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6.30.無事を報告


 ギルドに向かうと、そこには多くの冒険者が何かの準備をしてる所だった。

 準備と言うよりは、既に出発できる状態であるようには感じられるが、馬車に物資など多く積み込んでいるという事が分かる。


 結構小さそうな里だと思ったが、想像以上に人間がいた。

 ここにいるのは全員が冒険者のようで、様々な防具を着たり武器を持っていたりする。

 まともに人間と戦ったことはない俺は、こうして武器屋服装をしっかり見るのはこれが初めてだ。


 これだけの冒険者がいるのであれば、この里はそれなりに潤っているのだろう。

 その証拠にここまでの道中で様々な行商人が店を出していた。

 家の中で商売をしている場所も何個かあったが、その数はまだ少ない。

 しかしこの里は早い段階で発展していくだろう。


 移動をしている冒険者に、ベリルは声をかける。


「皆何してるの?」

「ああ? 何って……お前を探しに行くんだろうがよベリル」

「そうだぞー」


 そこで周囲にいた全員が固まった。

 一斉にベリルに目線が向いたと思った瞬間、驚愕の声が発せられる。


「うわびっくりした……」

「お前!? お前ええええ!?」

「びっくりしたじゃねぇよ! 心配かけさせやがって!」


 明らかに強面の冒険者や、それなりに身なりの整った冒険者からそんな言葉を受け続けるベリル。

 撫でられたり持ち上げられたりと目まぐるしい。


 やっぱり捜査隊が結成されそうになっていたのか。

 いやぁマジでギリギリだったな。

 ていうかちょっ……潰れる……土狼が潰れるからお前らもう少し優しく扱え!


「どういう状況なの!?」

「お前二日間もどこ行ってたんだよ! そのせいでヴァロッド様がご乱心だ!」

「お父様が?」

「ああ。冒険者時代の装備引っ張り出してくるくらいだからな。俺たちも心配で捜索隊を結成したところだったんだ」


 話を聞いてみると、ベリルが帰ってこなかった初日……。

 矢で射られたその日の夜だな。

 ヴァロッドが領地の中を駆けまわって全力で探していたらしい。

 それを聞いた冒険者たちが協力し、ベリルの捜索を開始し始めた。


 その日の夜は見つからず、次の日も見つからなかったので、ヴァロッドがついに冒険者ギルドへ正式な捜索依頼として捜索隊を結成したらしい。

 一日ではその手続きができなかったので、今日の朝までかかってしまったのだとか。

 そして帰って来た、と言うのが今回の話の顛末となっている様だ。


 こいつ結構慕われてるんだな。

 ていうか領主の息子だったのか……。

 貴族かそれくらいの立ち位置の人間だとは思っていたが……ちょっと予想外だったな。


 説明を軽く終えた冒険者の一人が、ベリルの肩を掴んで真剣な面持ちで言葉を放つ。


「早くヴァロッド様を止めてくれ!」

「うん、それがいいと思う……」

「えっ? お父様今何してるの?」

「暴走してるとしか言えんな……」


 その言葉に周囲にいた全員が頷く。

 どうにも手が付けられない状況らしい。


「もう他国と戦争しそうな勢いだよ……」

「止めてよ!」

「無理だわ! あの元冒険者のヴァロッド様だぞ! 俺たちが敵うはずねぇだろ!」

「あれ、お父様ってそんなに強いの?」

「ああ、強い。ドラゴンの打撃を受け止めるくらいには強い」

「ええ……」


 それは流石に嘘だろうと思いながら目を細めるベリルだったが、冒険者たちはそれが事実であるような表情を見せてくる。

 信じてはいないという事は分かったようだが、今はヴァロッドの元へと向かう様にと急かされた。

 とりあえず無事を報告しに行く為、ベリルは指定された場所へと向かう。


 人間があのドラゴンの攻撃を受けるってのはちょーっと盛りすぎじゃないかなぁ?

 俺もドラゴンと初めて対峙した時、空間魔法が使えなかったら吹き飛ばされてただろうし。


 そう言えばあれからリューサーと連絡が取れていない。

 元気にやっているといいのだが。


 俺がそんな事を考えていると、ベリルは冒険者ギルドの奥へと入って行った。

 ヴァロッドはどうやら中にいるらしい。

 冒険者たちに帰還を歓迎されながら向かうのは少々気恥ずかしかったようだが、そのおかげか足は速く動いたようだ。


 ヴァロッドがいるという部屋を開けると、そこには数人の人物が立っていた。

 自分の背の丈ほどある盾を持った赤髪の男性と、屈強な肉体を有している大きな斧を二つ背に背負っているオレンジ色の髪をした男性。

 そして不気味な様子でこちらを伺う全体的に黒い女性と、今から畑仕事にでも行くかのような姿をしている少し年老いた女性。

 彼ら彼女らが一斉に扉の方へと目を向けてくる。


 だが一人として喋らない。

 そんな沈黙が数秒続いたが、ベリルが言葉を発してから流れが変わる。


「あ、えーっと……ただいま?」

「……ッ! ヴぇりるぅうう!!!!」

「うわーー!!」


 机を盾で踏みつぶし、最短距離で赤髪の男性がベリルを抱き上げる。

 髭が顔に刺さって非常に痛そうにしているが、そんなことお構いなしに強く強く抱きしていた。


「いたたたた!」

「ヴぇええりいいるぅうう!!」

「ごめんなさい! わかりましたから! お父様! 痛いから放してください!」

「うおおおおおおおお!!」

「お父様ー!!」


 号泣しているこの男性こそが、ここの領主であるヴァロッドなのだろう。

 随分重そうな装備をしているが……こんなんで動けるのか?

 まぁ今動けているから戦闘には問題ないのだろうけども……。


 他三人はやれやれと言った様子で肩を竦めている。

 斧を持った男性は盾をどけて壊れた机を始末している最中だ。


「ああ、ああ。悩み事が減ったよ本当に」

「そうだねぇ。ったく、このきかん坊は全部投げ出してまでこっちに来おってからに……」

「うちの主が申し訳ねぇ」


 女性二人も書類などを全て片付け始めてしまった。

 どうやらここにある物全てがベリル捜索に使用する予定の物であったらしい。

 何が書いてあるのか非常に気になるところではあるが、何とか森の奥を捜索させることを中断することができた。


 とりあえずは一件落着だな。

 ここに来るまでに解散する流れの者もいた様だし、暫くすれば事情が説明されて捜索隊は解体されるだろう。


「ぬおおおおおおお!!」

「ふぬぅー……!」


 ベリルは必死に潰されないように抵抗している。

 このおっさんが落ち着くまではあんまり話は聞けなさそうだなぁ。

 ま、暫く待つとしますか。


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