6.42.守り手ヴァロッド
襲撃との報告を聞いたのが十五分前。
それから装備やら騎士団を動かしていたのでここに来るまでに時間がかかってしまった。
もう少し常駐している騎士団の動かし方を変えなければならないなと思いながらも、先行してくれていた冒険者とレイドたちに合流した。
「すまん遅れた!」
「おうよ! 早く展開してくれ! 被害がやべぇ!」
「分かっている!」
身の丈ほどある盾を掲げ、地面に付き刺す。
「光魔法、ディフェンダーガーディアン」
周囲に光の円が広がっていく。
するとその光の円に触れた人たちに小さな光がくっついていった。
暫く広がり続けていくのを確認した後、ようやく盾を引き抜いて前線へと歩いていく。
「これで大丈夫だ!」
「助かった! ヒーラーは!?」
「後方に待機させている! 敵の数は!」
「敵はダークエルフ! 数は……詳しくは分からん! 散開しているから全方位に注意を払ってくれ!」
周囲には逃げてきた冒険者や住民が多く居て、怪我人や死者が多数地面に転がっていた。
それをみて歯を食いしばって遠くの方へ睨みを利かせる。
重い装備だと思われるそれを軽々と動かし、巨大な盾を片手で持ちながらずんずんと歩いていく。
「レイド。三分の二の兵士を連れて右側へ行け。私は残りを連れて左へ行く」
「あいよ! 六分隊までは俺に続けぇ! 行くぞぉ!」
兵たちが分かれ、敵を索敵しながら進んでいく。
ヴァロッドは拳にいれる力を増しながら、戦場であるこの場を用心深く見渡した。
「重装歩兵前へ! 冒険者及び民を守れ! 弓兵は後方へ! 半分は建物の上に立ち高所を取って索敵! 他の者は私に続け!」
『『『『『はっ!』』』』』
指示通りに動く彼の兵士の動きは非常に速い。
慣れている場所での活動なのだ。
誰もがこの街を知り尽くし、自分の家の庭のように動き回ることができる。
地の利はこちらにある。
それを最大限利用する為に、ヴァロッドはあえて兵を分断させた。
各々が最適だと思う行動を取る事こそが戦場では一番頼りになる行動になりえるときもあるのだ。
少し進むとダークエルフの兵士だと思われる人物が屋根の上から狙撃してきた。
だがその攻撃は小さな光によって全て弾かれてしまう。
「!?」
「貴様らか。ふん!!」
後方にいる自分の兵士に頼ることなく、彼は地面を思いっきり殴る。
すると地面が割れて隆起し、ダークエルフが乗っている屋根の上までの道が出来上がった。
建物の上にいる彼らは揺れでバランスをとることが精いっぱいだったようで、隆起した地面を登って来たヴァロッドに対応することができなかった。
片手で持っている盾を思いっきり横に凪いで鈍い音を鳴らす。
人から出てはいけないような音が鳴ったと思ったら、放物線を描くことなく殴られたダークエルフは遠くの壁を一枚貫通して地面を転がっていった。
殴り抜いた瞬間隣から矢が放たれたが、それを盾で防いだ瞬間真っすぐ突撃していく。
走ることはせず、足場にしている屋根を蹴る一歩でのシールドバッシュ。
ゴンッという音の中に骨が軋む音と砕ける音、中の肉が弾ける音が誰の耳にも聞こえる程の勢いで突き飛ばされたダークエルフは、同じ様に遠くに吹き飛んでいってしまった。
それに満足することをしないヴァロッドは、大きな声を上げてダークエルフに宣言をする。
「ダークエルフ共! 我が領土に入ったことを後悔するがいい! 守り手ヴァロッドがいる限り、これ以上の戦死者は貴様らだけになると知れ!!」
その宣言が合図だったかのようにして、様々な場所から悲鳴が上がる。
それはダークエルフたちの物であり、一つとしてライドル領の兵士、民、冒険者のものでは無かった。
「反撃だ!」
勇敢なヴァロッドを見た兵士たちが湧き上がる。
それは騎士団に留まらず冒険者も歓声を上げた。
ライドル領の中に入ったダークエルフが殲滅されるのは、そう時間のかからない事だったようだ。
これはここで奮闘するヴァロッドと、ここにいる数十倍の兵士と戦うオールのお陰であったのだった。
 




