7.7.力自慢
俺はガンマの所にすぐに向かう。
あの野郎見極めるとか言ってたのに手を出してるじゃねぇか!
それは今の状況ではマズい!
『ガンマ! 何をしている!』
『あー、オール兄ちゃん。放っておいていいよ』
『な、なに?』
駆け寄ってそう言うや否や、ラインが変なことを言った。
それにシャロも同意しているようで、小さく何度も頷いている。
だがガンマの攻撃力は普通の比ではない。
軽く一振りしただけでも地形が変わってしまうのだ。
人間が耐えられるはずがない……のだが……。
「なんだぁ? 意外と弱っちいな」
『……? あれ、動かねぇ……』
一人の男性が、ガンマの振り下ろした腕を片手で支えていた。
手加減しているとはいえ、ガンマの腕を支えていられる人間がいるとは思わず驚いてしまった。
というかこいつ何処かで見覚えがあると思ったら……レイドじゃねぇか。
戦闘中は片手斧を二振り持っていたのだが……流石に今は持っていない。
彼はガンマの腕を魔法を使って支えている様だ。
おそらく身体能力強化の魔法を使用しているのだろう。
ガンマは数回グッグッと抑え込もうとしているが、全く動かないようで首をかしげていた。
一度手をどけてみれば、そこには相変わらず人間が立っている。
『なんだこいつ……』
「はぁ~。俺力が強すぎるから弱っちいのとは相手できねえんだよなぁ……」
『これならどうだ』
ガンマは尻尾を勢いよくレイドにぶつける。
真横から尻尾を薙いだので普通であれば何処かに吹き飛んでいくはずなのではあるが……レイドはそれをまたしても片腕で受け止めて、平然としていた。
ガンマはまだ手加減をしているようではあるが……それにしてもこいつ、めちゃくちゃ耐えるな。
普通に力が強いのだろうか……。
いやにしても人間がそこまでの力を持っているか?
全く動かない様子を見て、流石に少し熱が入ったらしい。
身体能力強化の魔法を使用しない全力の攻撃をレイドに仕掛ける。
だがそれを見てもレイドは動く様子はなく、じゃれてきているのだと勘違いしているようだった。
「そーい」
『!? なんっだこいつ!』
腕を横に掬うようにして振るうのだが、それをまたしても片腕で相殺してしまった。
流石に勢いに合わせてそれなりの力で殴り返したようではあるが……。
よくもまぁ、ガンマの攻撃に耐えられるものだ。
「なんだ! 結構やるじゃねぇか!」
『ッ!』
流石にカチンときてしまったのだろう。
赤い稲妻をバリッと発動させて身体能力強化の魔法を使用する。
腕を振り上げたが、流石にそこまでやるとマズいので……。
『ぐっ!?』
「お!?」
『そこまでだガンマ』
深淵魔法で重力による負荷を掛け、行動を強制停止させる。
その範囲内に運悪く居合わせてしまったレイドであったが、この重力でもそこまで効いていないようだった。
だが動くことだけはできないらしい。
その場で停止して踏ん張っている。
ガンマが身体能力強化の魔法を解除したのを見計らってから、俺も深淵魔法を解除する。
「おおー、なんだ今の! すげえなお前!」
『兄さんなんだこいつ! なんだこいつ!』
『うるせぇ……』
混乱している奴と興奮している奴に別れているが、とりあえず落ち着いて欲しい。
レイドはガンマの力に限りなく近い能力を持っているのだろう。
こいつもあまり本気を見せていなかったようだし、ガンマが出した少しばかりの本気を見てもあまり動じなかった。
地形が壊れない程度に力加減をしてくれているからな。
俺もここ最近はガンマの本気を見たことがない。
あの時から何処までの力が蓄えられているのか気になるところだが、そうすれば確実に問題になるので絶対にさせないけどな。
しかしこのレイドもよくガンマの攻撃を耐えられたものだ。
どちらかというと攻撃を攻撃で相殺している感じだったけどな。
『なんだこいつ!!』
『分かったから騒ぐな。お前みたいに火力に全振りしてる人間だよ。多分』
『なんでこんなちっせぇ奴が吹き飛ばねえんだ!?』
『いや、それはお前の攻撃を攻撃で相殺していたからだろう?』
『そんな器用なことできねえだろ!』
『お前はな?』
そもそもそんなに脅威になるような魔物が現れたこともないしな。
戦闘経験が圧倒的に違うんだよ。
ただ力だけを振り回すガンマとは違うわけだ。
手加減を覚えてくれただけで今はいいけどな。
「おーいベリルの坊ちゃん! 通訳してくれー! こいつ面白そうだー!」
『お、よかったなガンマ。お前気に入られたぞ』
『はぁ!?』
いやそんなに怒るなよ。
お前も今回の作戦に貢献しているってことになるんだからさ。
まぁ不本意なんだろうけどね。
そういえば、今のところこいつらの中での人間の評価はどうなっているのだろうか。
見極めるとか言っていたし、少しは聞いておきたい。
『二匹とも。まだここに来て時間も経っていないが、人間はどうだ?』
『……少なくとも、臭くはねぇ』
『俺はメイラムさんとセレナが、あそこまで人間に触られて何もしていないのが不思議だよ』
『『『ブラッシングというお手入れだそうです! 気持ちいいらしいですよ?』』』
『俺は、いいや……』
うん、まぁ印象は悪くなっていないようだな。
今はそれだけでも良しとするかぁ。
「ベリルの坊ちゃん! 早く通訳してくれ!」
「あ、ごめんなさいレイドさん。セレナ寝ちゃったみたいで……」
「なっ!?」
ブラッシング気持ちいもんね。
わかるわかる。




