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2.8.試し撃ち


 敵のリーダーが尻尾を操って攻撃してくる。

 今回それは回避しない。

 俺は光魔法を使用するため、魔素を吸い込んで魔力を作り出す。


 眼前の尻尾が迫るが、その瞬間……尻尾は軌道を変えて俺の隣に叩きつけられた。


「?」


 何が起こったのかわからないようで、一瞬だけ威嚇する表情が溶けた。

 しかし、気を取り直して尻尾をこちらに戻そうとした敵のリーダーだったが、尻尾が動かない。


『っしゃ成功! 光魔法・太陽の杭!』


 光魔法・太陽の杭。

 これは太陽の光から相手を拘束するための杭を作り出す魔法であり、俺のオリジナルだ。

 使用するには太陽が出ていて、しっかりと地上に日の光が届いていないといけないという条件があるが、今日は快晴。

 条件は整っており、その威力も相当な物だ。

 その証拠として、尻尾が動かせていない。


 この魔法にダメージはないのだが、確実に拘束できる。

 だが一本だけでは心配だ。

 俺はさらに杭を作り出し、長くなった尻尾に杭を打っていく。


「グルルルルル……」


 完全に動かせなくなった尻尾を忌々しく見ているが、そうかと言って状況が変わるわけではない。

 尻尾を元に戻そうにも、もう戻せない様だ。


 さて、あいつに火力重視の攻撃は効かない。

 となれば……属性を変えて撃ち込んでみよう。


『水魔法・水狼!』


 自分と同じ大きさの水狼を三体用意する。

 水狼は、水を一から作る場合は、最大五体までしか作れない。

 もし水があれば、それに魔力を通して操ることが出来るのだが、今はないので自分で作るしかなかった。


 とは言っても、魔法で作り出した水で水狼を作り出す場合、その威力は断然に強くなる。

 言ってしまえば魔力の塊なのだ。

 湖なんかで水狼を量産する場合は数だが、魔力で作り出す場合は質となる。

 それに、数が少なければ少ないほど、操りやすい。


 三体の水狼が駆け出し、敵のリーダーに向かって行く。

 敵のリーダーは動くことが出来ないので、腕を振るって応戦するが、その場に固定されているため実力を発揮できないでいる。

 すぐに三匹に取り押さえられ、動けなくなった。


「グルルル……!」

『負けは認めそうにないね。じゃ……ちょっと痛くするよ』

「!!」


 水狼は爆発する。

 爆発というより破裂だが、魔力で水を凝縮して象っているので、魔力を一瞬でも抜けば水狼は形を維持できなくなるのだ。


 三匹の水狼は、一瞬体を歪ませて破裂する。

 三匹なのでそこまで威力はないが、それでも地面を少し削る程度の威力は持ち合わせていた。

 破裂に合わせて敵のリーダーが躍る。

 一時的に耐え忍んでいたが、ガクリと崩れ落ち、息を荒げて地面に伏せていた。


 風刃のような切れ味のある攻撃は尻尾によって防がれてしまったが、衝撃波は流石に受け流しきれないらしい。

 そもそも、硬いのは尻尾だけかもしれないな。

 それだけでも脅威と言えば脅威ではあるが。


「キャウゥウッ!」

『え!? 何!?』


 突然、敵のリーダーが苦しみだした。

 相変わらず尻尾が固定されてしまっているので、暴れるにしてもその場でしか動けないわけだが、ひっくり返ったり足をバタバタと動かしたりしている。


 すると、一度口をぐっと閉じた。

 次の瞬間、ベッとどぶの様な色の丸い塊を吐き出す。

 それは地面を溶かしながら数回バウンドして転がっていき、停止した。


 一体なんだと思ってそれを見ていたのだが、敵のリーダーも気になる。

 そちらも見てみると、異様なことが起こっていた。

 敵のリーダー体が縮み始めていたのだ。


 ぐったりと横たわっているのだが、体がどんどん小さくなっていき、最終的には俺と同じくらいの大きさとなった。

 全体的に痩せこけていて、先ほどまで戦っていた奴とはかけ離れている。


『不味い! オール! 今こいつが吐き出した奴に炎魔法を撃ち込め!』

『えぇ!? わ、わかった!』


 オートにそう言われて、すぐに炎魔法を発動させる。

 炎魔法はまだ調整が難しくて、最大火力しか出せないのだが、この際問題ないだろう。


『炎魔法・炎上牢獄!』


 ターゲットを絞り込み、その四方に火の柱を地面から出現させる。

 動かない相手だからこの魔法が通じるのだが、動く相手だと出現させる場所を指定させるのに時間がかかるためあまり使えない。

 だが、当たれば回避不能の強い魔法だ。


 火の柱と柱の間隔を徐々に狭めていき、最終的には一本の柱にさせる。

 逃げ場所は上空しかないのだが、相当な脚力がなければ飛び越えるなんてできないし、上に行けば行くほど火の温度も上がる為、それに耐えれる奴もなかなかいない。

 完全に焼き切ったと判断して、俺は炎上牢獄を解除する。


 そこには黒く焼け焦げた地面が残っており、先ほどの塊は消えていた。

 消滅を確認した俺は、すぐにオートの方へと駆け寄る。

 するとオートは、闇魔法で敵のリーダーに魔力を付与していた。


『何してるの……?』

『見ての通りだ。さっきの奴に魔力のほとんどを吸われて危険だったから、こうして魔力を分けてやっている』


 ……全然気が付かなかった……。

 あの一瞬でそんなことが起こっていたのね……。

 ていうかあれは何?


