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6.44.余計なお世話


 目の前に出てきたダークエルフは、既に体に火傷を負っている様で、腕を抑えていた。

 その部位の服は燃え焦げており、炎に触れてしまったことを物語っている。


 耳は横に長く、肌は全てが黒い。

 獣の皮でできた服装は既にぼろくなっているのだが、それでもまだ使えそうだ。

 彼は他のダークエルフとは違って弓ではなく石槍を持っているのが特徴であり、それには葉が巻き付けられていた。


 女らしい容姿をしているが、こいつは男だ。

 エルフが美形とはよく言った物だが、男まで女に似せることはないだろうに。


 すると、そのダークエルフは大きな声を上げて抗議する。


「何故我々なのですか! なぜ人間ではないのです!?」

『……お前は俺の言葉が聞こえるんだったな』

「勿論! 聞こえますとも!」

『ではお前の問いに答えよう。……邪魔するからだ』


 それを聞いて、ダークエルフはきょとんとした表情をした。

 だがすぐに首を振って抗議する。


「我々が何をしました!? この者たちは今日貴方様方の為に戦いに身を投じている! 今からでも遅くないです! 人間共を──」

『余計なお世話だ』


 こいつは、俺たちの事を考えて行動はしていない。

 自分たちが都合の良い様になるようにと、行動しているだけだ。

 そんな奴らに手を伸ばしてもらおうとは何があっても思わない。


 しかし、こいつ自身はそれが正しいと思っているのだろう。

 この辺は人間と同じだな。

 だが彼らは変わり……こいつらは変わらない。

 今までと同じ様な人間との関係性を保とうとしている。


 それが続く限り、俺たちに真の平和は訪れない。


『俺たちは人間との協定を結ぶ。未来の子供たちの為に。だから今お前らに人間を殺されるのは……困るんだよ』

「…………は、はははは……」


 濁っている目が、更に淀んだ気がする。

 途端持っている槍を構え、睨みつけて来た。


「何者だ……貴様は何者だ……」

『お前らの言う所のフェンリルだろう』

「違う、我らが崇拝するフェンリル様はそのようなことは絶対に言わない……! そんな事は考えれない……!」

『……なに?』


 ちょっと待て。

 おい貴様、それはどういう意味だ。


 言わないという意味は分かる。

 あんなことがあった故にここまで考えを変えることは難しいだろうからな。

 だが“そんな事は考えれない”とはどういう事だ?


 すると、そのダークエルフは次の言葉を口にした。


「その人格は何者だ!!」


 ダンッと足を踏み込んで持っている槍を横凪に振るう。

 すると地面が隆起して鋭利な土が押し寄せる。


 今の言葉に驚いてしまった為一瞬反応が遅れたが、それでも風刃でその土を切り裂く。

 軽い一振り細切れにされた土は、砂煙を上げて崩れ去る。

 だがその隙間から飛び出してきたダークエルフは、俺目がけて槍を投げつけた。


 見た所風魔法を纏わせて威力を上げている様だ。

 だがその程度の魔力では俺の毛すら切る事は出来ないだろう。


『水魔法、銃水弾』


 一つの水の弾丸だけで、石の槍を粉砕する。

 脆い攻撃で、銃水弾は未だに健在だった。

 それ故にダークエルフへと向かって行き、その腕をかすめる。


「チッ!」

『もういいか。これだけ森も壊れている。試し撃ちには……丁度いい。土魔法、土狼』


 トンと腕で地面を軽く叩き、一匹の土狼を召喚する。

 すぐに声のない遠吠えをさせ……土狼の波を引き起こす。


 その土狼の波は、昔の物とは違った。

 全ての土狼が狼を忠実に再現しており、牙や爪などが剥き出しになっている。

 それが口をカッカッと鳴らしながら波となって突撃していく。


「!? な、な!!」

『色々聞きたいことはあったが、これ以上は話などできないだろうからな』


 逃げていくダークエルフだったが、波の勢いを逃げ切れる者などいない。

 相当速くなければ絶対に飲まれてしまうだろう。


 彼もその事は気が付いているだろうが、諦めずに逃げていた。

 この土狼は、敵を飲み込むまで止まりはしない。

 すると土狼の奥の方で、叫ぶ声が聞こえた。


「貴様ぁ! 絶対に……絶対にそのフェンリル様から引き剥がしてやるからなぁ! 待っていてくださいフェンリル様ぁ! この、このフスロワが必ず貴方様を助け──」


 俺の耳に最後に聞こえたのは、そう叫ぶ男の声であった。


 ……俺に人格、という言葉を使ったか。

 この体……本当の体じゃないもんな。

 俺の魂がこの体に宿り、こうして人間の頃の記憶を保持している所から考えて、本当のこの体の人格……というか狼格か?

 そいつは何処に行ったんだろうな。


 まぁ確かに、人間の思考を持っていなければこういう考えは絶対に思い浮かばないだろう。

 あいつはそれに気が付いたようだが……他にも何か知っていそうだったな。

 ま、聞いたところで話してはくれなかっただろうが。


 ……あっ……。

 冥の洗脳魔法があったの忘れてた……。

 使ったの一年前くらいだったしなぁ……まぁいいか。


『ヴェイルガ。残党を始末しろ』

『分かりました! 行くよ!』


 ヴェイルガは連れて来た一角狼の部隊を引き連れ、残党を狩りに行った。

 ここはあいつらに任せておけば大丈夫だろう。


 さて、俺は向こうに行くことにするか。

 匂いからして、既に戦闘は終了している様だ。

 ベンツとラインもそこにいるようだが、人間にはまだ姿を見せていないらしい。

 森の中で待機している。


『よし、行くか』

『『『お供します』』』


 三狐の言葉を聞いた後、俺はヴァロッドに会うため人間の里へと向かうのだった。

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