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7.5.容体


 ワープで本拠地に戻り、食料を少しばかり持っていくことにした俺は、今現在ベンツの子供にへばりつかれていた。

 振りほどくのは非常に簡単なのだが、流石にそこまで乱暴はしたくない。

 何とか風魔法で転がそうとしているのだが、こいつらも成長に伴って力が強くなってきた。

 以前の様には離れてくれない。


 そもそも何故子供たちが一生懸命俺の毛を噛んでいるのかというと……。


『『『セレナだけずるい!! 外行きたい!!』』』

『ん゛~……』


 とのこと……。

 人間どうこうという話ではなく、洞窟や近場の外以外の場所に遊びに行っているセレナを羨ましく思っていたらしい。

 それはガンマの子共のシグマとラムダも同じだったが、ここまで我儘ではなかった。

 ガンマは意外といい教育をしているようだ。


 しかしこれでは物資を運ぶことができない。

 何とか母親であるレスタンに子供たちを連れて行って貰おうとしたのだが、あいつも日々の子供の世話で疲れているらしく寝てしまっていた。

 ここは俺だけで何とかした方がいいだろう……。


 だけど何か言う度に地雷を踏む可能性がある。

 外に出ているということについて、この子たちは羨ましがっているので外での状況を話しただけでも逆上する可能性があった。

 まぁ子供たちが怒るところも可愛いと言えば可愛いのだが、俺も嫌われたくはありません。

 さて、どうして解決しようかなぁ……。


『子供だぢ。いい加減にしでおげ』

『あ、副リーダーだ……』


 スルースナーが子供たちにそう言うと、すぐに俺の毛から口を離して少し後ずさった。

 耳が完全に垂れてしまっているが……。


『何度も言っでいる。リーダーを困らずなど』

『だってぇー! セレナだけずるいじゃん!』

『私は心配だよぅ……』

『遠い所行ってみたいー!』

『はぁ……』


 ドスの利いた溜息を零した後、スルースナーは鋭い目を子供に向ける。

 それにびくっとして背を伸ばした子供たちは、身を寄せ合って固まった。


『ゼレナはリーダーの役に立づだめに、向ごうへ行っでいる。だがお前だぢのぞの理由ばリーダーのだめになるものでばない。オール様ば優じいがらごうは言わないが、思っでいるごどば同じだ。弁えろ』

『『『はぁい……』』』


 しょんぼりしながら、母親の下に帰っていった三匹。

 少し可哀そうな気もするが、分別は付けてもらわなければいけない。

 今回はスルースナーに助けられたな。

 俺ももう少し手厳しくいしておかないと、こいつらに迷惑を掛けそうだ。


 スルースナーは小さく頷いた後、俺の方を見る。


『余計でじだが?』

『いや、助かった。すまんな』

『いえ』


 そういえばスルースナーは副リーダーって子供たちから呼ばれていたな。

 そんな事を教えたつもりはないのだが、どうやらこれも本能から理解できるものであるようだ。

 俺にはさっぱり分からない事だけどね。


 こいつからリーダーの権限は剥奪していないので、こう呼ばれるようになったのだろう。

 シャロたちに匹敵するほどの実力を持っている。

 あいつら結構強くなったからなぁ。

 しかし、どいつもスルースナーを副リーダーから降ろそうなどとは言わないだろう。

 それだけの実力と統率力を持っているのだから。


 だが最近、調子が悪いと聞いた。

 大丈夫なのだろうか。


『スルースナー。体の調子は大丈夫なのか? メイラムがあまり動かなくなったと心配していたぞ』

『ああ……。オール様ば分かっでいるものだど思っでいまじだが……』

『む?』

『俺の適性魔法……覚えでいまぜんが?』


 スルースナーの適性魔法?

 こいつは骨格変化という特殊な攻撃方法を持つ狼であり、骨の変形には闇魔法を使用している。

 更に身体能力強化の魔法を使用することによって、接近戦では殆どの狼が手を出せない程に強化される。

 戦い方は恐ろしく、妖怪のそれに近いが強い事には変わりがない。

 そして骨格を変形させるとき、必ずといっていい程骨は皮膚を突き破ってくる。

 それによって傷ついた体を、高速回復で傷を治して戦闘をする……捨て身の技。


『あ……そうかお前……』


 回復魔法は、魔力総量を減少させる。

 自身が強くなるために、攻撃魔法は必ずと言っていい程使わなければならない。

 その度に傷つく体を治すためには、回復魔法は必須である。


 スルースナー。

 こいつの魔力総量は、もう残り少ない。


『一定値まで魔力総量が減るど、回復魔法を使わなぐでも減るみだいでず』

『……そう、なのか。……何時からだ』

『オール様が、人間と出会っだ時……いや、レイだぢが新じい拠点へ移っだ時でじょうが』


 そんなに前ではないらしい。

 だがそれでも、死に近づいていく仲間がいると知った途端、俺は胸が痛くなる。


 俺の母親……リンドもそうだった。

 どれだけ魔力総量が回復するあの貴重な魔物を狩ってきても、元気になるどころか衰退していく一方だったな。


 知らなかったとはいえ、リンドやスルースナーは意外と長く生きていたと思う。

 そう言えば、スルースナーは何歳なのだ?


『何歳、どばなんでずが?』

『産まれてから何年の季がを回ったか、と言った方がいいか? 分かり易いのは木だ。葉が枯れて落ちる季節を、何回見た?』

『……ずみまぜん、二十回以上だというごどばわがるのでずが……』

『いや、それだけ聞ければいいさ』


 やっぱりそれなりに長生きしているな。

 エンリルたちの寿命はもっと長いくらいだろうか。

 人間と同じくらいまでは生きそうだ。


 俺も回復魔法を適性魔法として持っている。

 他の奴らのことを言ってはいられないかもしれないな。

 ま、スルースナーがここまで生きているんだから、それはもう少し先の話になりそうだが。


 ……だが俺は……アルビノだったか。

 俺が死ぬまでに、何とかしないとな。

 よし、じゃあ食料持って帰るか。


『スルースナー。無理するなよ』

『勿論でず』

『……死期が来たら……絶対に教えろよ』

『? 面白いごどを言いまずね。……でも、分がりまじだ』


 お互いに小さく頷き合い、俺はその場を後にした。

 向こうの事も心配だ。

 早く帰るとしよう。

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[一言] スルースナー……お前……
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