を許してしまった……! 勿論すぐに残党を始末しようとした! だが、僕たちは次にダークエルフの援軍を目にすることになったのさ」


 あの数は、当時いた場所からでは詳しい数を把握することができない程に多かった。

 一人は負傷し、一人は街への援軍に向かったため実質戦えるのはナレッチとディーナ、そしてリスティのみとなっていた。

 負傷者一人を守りながらの戦闘は困難を極める。

 それに加えて数え切れない程の敵と戦うのだ。

 不可能、という言葉が一番初めに頭をよぎるのも仕方ない事であった。


「だが僕たちはやるしかなかった! 勝てない戦いだとしても、逃げれば死ぬだけ。死ぬのであれば、戦って死のうと考えたのさ! 残された四人が手に持つ武器に力を籠め、さあ行くぞと気合を入れた瞬間だった!」


 そこでナレッチは机を何度も叩き、音を出す。

 最後に力強く机を殴った後、持っていた酒をドンと置いて手を広げた。


「俺たちの右側から雷の塊が突っ走って来たのさ!」

「……はぁ?」


 何を言っているのか理解できなかった冒険者の一人が、素っ頓狂な声を零す。

 全員が首を傾げ、無言ではあるが理解できないという意思表示を示した。


 雷の塊と言われても、すぐに理解できるわけがない。

 普通の雷魔法でも、細長い黄色い線が走る程度なのだ。


「目にも止まらぬ速さで移動し、その雷の塊は援軍として向かってきていたダークエルフを全て片付けてしまった! それを確認したのか雷の塊は僕たちの左右に降り立ち、その姿を現した……。それこそがあの黒い狼だったのだぁ!!」


 しーんと静まりかえるギルド。

 決まったと思われた演説だったが、まさかここまで無反応だとは思わず逆にナレッチも動揺してしまう。


 だがしかしこれは本当の話。

 珍しく何の脚色もなしにナレッチは真実のみを語ったのだ。


 それに混乱する冒険者。

 全ての話を聞いたが、後半は流石に脚色しすぎだろうと考えていた。

 しかし、あのエンリルたちの攻撃だったということであれば、合点がいく部分もある。

 とはいえその光景を見ていないのも事実。

 信じようにも信じられず、ただ口を開けてぽかんとしているしかなかった。


 だが疑問も生まれる。

 そこまで強い存在なのか、ということだ。

 エンリルたちは一度人間に敗れているということはベリルの説明によって周知されている。


 ナレッチの話は本当だが、それが真実だといえるほどの材料がないのだ。

 どう反応すればいいか分からない冒険者たちは、暫くの間戸惑っているナレッチを見ているしかなかった。


「な、なんだー……よう?」


 その中でも一番困っているのは、ナレッチだった。

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