6.46.血印魔法
セレナはベリルに飛びつき、頭を擦り付ける。
小さな毛玉に襲われたベリルは転び、されるがままになってしまっていた。
「うわっちょ! ちょー!」
「キュー♪」
『おいセレナぁ!? お前何時から潜んでやがったぁ!!』
『『『最初からです』』』
『三狐共ぉ!! 最初に言えやぁ!!』
またお前らはぁ!!
ていうか匂いしなかった……って三狐に包まれてやがったのかこいつ!!
冥の変毛だな!?
おい変な黒いの転がってんぞ!
『……』
『!? ベンツ兄ちゃん! ストップ! ストーップ! 気持ちは分かるけどストーップ!』
『グルルル……』
『お願いだから! 今は! 今だけはああ!!』
おい急に修羅場になってんぞ。
どうしてこうなった。
おいこらそこの車。
そうだ、君だよセレナ君。
今回の原因は完全に君だからな。
「な、なんだ……?」
「こ……この子が僕が助けたエンリルの子供なんです……」
「めちゃくちゃ懐かれているじゃないか」
まぁ恩人だしな……。
あの時からしつこく会わせてくれって言ってたもんなぁ……。
だがこれからどうしたらいいんだ?
一回帰るか?
その方がベンツの為にもなるかもしれないけど……今帰るのか?
この機会を逃すのはあまり良くないとは思うんだけどなぁ。
できるときにやっておきたい……話付けておきたいんだがどうすれば……。
「はい、ストップ! 待って! まぁってー!!」
だがセレナは止まらない。
いつも以上に荒れている気がするのだが……。
ガブッ。
「痛ッ!!」
「!? 大丈夫かベリル!」
突然、セレナがベリルの足に思いっきり噛みついた。
牙が皮膚を貫いて血が流れる。
それが口に入ったのかセレナは口の周りをペロリと舐めた。
急に噛みつかれたことに驚いていたベリルだったが、途端に落ち着いたセレナを見て首を傾げる。
何かに気が付いたようで、すすっと近づいて声を掛けた。
「……え?」
『! やったー! 会話ができるぅー!』
「どええええ!?」
セレナはベリルの周囲をそれなりのスピードでくるくると回り始めた。
俺もこの二人が何を言っているのか理解することができず、暫く呆然としているしかなかった。
一番衝撃を受けているのはベンツであり、完全に口を開けて固まっている。
人間を嫌っている親と、逆に好いている娘……。
まさかこうなるとは思ってもみなかっただろうな……。
ていうか、どういう事だ?
どうして会話ができるようになったのか……。
血を舐めたから?
…………。
あっ、血印魔法か!?
俺が初めてリューサーとあった時、そんな契約魔法を結んだ記憶がある。
でも少し違うな。
俺があいつと契約を結んだときは、血の上に血を垂らすというものだった。
しかし今回は狼側が血を摂取するという物……。
様々な契約魔法があるってリューサーも言っていたし、血印魔法の発動条件は他にもあるのかもしれない。
今回がそれだったというだけで……。
だけど、血印魔法って結構強力な契約魔法じゃなかったっけ?
狼側の一方的な契約だから、そんなに厳しいデバフがかかる様な物ではないだろうけど、その辺はリューサーに聞きに行った方がよさそうだな。
また今度竜のリーダー争いの進捗を聞きに行くついでに聞いてみることにするか。
「わあ! どうして!?」
『やったぁー!』
「……べ、ベリル……。どうした? 説明してくれると助かるんだが……」
「会話できるようになりました!」
「はぁ!?」
「「「はぁ!?」」」
ヴァロッドだけでなく、後ろに待機していた兵士たちも驚いている。
こんな事は今までの前例のない事だった。
それは人間も、エンリルも同じことであった。
冒険者一人、騎士一人が後ろから歩いてきて、ヴァロッドの後ろでその狼を見る。
一人はディーナで、もう一人はレイドという名前の人物だ。
「どうなってんだよマジでよぉ」
「知らないね……。ヴァロッド、様。どうすんだい?」
「今は無理に様付けしなくてもいい。というかやることは一つだろう」
ヴァロッドはベリルを立ち上がらせ、セレナと一緒に前に出す。
その行動にベリルだけが混乱しているようだったが、他の三人は意味を理解していた。
「ベリル。会話ができるという事であれば、彼らとの通訳を頼みたい」
「!? 僕が!?」
「大丈夫だ。私たちには敵意がないと伝えてくれればいい」
ま、そうなるわな。
こんな展開になるとは想定していなかったが……これが一番いい方法だろう。
……分かったからそんな目で見ないでくれベンツ。
こうなるとは思ってなかったんだから。
てか解除できるんだろうか……。
セレナの様子からして会話ができることを喜んでいるし、解除できたとしてもする気は無さそうだ。
とりあえずここでの会話を終わらせることにしよう。
じゃないとベンツが本当にやばそう。
『セレナ。説教は後でするとして、人間との会話の通訳を頼めるか』
『おこらないならやるー!』
『……クッ……仕方がない。分かったから頼むぞ』
『あいっ!』
速いこと終わらせよう……。