『ねぇ、あの塊って何?』

『名前は知らんが、寄生する生物とでも思っておけ。寄生される代わりに、体の一部が変化して強さを得るが……尻尾の毛が変化しているとはな。気が付かなかった』

『涎が地面溶かしてたけど……それは違うの?』

『闇魔法に似たような魔法がある。あれが本来のこいつの戦い方だろう』


 そんな怖い魔法が闇魔法にあるんですね……。

 闇魔法ってどういう物を言うのかよくわかってないんだよなぁ。

 ワープでしょ? あと魔力譲渡、魔力奪取、それに加えて酸。

 移動と魔力、そして……まぁ言ってしまえば薬物?

 ん~全部危ない物って言ったら危ないものだよなぁ。


 と、まぁそれは置いておいて……さっきの寄生生物。

 こいつが狼に寄生して、他の狼を使役していたのだろうか。

 あの寄生生物は一体何がしたかったのだろう。


『おーい! おおーい!』

『あ、ガンマ! 無事だったか!』


 戦闘に集中して気が付かなかった。

 見たところガンマは一切怪我をしていないようで、非常に元気だ。

 何処か切羽詰まった感じがするが、気のせいだろう。


『兄さん助けて!!』

『え? 何をよ』

『がんまぁああああ!!!!』


 すると、ガンマの後ろからベンツが飛んできた。

 文字通り、飛んできたのだ。


 ベンツは勢いを殺さないようにして、器用にガンマの首根っこに噛みつき、体重をかけてガンマを転倒させる。

 ガンマは抵抗しようとしたが、流石に首根っこを噛まれてはもう動けない。

 これは子供の頃からの癖である。

 ガンマはきゅっと縮こまって、ずーんと気を落としていた。


『ガンマこの野郎。お前助けろよ! 自分で仕掛けた罠だろ逃げんな!』

『だってベンツ怖かったんだから仕方ないだろ!』

『その体躯で怖いとか言われても説得力ないわ!』


 確かに。

 ガンマより俺の方が体はでかいけど、筋肉量はガンマの方が圧倒的にあるんだよなぁ。


『まぁまぁ、お前ら。とりあえず落ち着け。ベンツ離してやれ』

『……はーい』


 俺がベンツにそう言うと、口を離した。

 ガンマはフルフルと体を振るって、立ち上がる。

 さて、とりあえず全員が無事だったという事に安心したので、後はオートに判断を任せよう。


 オートの方を見てみると、何かを考えているのか、遠くの山をじっと見ている。

 俺も見てみるが、やはり山が見えるだけで何かが見えるという事はない。


 俺たちを見て、ベンツとガンマも同じ方向を見るが、やはり首を傾げている。

 一体オートは何を見ているのだろうか。


『こいつはリーダーじゃない』

『……え?』

『? どういう事?』

『さ、さぁ……。てか僕に聞くなよ……』


 オートは今俺が倒した狼は敵のリーダーではないと言い切った。

 では俺は一体何と戦っていたんだ?

 寄生されただけの狼……?


『お父さん、どういう事?』

『山の上に同じような奴がいる。ずっとこっちを見ているぞ』

『同じってどっち……? 今俺が倒した奴と同じ奴? それとも……一番初めにお父さんが山で見た奴?』

『後者だ』


 ……てことは、こいつリーダーじゃない!

 でも姿は似ていたはずだ。

 姿が違えばすぐにでもお父さんが指摘してくれただろう。


『え、ちょっと待って? 寄生された狼がまだいるって事!?』

『恐らくな……。あいつに増殖能力があるとは思えなかったのだがな……』


 さっきみたいな奴がまだ沢山いるかもしれない。

 そう思うと、少し怖くなった。

 だが、ここでやらなければ、俺たちの群れも寄生された狼に取り込まれてしまう。

 それは何としても避けて通りたい道だ。


 そういえば、寄生されていない狼もいた。

 なぜ寄生されていないのかはわからないが、それでも従っているという事は、寄生された強い狼に、あの狼たちは負けてしまったのだろう。


 今まで戦って来たのは前衛。

 これから戦いに行くのが本体だ。


『お前たち、行けるか?』


 オートが俺たち三匹に聞いてくる。

 本当であれば、オートは一人で片づけたいのだろうが、流石に寄生された狼の数がわからない以上、単独で行くのは避けたいと思ったのだろう。


 俺たちは、この日初めてオートに頼りにされた。


『当たり前だぜ!』

『寄生された狼ってのが何かわかんないけど、僕も大丈夫』

『弟が行けるっていうのに、長男が行かないってのも変だしな』


 オートは俺たちのその反応に、少し安心したようだ。

 それからオートは前を向き、最後にこう言った。


『ついて来い』


 オートが駆けだしたと同時に、俺たちも駆けだしていった。

 今回はガンマがいるので、ガンマの速度に合わせて走る。


 俺たちは、本当の敵のリーダーを倒すため、敵陣へと向かったのだった。


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